皇居にほど近い大手町に位置する複合ビル「Otemachi One」の1階にオープンしたレストラン「CYCLE(スィークル)」。フランスのミシュラン3つ星レストラン「Mirazur(ミラズール)」を率いるマウロ・コラグレコシェフによる、日本初のレストランです。
2006年に地中海の景⾊を⼀望できる場所にレストラン「ミラズール」をオープンし、1年を待たずにミシュラン1つ星を獲得し、その後2012年にミシュラン2つ星、2019年に3つ星を獲得しているマウロシェフ。また同年には「世界のベストレストラン50」で第1位を獲得し、2021年には「世界のベストレストラン50」殿堂入りを果たす快挙を成し遂げている、まさに“世界最高峰”と賞賛される人物です。
そんなマウロシェフが日本とその食文化に魅せられ、自身の弟子である宮本悠平氏をヘッドシェフに据えて作り上げたレストラン「スィークル」。一体どのようなメニューが提供されているのか、メディア向けのレセプションに参加したPrecious.jpライターによる実食レポートでご紹介します。
ミシュラン3つ星レストランのシェフの味が楽しめる「スィークル」
目の前に広がる皇居の緑と連続した6,000平方メートルの緑地空間「Otemachi One Garden」に面したレストラン。天井まで届くガラス張りの大きな窓からは緑豊かな広場や水景が望め、都会にいることを忘れさせてくれます。
インテリアで象徴的なのが、エントランスから入ってすぐの場所にたたずむオブジェ。秋田・山形を跨がる活火山の鳥海山で2500年前に山体崩壊した際の埋もれ木を使用しているそう。こういった、何千年もの時を経て掘り出された木材は「神代木」と呼ばれるもの。地中に埋もれている間に黒褐色などに変色し、独特の風合いを帯びているのが特徴です。神代木は、オブジェのほか各テーブルにも使用されています。
また、地層を思わせる壁には版築という日本の伝統的な左官技術を用いています。土を盛り、一層ずつ突き固めていき徐々に高くしていく工法で、長年積み重ねられてきた地層や時間を想起させる風合いが魅力的です。
雄大な大自然をそばに感じられる素材と、日本ならではの技術や伝統を掛け合わせた、唯一無二の空間が広がります。
レストランの名前の由来は、「このレストランと美食の体験を通して、常に生まれ変わる自然の美しさ、循環するエネルギー、そして私を魅了するすべての生物の相互作用を再表現したい」というマウロシェフの思いから。
日本を訪れる中で、自然が本来持つ力だけで作物を育てる「自然農法」を提唱する福岡正信氏の哲学に出合ったマウロシェフは、もともと大切にしていた土と生物多様性への向き合いをさらに強化。
スィークルでは、自然への敬意と、その循環するエネルギーを料理で表現しています。また、日々のオペレーションの中でサステナビリティに取り組み、使い捨てプラスチックの排除や地域食材の活用など環境への配慮はもちろん、野菜やハーブなどを自ら育てながら、ローカル生産者とのつながりを大切にして料理には主に日本国内の素材を使用しています。
ディナーのコース料理の一部を体験
ディナーはタパス、料理5皿、デザート2皿、小菓子からなるメニュー「Symbiose」(¥29,040〜)、タパス、料理6皿、デザート2皿、小菓子からなるメニュー「Inspiration」(¥38,720〜)の2種類。
レセプションでは、そのうちタパス、料理4皿、デザートと小菓子が、マウロシェフ自らの手によって振るまわれました。
その日出た端材で作る野菜の旨みたっぷりのブイヨンからスタート
まずは、その日の野菜の端材で作る旨味たっぷりのブイヨンからスタート。廃棄物ゼロのレシピを心がけるスィークルならではの一品です。パルミジャーノを加えることで、野菜の素材としての旨みがさらに感じられるブイヨンに仕上がっていました。
季節の香りとして金木犀と柚子のゼストを加えていることもあり、なんともさわやかな後味。野菜はメニューによって変わり、香りも季節によって変わるそうなので、来るたびに違った味わいが楽しめそうです。
食事の始まりは、ライフサイクルを表す4品のタパス(小皿料理)。こちらのタパスは3~4日でメニューが変わるのだそう。
