「立つ鳥、跡を濁さず」は「退き際(ひきぎわ)は潔くあるべきだ」という戒めを含んだことわざです。転職や退職など、ビジネスパーソンとしての人生にひと区切りをつける際にも使われます。今回は「立つ鳥、跡を濁さず」の詳しい意味や由来、類語や対義語にあたることわざまで、「立つ鳥、跡を濁さず」のあれこれを解説します!

【目次】

去り際には爽やかな印象を残したいものです。
去り際には爽やかな印象を残したいものです。

【「立つ鳥、跡を濁さず」を正しく理解するための「基礎知識」】

■読み方

「たつとり、あとをにごさず」と読みます。

■簡単に言うと「退き際は潔く」ってこと!

「立つ鳥」とは「飛び立つ鳥」のこと。「濁る」には「汚い」「混乱する」という意味があります。つまり、「立つ鳥、跡を濁さず」は、「飛び立つ鳥は汚い痕跡は残さない」ことから、「立ち去る者は、後始末をきちんとすべきである」「退き際は潔くあるべきである」という戒めを込めたことわざです。

■語源・由来

「立つ鳥、跡を濁さず」は、「故事成語」ではありません。明確な語源はありませんが、「立つ鳥」は水鳥に由来するといわれています。水鳥には、池や湖に飛来し一定の期間を過ごしたあと、次の場所へ飛び去っていく習性があります。水鳥が水から飛び立った後にはエサなどが散乱することもなく、きれいな状態の水辺が残っていることから、このことわざが生まれたとされています。

■注意したい「誤表記」

「立つ」は「発つ」とも書きます。ただし、「跡」を「後」、「濁さず」を「汚さず」と書くのは誤りです。


【ビジネスでの「使い方」がわかる「例文」4選】

「立つ鳥、跡を濁さず」が示す「退き際」には、どんな場面があるでしょうか? ビジネスシーンであれば、転勤や退職などの節目。プライベートなら、恋愛、友人、婚姻関係を解消する際に使われます。

■1:「Aさんが退社すると聞いたときは、あまりに突然で驚いたが、結果的には引き継ぎも挨拶も完璧で、まさに立つ鳥、跡を濁さずだったね」

■2:「現役引退の時期は自分で見極め、立つ鳥、跡を濁さずの精神を貫きたいものだ」

■3:「サッカーのW杯では、試合後に会場をきれいに片付ける日本人サポーターの行為が賞賛された。まさに立つ鳥、跡を濁さずを実践しているようだ」

■4:「離婚届けに判を押した翌日には、彼女の荷物は何もなくなっていた。まさに立つ鳥、跡を濁さずだが、実にあっけないものだ」

会社など、組織を離れる人が社内外に対しきちんと筋を通し、完璧な引継ぎで後に残る社員に迷惑をかけずに立ち去る様子を「立つ鳥跡を濁さず」でたとえています。婚姻関係や交友関係を潔く清算する行為にも使われますよ。


【「類語」「言い換え」表現】

■四字熟語にするなら「原状回復」「有終の美」

「原状回復」は「ある事情によってもたらされた現在の状態を、本来の状態に戻すこと」。「原状復帰」とも。賃貸物件の契約などで用いられます。「有終の美」は「物事をやり遠し、最後を立派に仕上げること。結果が立派であること」。「原状回復」には「潔い」といったポジティブなニュアンスはありませんが、「有終の美」は結果を讃える言葉です。

■飛ぶ鳥、跡を濁さず

「飛ぶ鳥」は「立つ鳥」の「誤用」との説もありますが、『デジタル大辞泉』や『広辞苑』では「立つ鳥跡を濁さず」の説明として、「飛ぶ鳥跡を濁さず」を挙げています。


【「反対語」は?】

「潔い、あるいは美しい退き際」という意味に対して「反対語」をご紹介します。

■後ろ脚で砂をかける

「恩義のある人を裏切るばかりか、去り際にさらに迷惑をかけること」のたとえです。

■あとは野となれ山となれ

「あとは野となれ山となれ」は、「目先のことさえなんとか済めば、そのあとはどうなってもかまわない」という意味のことわざです。

■旅の恥は掻き捨て

旅先では知っている人もいないから、どんなに恥ずかしいことをしてもその場限りのものであると考えてしまいがちだ、という意味の「旅の恥は掻き捨て」。精神の貧しさを象徴するような言葉ですね。

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「立つ鳥、跡を濁さず」は転職や退職、あるいは恋愛・婚姻関係の解消など、あるステージからの「退き際」で使われることが多い言葉です。なんとなく物寂しいニュアンスもありますが、「退き際」とは、裏を返せば「新たなステージへのスタートのとき」。美しく潔い印象を周囲に残したいものですね。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館)/『広辞苑』 (岩波書店) :