「イギリス料理」といえば「不味い」というイメージが先行しがち。「イギリスでどんな料理が食べられているかもわからない」という人も多いことでしょう。馴染みがあるのは「フィッシュ&チップス」くらいのもの。これまで長きに渡って、「不味い」イメージのあったイギリス料理ですが、近年は新世代のおいしい料理も生まれています。
今回は、ロンドン在住歴20年で、ご自身でもロンドン発のWebマガジン「あぶそる〜とロンドン」を主宰されている、編集者/ライター・江國まゆさんに、イギリス料理の魅力や、オススメのお店情報とともに「今のイギリスらしさを感じられる料理5選」を教えていただきました。
「食」を重要視しない国民性がグルメを遠ざけた!?
そもそも、どうしてイギリス料理は「不味い」というイメージができあがってしまったのでしょう。イギリスの飲食店を1000軒以上レビューしてきた江國さんは「イギリス人の国民性」が影響していると分析します。
「食文化は富裕層と庶民の両側から発展していくものだと思いますが、ことイギリスに関しては特権階級の人達が『食』を軽視していたということをよく聞きます。『食事についてとやかく口にすることが、上品ではない』という感覚もあって、お隣のフランスと比べて貴族の食べる料理が発展しなかったのではないでしょうか。
いまでも、『食事などに時間を割くのがもったいない、仕事に会議におしゃべり、何かをしている最中にサンドイッチを片手で食べるくらいでいいや…』という国民性を感じることがあります。
また、一般的にイギリス人は器用な人が少ない印象です。よく言われるのは、料理下手のお母さんの元で育つと、子供の味蕾が発達しないので、味音痴のまま成長するということ。それが食文化の未発達に関連しているのかもしれません。現在は社会風潮として食への関心が高まっているので、きっと料理上手のお母さんも増えていると思いますけれど」
江國さんによると「中世頃の中産階級以上の人たちは、お肉ばかり食べていた」そう。そのためか、肉のロースト、グリルの技術は発達していたようで、フランスのシェフが修業のためイギリスを訪れていたという史実も残っているそうです。
意外なことに、この世間からの風評に対して、当のイギリス人は無頓着なのだと江國さんは話します。
「私が知る限りは自虐的な反応しかないですね。ほとんどのイギリス人はイギリス料理が不味いという認識さえないような……。生粋のイギリス人の食はかなり保守的なので、フィッシュ&チップス、ロースト、ソーセージ、ステーキ、パイ料理などを食べていれば、クオリティなどあまり関係なく幸せなんじゃないでしょうか。
人は自分が生まれた土地の食に執着する傾向にありますよね。そして、食べ慣れたものが一番おいしいと感じます。これは国に関係なく、フランス人、イタリア人、日本人、みんなに言えると思います。特にイギリス人は食べたことのないごちそうよりも、食べ慣れた味を選ぶ傾向が非常に強いです」
「素材の持ち味を生かす」のがイギリス料理のよさ
「イギリス料理はおいしい」という江國さん。イギリス料理のどこに、おいしさや魅力を見いだしたのでしょうか?
「2009年頃からロンドンでの暮らしをブログで発信し、現在運営しているWebメディア『あぶそる〜とロンドン』で飲食店レビューを書き続けているうちに、気づいたことがあります。
トップクラスの食事から庶民の食事まで、数多くのレストランやカフェを試してきて言えるのは、『人は高級レストランの手のこんだ料理よりも、結局はシンプルな料理を好む傾向にある』ということです。
イギリス料理は、素材を茹でたり焼いたり揚げたりするだけで、あまり手間のかかるものがありません。手間がかかっていないということは、素材をそのまま生かしているということ。すべてとはいいませんが、素材は手をかけるほど生彩を失ってしまいます。
一方、食材をただ焼くだけのシンプルなロースト料理でも、新鮮な素材を使い温度調整に気を配れば、とにかくおいしく仕上がります。イギリス料理が不味いと言われていたのは、昔のイギリス人が素材へ敬意を払うことをあまりしなかったからかもしれません。今、ロンドンのレストランの厨房に立っているシェフの大半は、いかに素材を生かすかを考えていると思います」
淡泊な味つけに、シンプルなレシピ。イギリス料理の飾り気のない味わいは、別の側面から言うと素材の持ち味を生かした、最も贅沢な楽しみ方といえるでしょう。
現地に行ったら食べておきたい「今のイギリスらしさを感じられる料理5選」
悪評を払拭するかのように、1990年代以降、イギリスの「食」は格段に進歩しました。江國さん曰く、高級レストランなどで腕を磨いたシェフが厨房を担うパブ「ガストロパブ」によって、「イギリス人の舌が底上げされた」そうです。
およそ20年間に渡って、イギリス料理の進化を体感してきた江國さん。オススメのお店情報とともに「今のイギリスらしさを感じられる料理メニュー」を5つ、教えてくれました。
■1:Sunday Roast |サンデー・ロースト
「肉、野菜、ジャガイモ、グレービー(肉出汁のソース)、ヨークシャープディングで構成される、日曜日のごちそうです。イギリス全土、津々浦々のパブやレストランで、日曜日の午後から夜にかけて提供されています。『ガストロパブ』と言われているパブに行けば、おいしいものを食べられると思います。ただしその名の通り日曜日だけなので、お気をつけて!
