先日、エルメスにお招きいただき、レザーのパッチワークでモチーフを描く「マルケトリー」という職人技を体験できるワークショップに参加しました。新作ウォッチのフェイス部分で採用されている高度な技術を自らの手で体験できる特別な機会でしたので、その模様をレポートします!
エルメスの職人技を体験できるスペシャルなワークショップ
ワークショップの講師は、スイスのアトリエでレザーのマルケトリーを手掛けるイザベルさん。
靴職人からキャリアをスタートし、34年前からリヨンのアトリエで働いているそうです。最初はバッグや革小物を担当し、直近の8年間は時計に関連するレザーの加工、制作に携わっている、とのことでした。
参加者の前には、カット済みのカラフルなレザーと、それをはめ込む土台となる丸型の黒いレザー、それに地図のようなカードが用意されています。地図には番号が振ってあり、その番号順にレザーパーツが並べてあるので、その順番で土台にはめていきます。
ピンセットでレザーのパーツを挟んで、ひっくり返して裏面に糊をたっぷりと塗ります。充分に糊がついていないとレザーのパーツが固定されないので、ちょっと多すぎるのでは…と感じるくらいの量を塗っていきます。
今回のワークショップで使用したレザーパーツは、アトリエで制作に使用されるものよりも、ひとつひとつのパーツのサイズを大きく、数を少なくすることで、初心者にも扱いやすくアレンジしたもの。レザーの厚みも、通常は0.3mmのところを今回は約0.6mmと、倍のものを使用しているため、なんとか私でも挑戦することができました。
ノリを塗ったパーツをひっくり返して、地図をよく見て「1番」のところにピンセットで置き、竹串でパーツを抑え、ピンセットをはずします。
パーツを貼った後、はみでた糊を押し当てるように白い布で拭きます。そして、レザーパーツが固定されるようにしっかりと押します。
その後は地図を見ながら順番に糊付けし、パーツを貼っていきます。
ところどころ、糊を着けずに仮置きをしてから左右を固めて、その後貼り付けるパーツもありました。その理由は、パーツが複数並んだ際のラインをしっかりと揃えることがとても重要で、ラインを揃えないとその後のパーツが入っていかないから、とのことでした。
スイスのアトリエには、レザーのマルケトリーを手掛けている職人が4名いるそう。大変な集中力が必要な作業なので、目が疲れたらレザーベルトの制作など他の作業に移って、目の疲れが取れたらまたマルケトリーに戻るそうです。
職人には元気で明るい人が多く、いつもは大変にぎやかということですが、このマルケトリーをしている間は、アトリエは静寂に包まれているそう…。納得です。
そんな興味深いお話を伺いながら、すべてのパーツの貼り付けが完成!好きな色のレザーのポンポンを選んで、両側の穴に装着します。
ここで気づきましたが、土台のレザーの裏面には、すでにマルケトリーが施されていました。
「両側の紐を持って、作った作品を回してみてください。何が見えますか?かわいい動物の頭が見えてきませんか?」とイザベルさんに言われやってみると...かわいいうさぎが見えてきました!
イザベルさんは去年から、今回のワークショップでどんなことをするとよいかずっと考えてくださったそうで、今年のエルメスの年間テーマが「驚きの発見」であること、そして今年の干支がうさぎであることから、今回のオブジェの制作を決めた、とのこと。自ら制作したオブジェを回しながら、うさぎを見つけた瞬間は、まさに「驚きの発見」でした!
エルメスの職人が感じる、職場の魅力
ワークショップ終了後、イザベルさんに伺ったお話が印象的でした。
「エルメスの職人同士の人間関係は非常に柔軟で、先輩にあたる職人が一方的に教えるという上下関係ではありません。例えば最初に私が着任した際、革のブレスレットのつくり方をある職人に教えてもらいました。そしてその後、私はメチエダールの制作のノウハウをその職人に教えています。職人間でのノウハウの交換という形でお互いを理解し合い、教え合い、高め合うということができる組織なのです。それは非常に魅力的です」
そして、技術や道具の革新を常に続けていることも教えてくださいました。
「エルメスの技術はどんどん革新されています。例えば今日ワークショップで使った糊は、環境に非常に配慮されているものです。以前は違う糊を使用していて、それは環境にも職人の健康にも影響があるものだったので、糊を変えることを決めました。ただ、糊を変えると制作物の仕上がりが変わるので、新たな糊を使ったときに制作物の仕上がりに遜色がないよう、制作過程を変更しています。こんな風に日々技術革新を続けています」
ワークショップでの体験とイザベルさんのお話を通して、なぜエルメスのクラフツマンシップがこんなにも我々を魅了するのか、その理由に触れた1日でした。
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- TEXT :
- Precious.jp編集部
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