【ART】これぞ “エンターテイナー” 芦雪の真骨頂!スピード感あふれる筆使いもすごい!

江戸時代・18世紀の京都画壇で稀有な存在感を発揮した長沢芦雪。その、大阪では初となる大規模な回顧展が、現在開催中です。なかでも見逃せないのは、兵庫・大乗寺からやってくるこの障壁画! 美術史家の山下裕二さんに、見どころについてナビゲートいただきました。

山下裕二さん
美術史家
明治学院大学文学部芸術学科教授。日本美術応援団団長として縄文から現代まで論じる。長沢芦雪《群猿図》は近著『日本美術・この一点への旅』(集英社)の表紙にも採用した、旅をしてでも観たい傑作!

【今月のおススメ】長沢芦雪 《群猿図》(部分)

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長沢芦雪 《群猿図》(部分)重要文化財 寛政7(1795)年 兵庫・大乗寺 ※後期展示(11月7日〜)

岩の上でドヤ顔をしているボスっぽい猿や、歯を剥き出して笑っている? 猿、母猿の後ろをくっついて歩く子猿たちなど、生き生きとした姿に魅了される。通常は大乗寺客殿2階「猿の間」に収まっている襖で、山下さんがコタツで鑑賞した当時は非公開。部屋はお寺の人が日常的に使用していた。現在はお寺での鑑賞の際は別途料金が必要(2024年4月11日までは不在で観覧不可)。

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人間みたいななんとも愉快な表情!毛並みもふわふわ!

あれは、1998年の冬のこと。僕は、兵庫県北部の香美町にある大乗寺の客殿2階、通称「猿の間」と呼ばれている部屋で、この芦雪(ろせつ)の《群猿図》を眺めていました。前衛美術家の赤瀬川原平さんと、ご住職と3人で。コタツに入ってミカンを食べながら(笑)。『日本美術応援団』という雑誌連載の取材でね。カニも食べたなあ。香美町って城崎の近くで、カニが有名なんですよね。カニもおいしかったなあ(笑)。 

長沢(ながさわ)芦雪は、伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)らと並ぶ江戸時代中期の「奇想の画家」のひとりです。円山応挙(まるやまおうきょ)の弟子で、師の名代を頼まれることもあったほど高い技術をもつ一方で、作風も人柄も型破り。この作品がある大乗寺の客殿も、1階は応挙《松に孔雀図襖》を中心とする応挙一門の総力を結集した日本一の障壁画空間です。

その2階にあるのが芦雪の猿。思うに、自信家だった芦雪は同門たちと仲が悪かったのでは、と。師である応挙も、芦雪の実力は認めながらも、その不遜ぶりに手を焼いていて、「お前は2階の部屋を描きなさい」と隔離したのでは? なんて考えてしまいました。

悪戯っぽい表情を浮かべる擬人化した猿は、毛の部分を見るとよくわかりますがササーッとすばやい筆使いで描いてあり、今にも動きだしそう。ミカンなんて食べてたら奪われそうです(笑)。人を驚かせたい、楽しませたいというエンターテインメント精神にあふれている。それこそが芦雪の魅力なんです。今回の展覧会はもちろん、機会があればぜひ大乗寺を訪れて、作品を空間ごと体感してほしいと思います。あ、コタツ&ミカンはダメですよ(談)。


【Information】「特別展|生誕270年 長沢芦雪   奇想の旅、天才絵師の全貌」

「個性的な作品だけでなく、若いときから応挙に学んだだけはある正統派の緻密な作品も見どころ。新発見作品の初公開もあるとのことで、楽しみな展覧会です」(山下さん)。

11月7日からの後期展示では《群猿図》のほか、《降雪狗児図》《牛図》など動物への温かな眼差しを感じる作品も紹介。同時代に活躍した伊藤若冲《象と鯨図屏風》や、曽我蕭白作品も展示される。

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EDIT :
宮田典子、喜多容子(Precious)
取材・文 :
剣持亜弥
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