タパスは、植物の種が葉となり、花となり、実となり、そしてまた種になる…生まれ、終わり、循環して次世代へとつながっていく、途切れることのない流れを表現しています。
根(誕生)を表しているのが、玉ねぎのお料理。キャラメリゼした玉ねぎとタピオカで作った生地をチューブ状にしたものの中に、南仏料理のピサラディエールをイメ―ジしたオニオンピューレとアンチョビ、オリーブ、パセリで作ったクリームが詰まっています。
チュイルの食感が変わりやすいので、4品のうちこちらから食べるのがおすすめとのこと。
葉(成長)を表すのが、エストラゴンが入ったカレー風味のコロッケ。苔玉のような見た目がユニークです。中には牡蠣のクリームと焼いた牡蠣が入っていて、温かくクリーミー。
花(再生)を表現したのが、まさに花畑のようなプレートにのせられた菊の花のピクルスをあしらったタルト。軽いサクサク食感のタルトに、炙りシメ鯖、角切りの林檎、エシャロットのクリームがのせられています。ジューシーな中に塩味がきいていて、あとをひきます。
そして4品目、まさに栗そのものの見た目をしたフィナンシェは、実・種(再誕生)を表しています。栗の粉に栗のはちみつ、卵と焦がしバターを使ってしっとりと焼き上げた、甘くないフィナンシェです。
続いて登場したのは、マウロシェフのフィロソフィーの大切な要素である「和気あいあいとした、愛に溢れた食卓」を表すようなパン。
マウロシェフが子どもの頃、休日になると集まっていた祖父母の家で、祖母がパンを振る舞ってくれたという大切な思い出があるそう。その思い出のパンのレシピで作った「分け合うパン」です。思い出のひとときのような時間を楽しんでほしいというシェフの思いから生まれています。
こちらのパンは「ミラズール」でも提供されていて、どちらも同じ祖母のレシピをもとにしていますが、国によって同じレシピでも微妙に風味が違ったり、水質が違ったりすることで味わいは変わってくるそう。
パンには、紫蘇の香りをうつした南フランス産の香り高いオリーブオイルも添えられています。そのまま食べてももっちりしっとりしていておいしいですが、オリーブオイルをつけて香りとともに楽しむのもおすすめです。
大地や海の恵みをたっぷりと使った3品の前菜
“誕生”を表す前菜の一皿目は、カラフルな見た目に心が華やぐニンジンが主役のお料理です。
ウニのパンナコッタに、ニンジンと沖縄産のターメリックのピクルス、新鮮な蜜柑、生ウニが順に盛りつけられています。その上から、煮詰めたみかんのジュース、ニンジンのジュースにターメリックの香りをうつしたソースをかけて、スープとともにいただきます。
ウニの磯の香りとみかんのさわやかな香り、シャキシャキとしたニンジンやピクルスの食感が楽しい一皿です。
二皿目の前菜は、マウロシェフのシグネチャーディッシュのひとつである、キャビアの生クリームソースをかけたビーツのカルパッチョ。山、畑、海の間のルーツを連想させるお料理で、フランスではあまり使われてこなかったビーツの価値を高めた一品だそう。
ビーツの根を塩釜焼きで2~3時間かけて調理し、苦みやえぐみをなくして甘みと旨みだけを抽出するようにしているのだとか。
また、同じビーツでもフランスと日本ではかたさや水分量が違います。サラダに使われることが多い日本のビーツは柔らかく、火を入れるとグズグズになりやすいため、料理するのが難しかったといいます。
シェフにとっても思いの強い一皿は、甘みのあるビーツにクリーミーでまろやかなソースが絡み、キャビアの塩味がきいて極上の味わい。手が止まらなくなるおいしさです。
最後の前菜は、セリを使ったのスープの中にシーフードなどが入った温かいお料理。
セリのピューレの上に、オキシジミ、ムール、バイ貝、コウイカなどを調理したラグー(煮込み料理)、むかごとナラ茸をのせ、その上にセリのピューレと貝の出汁、バターをあわせたエマルジョンを注いでいます。
トップにはセリの根をのせ、底には蕎麦の実のプラリネを細かく砕いたものをしいて香ばしさをプラス。
底からまぜるようにすくっていただくのが◎。ぷりぷり食感の貝やほっくりしたむかごは食べ応えもあり、温かくまろやかなセリのピューレやエマルジョンは体中に染みわたるようでした。
メインの肉料理は鹿肉を薔薇で彩って
