【目次】

【「寂しい」と「淋しい」の違いは?】

「寂しい」の意味は? 

『新選漢和辞典Web版』によれば、「寂」という文字には主に3つの意味があります。
1)ひっそりして音もしないさま。
2)がらんとしているさま。

3)仏教用語で死ぬこと。得に僧が死ぬこと。涅槃(ねはん)。

「ひっそりとして静か。静かでものさびしい」という意味の「静寂」や、「人気(ひとけ)がなくさびしいさま」を表す「寂寥(せきりょう)」といった熟語に使われていますね。

■「淋しい」の意味は?

同じく『新選漢和辞典Web版』には、「淋」の意味が4つ載っています。
1)注ぐ。水をかける。
2)水がしたたるさま。
3)長雨(ながあめ)。
4)病気の名。淋病。

「淋」の文字が使われた熟語には「淋巴(リンパ)節」や「長雨(数日続く雨)」を意味する「淋雨」があります。文字そのものには、直接「さびしい」という意味に関わるものはないようです。

ただし、「さびしい」を辞書で検索すると、「寂しい/淋しい」と表記され、どちらも概ね同じ意味で使われていることがわかります。

■「寂しい」と「淋しい」の違いは?

上記のように、「淋しい」という字には「水が滴(したた)る」という意味があります。「水」が「涙」を連想させるように、「淋しい」は主観的・情緒的、あるいは悲観的な感情を表す言葉で、思わず涙がこぼれるような孤独感を表現するのに向いた言葉です。

例えば、サブスクなどで今も若い世代から支持を集める80年代のアイドルデュオ「Wink」の大ヒット曲『淋しい熱帯魚』は、ゆらゆら揺れる熱帯魚のイメージに重なる、ふたりの儚げでミステリアスな雰囲気に「淋しい」がピタリとハマっていました。ドラマティックな雰囲気や心情的な孤独感を強調したい場合には、「淋しい」はしっくりくる表現です。

一方で「寂しい」は、人気(ひとけ)がなく、がらんとした状況や情景などを表す場合や、「孤独感によるさびしさ」のニュアンスも含んでいるため、「淋しい」よりも一般的で幅広いシーンで使うことができます。また、日本の美意識のひとつに「侘寂(わびさび)」という言葉があるように、単なる「さびしさ」や「古さ」ではなく、寂しく静かなものに味わいや趣を感じるといった、肯定的なニュアンスでも使われる言葉です。さらに「口寂しい」や「懐が寂しい」という言い方がある通り、「あるべきものがなくて物足りない気持ち」という意味もあります。

■使い分けに迷ったら?

ごく大雑把に言えば、「寂しい」は客観的な状況や感情の描写に使われるのに対して、「淋しい」は非常に主観的な感情の表現として使われます。使用できる範囲は「寂しい」のほうが広いうえに、「淋」は常用漢字ではないため、新聞や公的文書では使われません。また、「淋しい」は情緒的・文学的な印象が強いため、ビジネスメールなどに用いるには、違和感を感じる人もいるでしょう。ふたつの使い分けに迷ったら、「寂しい」と表記することをおすすめします。


【ふたつの「使い分け」がわかる「例文」】

■「寂しい」の例文

・「ビジネスマンがいない休日の丸の内は寂しいかと思ったら大間違い。多くの観光客が闊歩していた」

・「なんとなく襟元が寂しく見えるので、スカーフを巻いてみた」

・「異動になった彼女からはあまり連絡もなく、一応交際中だというのに寂しい限りだ」

・「寂しい夜道を女性が1人で歩くのは危険だ」

「淋しい」の例文

・「滅多に会わないでも永い別れとなると淋しい感がある」(内田魯庵 『鴎外博士の追憶』より)

・「父の葬儀が終わりひとりで部屋に戻ると、それまでは感じなかった淋しさが、突然、私を襲った」

・「ひとりでいると淋しくて淋しくて、いたたまれない気持ちになる」


【亡くなったときはどちらを使う?】

誰かが亡くなった場合には、「寂しい」と「寂しい」、どちらを使っても間違いではありませんが、ビジネスメールや、目上の方への手紙などでは、常用漢字である「寂しい」を使用しましょう。


【「さびしい」「さみしい」読み方はどっちが正解?】

■どちらも正解ではありますが…。

漢字の読み方として、「さみしい」は「さびしい」の音が変化したものです。近世以降、「さびしい」「さみしい」両形が用いられてきましたが、古くからあった「さびしい」を標準的語形とみる考えが有力で、放送用語などでも現在は「さびしい」という読み方を標準として採用しています。常用漢字表にも「さびしい」のみが記載され、「さみしい」という読み方は記載されていません。ちなみに『淋しい熱帯魚』の「淋しい」読みは「さみしい」です。


【「類語」「言い換え」表現は?】

■寂しいの「言い変え」

・侘(わび)しい
「心細く心が満たされない」という意味では「さびしい」と意味が共通しています。違いは、「寂しい」は「満たされない気持ちである、ひっそりとして心細い」という意味ですが、「侘しい」は「心細く頼りない、あるいはみじめでやるせない」というニュアンスです。また、「侘しい」には「わびしい身なり」「わびしい村」のように、「さびれている、みすぼらしい」といった意味もあります。

・閑散(かんさん)
「閑散」は、「ひっそりと静まりかえっていること」「仕事がなくて暇なこと」という意味の言葉です。「さびしい」のように、悲観的、あるいは情緒的なニュアンスはあまり含まれていません。

・物足りない

■淋しいの「言い変え」

・ひとりぼっち 

・涙がこぼれるほど孤独


【英語で言うと?】

「心細い」という意味の[lonely]やストレートに「物悲しい」を意味する[sad]で「さびしい」は表現可能です。他に「寂しい裏通り」は[a deserted back street]です。

・I'm going to be very lonely when you're gone.(君がいなくなると寂しくなるよ)

・He smiled sadly .(彼は寂しく笑った)

***

「寂しい」と「淋しい」。「さびしい」と「さみしい」。どちらも間違いではありませんが、公式な文書では「寂しい」「さびしい」が一般的です。もしも迷ったら、使用範囲が広い「寂しい」を選択することをおすすめします。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『プログレッシブ英和中辞典』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) /『使い方の分かる 類語例解辞典』(小学館) /『角川類語新辞典』(角川書店) :