雑誌『Precious』7月号では、「眺めて幸せ!食べて幸せ!笑顔こぼれる『焼き菓子』」を特集。老舗の味から、不定期販売の幻の品、とっておきまで。夏だって、アイスティーやビール、ワインと合わせて楽しみたい!
小麦粉と卵とバター。この3つを中心につくられるのに、味も形もさまざまで奥が深い焼き菓子。それは、日常に幸せな時間をもたらしてくれます。片手で手軽につまめる名品をまとめてご紹介します。
■1:帝国ホテル 東京のホテルショップ「ガルガンチュワ」|プレミアムクッキー缶
端正な美。きちりと美しく詰められて。どこをとっても、整斉たる景色。
詰め方への美意識、贅沢な味わい
’21年に発売されたクッキー缶は、9種類が左右対称に収められている。モチーフは、帝国ホテル2代目本館を設計したフランク・ロイド・ライトが好んだ市松模様。
ショップでの人気商品にヒントを得た「ブルーベリー」はゼリー状のブルーべリーとこけもののパート・ド・フリュイを詰めたタルト型に。宇治抹茶を使用した「サブレ抹茶」は厚めに焼き上げて。厚さや大きさが異なる焼き菓子が完璧に詰められた美しさは見事。食べ進めると生まれる美しい凹凸が、高楼をたどっているような気分になるのもひそかに楽しい。品のよい味、漆を思わせる漆黒の缶、そして、帝国ホテルという揺るぎない信頼と格式で、喜ばれる手土産としても最強。
■2:「オーボンヴュータン」ドゥミ・セック
100年エレガント。これまでも、これからも不変の美しいドゥミ・セック(半生菓子)
しっかりと甘くて美味しい。変わらないという進化
そのノーブルな色づきと香気にそそられる。片手ほどの小さな中に秘めた甘さは力強く、閑雅な美味しさが、ちょうどよい塩梅で消えていく。日本にフランス菓子を広めたオーナーの河田勝彦シェフは、フランスでの修業時代、伝統的な郷土菓子に惹かれて地方を食べ歩いた。
常時20種類近くあるタルトは開店から40年以上、レシピも味も、美味しさへの情熱も不変。今の季節は、レモンのすっとした酸味をメレンゲが包み込む「タルト・シトロン」など、フルーツの甘酸っぱさが心地いい。クリームもフレッシュなフルーツもないけれど、ひとつの満足度は生菓子を超えるというファンも多い至高のタルト。喜びが2~3日もつのも魅力。
■3&4:「シヅカ洋菓子店 三田本店」フィナンシェ、「菓子屋シノノメ」ハーブとライムのケーキ/メープルのマドレーヌ/黒烏龍茶のマドレーヌ
王道アップデート。少しずつ変わり続けているから、常に新鮮な美味しさ。
左/「シヅカ洋菓子店 三田本店」フィナンシェ
人にも地球にも優しい、シンプルな美味しさ
環境負荷の少ない栽培方法でつくられた原料をできるだけ使い、素材本来の味を引き出す。地球にも食べる人にも優しい焼き菓子のなかで、控えめながらも確かな存在感を発揮しているのがフィナンシェ。
マドレーヌと違うのは、卵白と焦がしバターを使うこと。国産の良質な小麦粉、平飼い卵の有精卵や鹿児島産のきび糖などを使い、素朴ななかにコクのある味わいを表現している。材料も工程もシンプルだからこそ感じる良質な小麦粉のうま味と甘み。「もっと食べたい。誰かに贈りたい」という優しい連鎖が広がる。
右/「菓子屋シノノメ」ハーブとライムのケーキ・メープルのマドレーヌ・黒烏龍茶のマドレーヌ
控えめに個性的な烏龍茶の風味の虜
カウンターの大皿に盛られた「黒烏龍茶のマドレーヌ」は、オーナーにとって身近な存在であるお茶のひとつ、良質な烏龍茶の茶葉と、濃く煮出した烏龍茶ミルクを使って焼き上げるスペシャリテ。発酵バターのコクと共に広がる茶葉の豊かな香りが素晴らしく、外側はカリッとしていて、中はしっとり。’17年のオープン以来、買い求める人が絶えない。季節ごとに3~4種類の味があるパウンドケーキは冷やして食べても美味しく、そして、甘すぎない。飾らないのに奥が深い味で、どれも繰り返し食べたくなる。