そして“再生”を表すメイン料理は鹿肉のロースト。
自然な甘みが凝縮された焼きりんごと、薪で焼いた蝦夷鹿の内ももを、藁でいぶして香りをつけたお料理です。
カットした鹿は焼きりんごと生のりんご、そして薔薇、薔薇のジェル、薔薇のパウダーとともに提供されます。薔薇の花の香りを楽しむために、同じバラ科のりんごとあわせたのだそう。
鹿肉にかけるソースは、フレッシュなりんごのジュースをブイヨンにして、ジュニパーベリー、スターアニス、ハイビスカス、薔薇の花を加えて煮詰めたものと、鹿の骨でとったジュレの2種類。薔薇とハイビスカスの香りがふわりと優雅に漂います。とてもやわらかく焼き上げた鹿肉はまったく臭みもなく、お肉の旨みが口いっぱいに広がります。
小皿で添えられているのは、鹿のバラ肉のリエットとりんごのピュレが入った薔薇のチュイル。りんごの酸味と甘味がアクセントになったジューシーな鹿肉が、パリパリ食感のチュイルとよく合います。
締めにマウロシェフのシグネチャーデザートを堪能
“再誕生”を表すデザートには、マウロシェフのシグネチャーデザート「Naranjo en Flor(オレンジと花)」が登場。
オレンジと合わせて煮詰めたサフランクリームの上に生のオレンジと半割のアーモンド、そして甘い中にピリッとした風味のオレンジソルベがのせられ、その上にアーモンドミルクのエスプーマがとろりと。
トップにキラキラと輝くのは、クリスタリン(結晶糖)。
こちらのデザートに冠された「Naranjo en Flor(オレンジと花)」という名は、マウロシェフの出身地であるアルゼンチンのタンゴダンスの名前でもあります。クリスタリンをスプーンで割るとタンゴを踊る音のように聞こえることから、この名前がつけられたのだとか。
さわやかなオレンジのソルベと果肉、まろやかな甘みと香ばしさのあるアーモンド、甘くフローラルなエスプーマと、パリッとした結晶糖…お皿の底からすくい上げてすべて一緒にいただくのがおすすめ。
最後に、コーヒーや紅茶と共にミニャルディーズを楽しみ、コースは終了。こちらのミニャルディーズも、自然のライフサイクルを表現した4種類になっています。
根(誕生)を表すのは、生姜とピンクグレープフルーツのパート・ド・フリュイ。砂糖にも生姜がきかせられていて、小さいながらもピリッとした存在感がある味わい。
バジルのペーストを練り込んだモアール(フィナンシェ)は、葉(成長)を表現しています。しっとりした食感で、バジルのさわやかさを感じます。
そして、まさに花束のようなビジュアルが可憐なお菓子は、花(再現)を表したブーケ・ド・フルール。中には、マリーゴールドの花と葉、金木犀のコンフィチュール、ピスタチオのプラリネが入っています。繊細でくずれやすいのでひと口でいただくのがベスト。
種子・実(再生)を表すのは、砕いたピーナッツを入れた味噌のキャラメルをホワイトチョコレートでコーティングし、落花生を模した可愛らしいお菓子です。本物の落花生と共に登場したので、一瞬どれがお菓子なのかわからないほど。シェフの遊び心が感じられました。
コースはディナーのほか、ランチも3種類で展開しています。いずれの時間帯も、お料理とのマリアージュを最大限に楽しむワインペアリング(¥29,040)はもちろん、インフュージョン、お料理に合わせたお茶などで構成するノンアルコールペアリング(¥10,890)の用意もあるので、おいしいお酒やドリンクとともに料理を楽しめます。
世界一のシェフが手掛ける、自然のライフサイクルが感じられるレストランで、至高の料理の数々を味わってみてはいかがでしょうか。
問い合わせ先
- CYCLE
- 営業時間/平日 17:00〜20:00(L.O.)、土日祝日 11:30〜13:00(L.O.)、18:00〜20:00(L.O.)
- 定休日/月曜日
- TEL:03-6551-2885
- 住所/東京都千代田区大手町1丁目2番1号 Otemachi One 1階
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- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 小林麻美