「利他の心」という言葉を聞いたことはありますか? あまり馴染みがないかもしれませんが、「自分のことよりも他人の幸福を願う心」という意味の言葉です。今回のテーマは「利他の心」。その意味や波及する効果についても考えてみましょう。決して無理はせず、「できる範囲で人に尽くす」ことを心掛けるだけでも、自分の環境を居心地よく整えることができるかもしれません。

「【目次】

自分のことよりも他人の幸福を願うこと。。
自分のことよりも他人の幸福を願うこと。

【「利他の心」を正しく理解するための「基礎知識」】

■読み方

「利他の心」は「りたのこころ」と読みます。

■意味

「利他」とは、「他人の利益となるように図ること。自分のことよりも他人の幸福を願うこと。自分を犠牲にして、他人のために尽くすこと」。このような気持ちで周囲に接する心のありようを「利他の心」と言います。自己チュー(自己中心的)な人が多いと言われる現代で、多くの人が他人を思いやる「利他の心」をもてたら、すべての人が生きやすい社会が実現可能なのかもしれません。

■誰かの「名言」?「由来」はある?

仏教用語における「利他」は、「人々に功徳・利益(りやく)を施して救済すること」を意味し、特に阿弥陀仏の救いのはたらきを指しています。ただし、自分のことよりも他人の幸福を願う「利他」という概念は、仏教や道教、ヒンズー教など、さまざまな宗教によって説かれています。これらの伝統的な概念において「利他の心」は、精神的な解放と悟りへ導くものとされているのです。「利他の心」という言葉自体は、誰か特定の人の「名言」というわけではありませんが、株式会社の京セラ創業者の故・稲盛和夫氏が「利他の心」について語ったことから、広く一般に知られるところとなりました。


【「利他」を表す具体的な「事例」は?】

■利他的行動

自己の損失をかえりみず、他者の利益を図ろうとする行動を指して「利他的行動」といいます。一般的には、人が他人の苦境に際して、労力的・経済的・精神的などの援助をする行為を指しますが、社会生物学や行動生態学では、次に説明する「利他行動」という特別な概念として用いられています。

■利他行動

「利他行動」は生物学の用語で、ある個体が自己の不利益にかかわらず、他の個体に利益を与える行動のこと。例としては、働きアリや働きバチが自分の子でない子の育児をしたり、鳥類や哺乳類が警戒声を発しながら敵に立ち向かう行為が挙げられます。それぞれの行為は自身の生活や自己の繁栄には有利ではなくとも、社会生活を営む同種集団にとっては利益があるためではと考えられています。たとえ自己は犠牲になっても同類の遺伝子を受け継ぐ多くの血縁者を生き残らせることで適応度を増し、進化を促すとされています。


【「使い方」がわかる「例文」4選】

■1:「京セラを一代で巨大グループに育て上げた故・稲盛和夫氏は、京セラフィロソフィとして常々『利他の心』を説いていたことで知られる」

■2:「 経営者が『利他の心』をもつことと企業の業績を伸ばすことは、決して矛盾するものではないはずだ」

■3:「利他の心をもつ○○部長は、その人柄から厚い人望を集めている」

■4:「状況が厳しいときこそ、『利他の心』でチームの役に立つことを考えたいものだ」


「類語」「言い換え」表現】

「利他の心」と似た意味をもつ言葉をいくつかご紹介しましょう。

■自利利他(じりりた)

■自益益他 (じやくやくた)

■自利利人 (じりりにん)

■ 自行化他 (じぎょうけた)

上記4つの言葉はすべて同じ意味をもつ仏教の言葉です。「自利」とは、「自らを利する」という意味で、自己の解脱 (げだつ) のために努力し修行すること。「利他」とは、「他の人々の利益 (りやく) を図る」という意味で、人々の救済のために尽力すること。大乗仏教では、この「自利」と「利他」がともに完全に行われることを理想としています。また、「利他のために自らの人格を完成すること」を目指しています。

■他愛

「他愛」は「自分のことよりもまず他人の幸福や利益を考えること」。「愛他」とも言い、「利他」とほぼ同じ意味の言葉です。

■無私

「無私(むし)」とは、「私的な感情にとらわれたり、利害の計算をしたりしないこと。私心がないこと」。「公平無私」とは「私的な感情や利益を交えないこと」です。


【「対義語」は?】

「利他の心」の対義語は何か、おわかりですか?

■利己の心

「利己」とは「自分ひとりの利益や都合ばかりを考えること」。エゴイズムとも表現でき、「まずはほかの人のため」を優先する「利他の心」とは反対の意味になります。


【「英語」で言うと?】

「利他」を英語で表現すると[altruistic]もしくは[unselfish]となります。利他主義は[altruism]、利他主義者は[an altruist]、利他的行動は[altruistic behavior]と言い換えられますよ。

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稲盛和夫氏は「利他の心」についてこう語っています。「利他の心で判断すると『人によかれ』という心ですから、まわりの人みんなが協力してくれます。また視野も広くなるので、正しい判断ができるのです。より良い仕事をしていくためには、自分だけのことを考えて判断するのではなく、まわりの人のことを考え、思いやりに満ちた「利他の心」に立って判断をすべきです」(「稲盛和夫OFFICIAL SITE」より)。「利他の心」をもって人を思いやることにより、最終的には自分にとってもよい結果を得ることができると言われています。ある意味、「利他の心」は「情けは人の為ならず」とも言えるのではないでしょうか。

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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) /『新選漢和辞典Web版』(小学館) /『角川類語新辞典』(角川書店) /『プログレッシブ英和中辞典』(小学館) :