世は空前の猫ブームですが、あえて、猫より手間のかかる犬を飼う大人の女性たち。人のパートナーとして、長く愛されてきた犬だけに、その暮らしには、犬ならではの大きな喜びがあるのかもしれません。そんな大人の女性たちは、どのようにして愛犬たちと向き合い、豊かなプライベートライフを送っているのでしょうか。
ご紹介するのは、ヘアメイクアップ・アーティストの藤原美智子さんと、愛犬たちの物語です。
ひとりからふたりへ。犬に導かれる幸せのかたち
「偶然、前の犬を飼うことになったとき、みんなが犬はかわいい、かわいいと言っていたけれど、こんなに大変だって、だれも言わなかったじゃない(笑)!」
藤原さんが初めて犬を飼ったのは、独立して自身の事務所を構え、キャリアも十分に重ねて、40代を迎えたころ。「アデラ」という名の、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルの女の子でした。
「働く女性がひとりで犬を飼うことは、やはり大変でした。でも計画して考えすぎたら飼えなかったでしょうね。朝早い撮影や泊まりのロケ、長い海外ロケがあると、預けているところに送り迎えに行く。犬はひとりでは何もできないわけだから、ずっと小さい子供の世話と一緒。でも、アデラとの暮らしによって、風来坊のように自由だったひとり身が、風船を杭につないでもらったように、現実にしっかりと足をつけさせてくれた気がします」と藤原さん。
とてもいい子に育った一人娘との楽しい暮らしでしたが、アデラの心臓疾患によって、8年で幕を閉じてしまうこととなります。ご主人に出会ったのは、亡くなる少し前のこと。
「夜中に発作を起こしたとき、ちょうどつきあい始めた彼に電話をして、深夜に開いている病院を紹介してもらいました。主人は、“アデラが亡くなるとき、じっと僕のことを見て、君のことを『よろしくね』って言われちゃった”って言うんです。そうだったっけ?(笑)」
ひとりでは心細かったけれど、一緒に看取ってくれて、こういうとき、男性がいると頼りになると実感したのだといいます。
1割の「かわいい」があれば、9割の「やんちゃ」には目を閉じられる
その後、50歳で結婚。ふたりで飼うことになったのが、今の愛犬、ポーリッシュ・ローランド・シープドッグの男の子、「アルフ」。犬好きのご主人が以前飼っていた犬種で、長くやわらかいむく毛が印象的な牧羊犬。温厚で、活発で明るい性格です。
「とにかく性格がおもしろいの。ドジだし、やることがひとつひとつおかしくて、想像したとおりのことをするんです」
小さいころに訓練に出したが、怖がりの性格は直らず、内弁慶で、東京では車が怖くて普通には歩けない。だから、別荘のある伊豆ではとてものびのびしているといいいます。東京に戻ると、目が悪くなった高齢の義母に会いに行く。この日もその帰りでした。
「ふんわりとした毛と温もりは、撫でているだけで癒やされるようで、アルフは義母にとっても、かけがえのない存在」
生まれて3か月で出会い、今は10歳になります。すっかりセラピードッグの役割を担うようになったアルフも、子犬のころは、想像を超えるいたずらぶりでした。
「犬って、どうしてこんなにかわいいのかな。きっとやんちゃすぎるから、神様が見た目も、性格もかわいくしたのかしら。1割のかわいさがあれば、9割は大変でもいい。1割のかわいさがあるからこそ、犬が飼えるのかも。世話をしなければならない相手、生き物がいることは、与えられる喜びのほうが大きいから」
LA DONNA
- PHOTO :
- 浅井佳代子
- EDIT&WRITING :
- 藤田由美、海渡理恵(HATSU)、喜多容子(Precious)
- RECONSTRUCT :
- 難波寛彦