【Contemporary Art】凡庸な美しさを超えた毒々しさに魅了される。アーティスト・蜷川実花が放つメッセージを受け取りたい
群馬県前橋市の公立美術館「アーツ前橋」の、開館10周年記念展が注目を集めています。国内外で活躍するアーティストが、美術館のみならず、街全体で多彩なアートプロジェクトを展開。なかでも今回は、極彩色の作品世界で人々を惹きつける写真家・蜷川実花氏にフォーカスします。
今回は、エディター・ライターとしてご活躍の中村志保さんに、写真家・蜷川実花氏の魅力についてご紹介いただきました。
今月のオススメ:写真家・蜷川実花の作品
蜷川実花さんと言えば、花をモチーフにした写真が代表作として知られていますよね。ネオン街を彷彿とさせる色鮮やかな花たちは、凡庸な美しさを超えて毒々しくもあり、美の追求が行き着く果てにあるものとは?と、ドキッとさせられます。それは、蜷川さんが監督を務めた『ヘルタースケルター』(沢尻エリカ主演)や『人間失格』(小栗旬主演)をはじめとする映画にも存分に発揮されています。また、’16 年から手がける『AERA』誌の表紙は、著名人のポートレイトでありながら、やはり微かに毒の匂いが漂っているのが妙味です。
広告、雑誌、映画、アート…と、まるで垣根など存在しないように行き来する彼女ですが、数年前に、愛媛県松山市の道後温泉で続くアートプロジェクト「道後アート」での作品を目撃した際は、蜷川さんの世界観が3Dで現れ出たかのような錯覚に陥りました。3千年の歴史を持つ日本最古の湯と伝わる道後温泉。国の重要文化財に指定されるその本館は、移築や増築を繰り返したために複雑怪奇な造りをした風格漂う建物で、『千と千尋の神隠し』のモデルとなったとも言われています。その湯屋の障子が蜷川作品で飾られ、夜には妖艶に照らし出されていました。
花とは古来、美と儚さ、永遠や強さの象徴でもあり、自立した女性として現代を生きる蜷川さんが女性たちに送るメッセージではないかと思う瞬間があります。一方で、ふと毒が抜け、あまりにも優しく見える瞬間がある。その“毒”こそが蜷川実花という作家の魅力だと思うのです。(文・中村志保)
【Information】アーツ前橋 開館10周年記念展「ニューホライズン 歴史から未来へ」
群馬県前橋市の公立美術館「アーツ前橋」の開館10周年記念展。特別館長・南條史生が自らキュレーションを務めることでも話題に。蜷川実花を筆頭に、ザドック・ベン=デイヴィッド、スプツニ子!、ハシグチリンタロウら国際的に活躍するアーティストが参加。アートを美術館から街中へと広げ、新しい地域文化の創生を目指す大規模な展覧会。
開催期間:2023年10月14日〜2024年2月12日
開催場所:アーツ前橋ほか(群馬県前橋市千代田町5-1-16ほか)
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- 取材・文 :
- 剣持亜弥(HATSU)
- 構成 :
- 正木 爽・宮田典子(HATSU)、喜多容子(Precious)