■5:「ミノリベイク」アペロ缶
“ちょっと一杯”に寄り添う、オールタイムベスト
「人生にはときどき、甘いものが必要」。疲れた心に近所で買ったケーキの甘さがしみたときから、金融業界で働いていた大田みのりさんは焼き菓子の販売を始めた。「アペロ缶」は、お酒に合う8種類の味。チーズやスパイス、フルーツなどの香りが立ち、優しい甘み、心地よい酸味、程よい塩気が、飲みたいお酒やどんな気分にも寄り添う。材料のチーズやバターはそのまま食べても美味しいものを使い、丁寧に焼き上げる。 “ちょっと飲みたい時間” を満たす至福のクッキー缶。ときには黒ビールと共に。
■6:「エイタブリッシュ」サレ・シリーズ
お酒もヘルシーに楽しみたいときに
動物性食材や白砂糖を使わないヴィーガンスイーツの「エイタブリッシュ」から、甘くない3つの味の『サレ・シリーズ』が登場。例えば、「サケカスチーズ・パイ」は、全国26の店舗でしか買えない島根・王祿酒造の希少な酒粕を使い、チーズを使っていないのにチーズのようなふくよかさと程よい塩味が後を引く。すべてグルテンフリーで、厳選したオーガニックの国産素材を使用。男性のリピーターも多く、3月の発売以来、生産が追いつかないほど人気。ヘルスコンシャスな人への手土産にも。
■7:「ボンジュール クチブエ」バタークッキー缶
丁寧な手仕事が導くこよなきバタークッキー
開けた瞬間からバターの馥ふく郁いくたる香り。ザクザクとほろほろ食感のループ。粉とバターと卵でこんなにも贅沢なクッキーになることに驚く。料理家・坂田阿希子さんが修業時代、フランス・ナント地方のレシピに感動して以来、つくり続けてきたバタークッキー。故郷の新潟に工房を構え、その美味しさを不定期で全国に届けている。小学生の頃、手づくりのバタークッキーを友人が喜んでくれたことが、料理で誰かを笑顔にできた原体験に。坂田さんがこれをどれだけ大切にしてきたかは、ひとつ食べればきっとわかる。
■8:「甘雨」すずらん(クッキー)月の満ち欠け(メレンゲ)
少しずつ特別で、佳味で、多幸
食通も買い求めるクッキー缶は、スパイスの効いた生地に赤すぐりとラズベリーのジャムを巻いた薄い「カジノ」をはじめ、手づくりの丁寧さが静かに際立ち、想像を心地よく裏切る美味しさ。「焼き菓子も鮮度が大切」と常に焼きたてを用意し、HPでの販売日翌日には発送。メレンゲは感動を覚えるほどの繊細な口溶けで、香りは温度によって表情を変える。緑に囲まれた瀟洒な一軒家は、恵みの雨を表す店名のように、その味も存在も訪れる人に幸せな時間をもたらす。
■9:「ステファノ アンナ」クッキー詰め合わせ
地元・吉祥寺で愛され続けるイタリアの焼き菓子
イタリアで修業した店主の石川晶子さんは、現地のような生活の一部になる店を目指し開店。60品近くある焼き菓子に使う塩やビール酵母、ナッツ、チェリーなどのフルーツはイタリアから取り寄せている。「クッキー詰め合わせ」はジェノバの郷土菓子「カネストレッリ」、杏ジャムが詰まった「アマレーナ」など、手づくりのクッキー14種類をひとつずつ。現地の文化も届けたいと紙のトレーに盛り、そのまま包装紙で包むだけ、という素朴な温もりも美味しさを引き立てる。食べる時間を純粋に楽しめるよう、このクオリティで1000円以下。店主の人柄を映したようなおおらかで美味しいクッキーには、美食家のファンも多い。
※掲載商品の価格は、すべて税込みです。
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- PHOTO :
- 神林 環
- STYLIST :
- 西㟢弥沙
- EDIT&WRITING :
- 松田亜子、佐藤友貴絵(Precious)