市町村に寄付をすると、そのお礼としての特産品がもらえる「ふるさと納税」。
ふるさと納税は、寄付した金額のうち2000円の自己負担額をのぞいた全額が、所得税や住民税から払い戻してもらえる、お得な制度です。ただし、税金の払い戻しを受けられる金額には、年収や家族構成などに応じた上限が決まっているため、それ以上寄付をしても還付は受けられません。
税金の払い戻しを受けられる額は、年収によって異なりますが、これはふるさと納税を取り扱うサイト上で、払い戻される寄付金の大まかな金額を算出することができます。そもそも、税金の還付なので、収入があって税金を納めている人以外は対象にはなりません。
そのため、専業主婦のハルカさん(46歳)は、会社員の夫・ヤスタカさん(48歳)名義でふるさと納税をして、昨年1年間でブランド和牛や越前蟹、フルーツ、日本酒などの返礼品を受け取りました。
年収1300万円のヤスタカさんの場合、全額控除を受けられる寄付金の目安は、25万2000円です(妻が専業主婦、高校性の子ども1人の場合)。そこで、ハルカさんは、10か所の市町村に合計25万2000円のふるさと納税をしたのですが、その後「確定申告」をしなければいけないことを忘れていたのです。
「返礼品でもらった食材はどれもこれもおいしくて、娘のモエ(16歳)も、夫も大喜びでした。ふるさと納税すると税金もおトクになると聞いていたのですが、最近、寄付した市町村が多いと確定申告しないといけないと友達から聞いてビックリ。今から申告しても間に合うでしょうか?」
「使える控除は正しく使う」のが、節税のための第一歩
確定申告は、おもに自営業者が1年間の所得を計算して納税額を国に申告するための手続きですが、サラリーマンも無関係ではありません。
会社員や公務員などのサラリーマンは、収入や扶養家族の人数などに応じて、毎月の給与やボーナスからあらかじめ税金が源泉徴収されています。でも、1年たってみたら当初の予定より収入が減ったり、家族が増えたりして、源泉徴収された税金と本来納めるべき税金に差が出ることはよくあります。
この差額を払い戻したり、徴収したりするのが勤務先で行われる年末調整です。年収が2000万円を超えたり、給与以外の所得が年間20万円を超えたりした人は、サラリーマンでも確定申告しなければいけませんが、それ以外の人はほとんど、この年末調整で納税手続きが完了します。
ただし、「医療費がたくさんかかった」「寄付をした」「災害の被害にあった」「住宅ローンを組んでマイホームを買った」など、特別な事情がある人は、確定申告するとサラリーマンでも税金が戻ってくる可能性があります。
所得税は、所得が一定額を超えるごとに税率が高くなっていく、累進課税(超過累進課税)です。収入が高いほど所得税も高くなる傾向にありますが、税額を計算するもとになる「課税所得」は収入全体からさまざまな「控除」を差し引くことができます。
これは課税の公平性を図るために導入されている仕組みで、個別の事情に配慮した控除を設けることで、収入から一定額を差し引いて課税所得を引き下げ、税額を少なくするのが目的です。たとえ収入が同じでも扶養家族の人数などによって生活コストは異なり、税金を負担する能力にも違いがあるからです。
控除が多いほど課税所得は低くなり、税金も安くなるので、使える控除は無駄にしないで正しく利用することが、節税する上では重要です。サラリーマンの所得控除は、勤務先で自動的に処理してくれる基礎控除、扶養控除、配偶者控除、給与所得控除などもありますが、自分で確定申告しないと利用できないものもけっこうあります。
たとえば、医療費がたくさんかかったときの「医療費控除」、災害にあったり、空き巣に入られたりしたときの「雑損控除」、NPO法人や地方自治体に寄付をしたときの「寄付金控除」、住宅ローンを組んでマイホームを購入したときの「住宅ローン控除」など。
こうした個別の事情は、勤務先では把握しきれず年末調整では対応できないので、自分で申告しないと税金を払い過ぎることになってしまいます(ただし、住宅ローン控除は1年目に確定申告すると、2年目以降は勤務先で処理してくれます)。納税は国民の義務ですが、払い過ぎた税金を取り戻すのは国民の権利です。控除できるものは正しく利用して、正しく納税しましょう。
ふるさと納税は一定の条件をクリアすれば、確定申告が免除される「ワンストップ特例」の適用を受けられます。でも、ハルカさんのようにたくさんの市町村に寄付をすると、自分で申告しないとお金を取り戻すことはできないので、忘れずに申告したいもの。10か所の市町村に、合計25万2000円のふるさと納税をしたハルカさんのケースで、確定申告で戻ってくるお金の流れを見ていきましょう。