素材をローストするだけのシンプルな料理ですが、肉も野菜も素材本来のおいしさが感じられます。イギリスはとくにポテトがおいしくて、日本人もきっと大好き! 家族や友人と食べながら、ダラダラするのが最も正しい食べ方です」(江國さん)
おすすめ店舗情報
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【1-1】Marksman Public House
住所:254 Hackney Road, London E2 7SJ -
【1-2】The Drapers Arms
住所:44 Barnsbury Street, London N1 1ER
■2:Pie |パイ料理
「イギリス人は甘いパイだけではなく、惣菜パイも大好きです。パイ料理は、小麦粉の生地で包んだもの以外にも、ポテトで蓋をして焼いた料理全般を指します。
パイの中身は、エールビールでステーキを煮こんだ『ステーキ&エール』や『チキン&マッシュルーム』などが定番。店内で食べるとポテト・マッシュが付け合わせに付いてきて、『パイ&マッシュ』になります。
パイ料理は労働者階級を象徴する食べ物で、パイ生地で肉や野菜の煮込みを包んで焼いたものは、ヴィクトリア時代からお弁当としても重宝されてきました。家庭でもレストランでも食べられ、イギリス人がほっこりする、いわばコンフォートフードですね。グルメなパブでいただくと、中身のシチューもおいしく、クラスト部分もパリっとしている素敵なパイに出会えます。高級レストランで出されるパイ料理としては『ビーフ・ウェリントン』があります。
パブ・フードの定番なので、やはりガストロパブと言われているパブに行ってみてください!」(江國さん)
おすすめ店舗情報
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【2-1】Piebury Corner
住所:3 Caledonian Road, London N1 9DX -
【2-2】Grenadier
住所:18 Wilton Row, London SW1X 7NR -
【2-3】Temple and Son
住所:22 Old Broad Street, London EC2N 1HQ
■3:Modern British |モダン・ブリティッシュ
「料理への関心がぐぐっと高まった1990年代に誕生した、新世代のイギリス料理のこと。モダン・ブリティッシュ抜きに、今のイギリスの食は語れません。伝統の英国料理をベースに、さまざまなテクニックを駆使して現代人の舌を満足させる仕上がりになっています。
今、イギリスではモダン・ブリティッシュのレストランが目白押しです。よほどのツーリスト・トラップでないかぎり、どこのお店に行っても『不味い』料理に出合うことは少なくなりました。
ただ、ロンドンは物価が高いので、お値段と味がどこまで比例しているか?がポイント。たとえ、おいしくても料金が高すぎては『満足』には至りません。高いお金を出せば、そこそこおいしいものが食べられるのは当たり前ですから」(江國さん)
おすすめ店舗情報
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【3-1】10 Greek Street
住所:10 Greek Street, London W1D 4DH -
【3-2】Dinner by Heston Blumental
住所:Dinner by Heston Blumental, Mandarin Oriental Hyde Park, 66 Knightsbridge, SW1X 7LA -
【3-3】Restaurant Story
住所:199 Tooley Street, London SE1 2JX
■4:Middle Eastern|中東料理
「“移民の街”ロンドンでは、各国の料理をいただけるおいしいレストランがたくさんあります。住宅街の小さなヴィレッジに行くと、中華料理のテイクアウトができる店、フィッシュ&チップス屋、インド料理店、そしてケバブ屋さんが町の食堂の定番。
昔ならインド、イタリアン、スパニッシュ。今ならオーストラリアやペルー、メキシコの料理が人気ですが、アラブ・イスラム圏からの移民が多いため、中東系のレストランも無数にあります。中東料理とひと口にいっても各国百花繚乱で、層が厚いだけに、クオリティも高いです。
私が大好きなのが、これら中東系料理のモダン・バージョンです。フュージョン料理と言ってもいいかもしれません。ロンドンには魅力的なお店がいろいろあるので、ぜひ試してみてください」(江國さん)
おすすめ店舗情報
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【4-1】Honey & Co
住所:25a Warren Street, London W1T 5LZ -
【4-2】Morito Hackney Road
住所:195 Hackney Road, London E2 8JL -
【4-3】Palomar
住所:34 Rupert Street, London W1D 6DN
■5:Carrot Cake |キャロット・ケーキ
「最後は、イギリスの焼き菓子のおいしさについて知っていただきたくて、私が好きなケーキを挙げてみました。たいていのカフェに行けば、ヴィクトリア・スポンジ、キャロット・ケーキ、チョコレート・ブラウニーといった素朴な焼き菓子が置いてあります。
ここまでお話ししてきた通り、イギリス料理はシンプルなので、これらのお菓子もフランス菓子にくらべると、子供だましのように簡単なレシピでつくることができます。その素朴な味を楽しんでほしいです。
キャロット・ケーキはたいていのイギリス人が好きなケーキ。バタークリームを使うほうが伝統的なのですが、最近は甘さを控え目にするためにクリームチーズと組み合わせるところが多いです」(江國さん)
おすすめ店舗情報
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【5-1】Curator's Coffee Newington Green
住所:20 Newington Green, London N16 9PU -
【5-2】Coffee Seeker
住所:297 Ballards Lane, N. Finchley. N12 8NP -
【5-3】Petersham Nursaries Covent Garden
住所:Floral Court, London WC2E 8JD
以上、英国在住20年の江國さんのガイドのもとご紹介した「おいしいイギリス料理」でした。とはいえ、ここで紹介したおいしいお店は、まだまだ一握りに過ぎません。「食」というテーマでロンドンを旅すれば、知られざる「美食都市ロンドン」に出合えること間違いなし! ぜひガイドとして参考にしてみてくださいね。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- PHOTO :
- 江國まゆ(5選の料理全て)
- WRITING :
- 名嘉山直哉
- EDIT :
- 青山 梓(東京通信社)