「イヤミスの女王」と呼ばれる、作家の真梨幸子さん。「イヤミス」とは、文字どおり「読み終わったあとにイヤな気持ちになるミステリー」のこと。読み出したらイヤな気持ちになるとわかっていてもやめられない中毒性で、昨今人気を集めている作品ジャンルのひとつです。そんな「イヤミスの女王」の真梨さんによる新作『ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで』。自身の実体験をベースとしながら、百貨店の外商を舞台に人間模様を描きだした傑作です。
デパートの外商を舞台に、人々の浅ましさやおかしみを描いた傑作
イヤミスの女王と呼ばれて久しい、作家の真梨幸子さん。新作では「初めてのお仕事小説」を手がけましたが、真梨さんの世界はやはりひと筋縄ではいきません。舞台はデパート。敏腕外商の女性主人公が、顧客のあらゆる無理難題に応えていく笑いも満載の物語ですが、ラストは思いもかけぬ方向へと流れ出します。
「私が貧乏学生だったころ、日給のいい“マネキン紹介所”に登録していて、百貨店に派遣されたんです。そこで見聞きしたびっくりの連続を、いつか小説に書きたいと思っていました」と、真梨さん。
きらびやかな空間に渦巻く、人間の果てしない欲望や嫉妬。展開は息つく暇もありません。「最初はひよっこの女の子の成長物語を考えた」といいますが、書き始めていくうちに変わっていったのだとか。「いつも登場人物が勝手に主張してきて、私の書きたいものをねじ曲げるんです(笑)。でも、そのとき物語に命が宿るんですね」と、新作の誕生秘話を語ります。
40歳での遅咲きといわれるデビュー。怒涛のように書き続けてきた底に「幼少期の何かしらの傷があるんです」と語る真梨さんは、「人の感情の裏表を読む子」だったのだとか。
「だから私にとっての小説はタイムカプセルみたいなもの。必ず私自身が投影されている。ただ最近、困ったことに傷に対して鈍感になって(笑)。そんな折、母が残していた私の子供時代のあれこれ、顔を黒く塗りつぶした絵やら何やらが出てきまして。しめしめ、これで傷をほじくりかえせると。今、“昔の私を訪ねて”がマイブームなんです(笑)」 と、真梨さんは笑いました。
痛快な笑いのその後に、人の世のなんともいえぬ不可思議さが心をざわつかせる作品です。
『ご用命とあらば、 ゆりかごからお墓まで』
STORY
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万両百貨店の外商で働く大塚佐恵子は「殺人以外はなんでもします」という、顧客満足度ナンバーワンのやり手。ある依頼をきっかけに、事件と関わっていくことに。1年半にわたる文芸誌連載を大幅に加筆して書籍化。
- PHOTO :
- 柏原真己
- EDIT&WRITING :
- 水田静子
- RECONSTRUCT :
- 難波寛彦