「ワンストップ特例」を利用すれば、確定申告なしでお金を取り戻せる
制度が始まったばかりの2009年度は、約3万人だったふるさと納税の適用者数は、2015年度から急増。2107年度は利用者が約225万人まで増加しています。
背景にあるのが、寄付した人がもらえる豪華な「返戻品」です。ブランド和牛や豚肉、ウニやカニなどの海産物、さくらんぼやモモなどの高級フルーツ、日本酒や焼酎など、さまざまな特産品がもらえることが話題となり、ふるさと納税をする人が急増しているのです。
ふるさと納税は、お礼にもらえる特産品に注目が集まりがちですが、本来の目的は先細る地方への税の移管です。今は都会に住んでいる人も、自分を育ててくれた故郷に、自分の意思で納税できるようにしたのがふるさと納税で、支払ったお金は都道府県や市町村に寄付という形で渡されます。
ふるさと納税の枠組み以外でも、地方自治体への寄付は可能で、寄付したお金は「寄付金控除」の対象になり、税制優遇が受けられます。ただし、この場合に控除できるのは寄付したお金の一部だけで、寄付したお金の全額が控除できるわけではありません。
一方、ふるさと納税は寄付した金額が一定額までなら、自己負担分の2000円を除いた全額が寄付金控除の対象になり、所得税と住民税がまるまる戻ってくるため、お得な制度といわれています。
さらに、サラリーマンの人なら次の3つの条件を満たせば、寄付した地方自治体が控除手続きをしてくれる「ワンストップ特例」が適用されて、確定申告が不要になります。
1)寄付した地方自治体が5か所以下
2)寄付した地方自治体すべてにワンストップ特例の申請書を提出した
3)ふるさと納税以外に確定申告するものがない
寄付した地方自治体から送られてきた「寄付金税額控除に係る申告特例申請書(特例申請書)」に必要事項を記入して寄付先に提出すると、ワンストップ特例が適用され、確定申告をしなくても寄付したお金を取り戻すことができるのです。ワンストップ特例を利用した場合、2017年分の寄付については、2000円を除いた寄付金の全額が、2018年分の住民税から差し引かれます(所得税の還付はありません)。
でも、ハルカさんのように1)の5か所を超えて「10か所の市町村に寄付をした」という場合は、ワンストップ特例の適用は受けられません。その場合は、寄付金控除の確定申告をする必要があります。
申告に必要なものは、寄付した市町村から届いた「寄付受領証明書」のほか、勤務先でもらった源泉徴収票、マイナンバーなど。確定申告書は最寄りの税務署で入もらえますし、国税庁のホームページからもダウンロードできます。E-Tax(電子申告)でも受け付け可能なので、急いで準備を始めましょう。
申告すれば税金の還付は変わらずに受けられますが、お金の戻り方がワンストップ特例と確定申告では変わってきます。
6か所以上の市町村に寄付したら、確定申告でお金を取り戻す
昨年、10か所の市町村に、合計25万2000円を寄付したヤスタカさん&ハルカさん家族(年収1300万円、家族は専業主婦の妻と16歳以上の子ども1人。所得税率は23%)の場合、2000円をのぞく25万円全額が払い戻されます。
ただ、ワンストップ特例と違い、確定申告をした人は所得税と住民税に分けて還付されます。
所得税から還付されるお金の目安は【(寄付金-2000円)×所得税率】なので、【(25万2000円-2000円)×23%=5万7500円】。
確定申告すると、まず所得税から5万7500円が、申告から1~2か月後に還付されます(復興特別所得税は考慮していません)。残りの19万2500円は住民税から控除されますが、実際に差し引かれるのは2018年6月~2019年5月。この間、毎月の住民税が1万6000円程度減額されます。手続きするだけで25万円戻るのですから、確定申告をしない手はありません。
ハルカさんのように「6か所以上の市町村にふるさと納税した」という人以外にも、同じ年に医療費控除や住宅ローン控除など、その他の控除も同時に受ける場合は、寄付金控除についてもまとめて自分で確定申告する必要があります。
また、ワンストップ特例の特例申請書の提出期限は、2018年1月10日。うっかり提出を忘れていたという人も、確定申告すれば税金を取り戻すことができます。
2018年の確定申告の申告期限は、3月15日まで。今ならまだ間に合うので、急いで準備を始めましょう!
- TEXT :
- 早川幸子さん フリーランスライター