その美しさに誰もがうっとりする92歳は正真正銘、現役のファッションモデル

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2018年、マイケル・コースとディヴィッド・ダウントンのコラボレーションを祝うディナーにて。(C) Astrid Stawiarz/Getty Images for Michael Kors

今、人間の潜在能力が改めて見直されている。100年寿命、100年人生という新しい基準が、1つの常識として徹底されたのも束の間、じつは人間うまくすれば、120歳まで生きられると言う説がリアルに語られるようになってきた。それどころか今世紀中には、130歳まで生きる人が出てくるだろうと言われている。
もちろん寿命だけではない、寿命が伸びれば必然的に、これまでの不可能が可能になるはずで、となれば多くの人の人生が大きく変わってくることになる。

今最も忙しいトップモデルの1人と言っていいのが、カルメン・デロリフィチェ、史上最高年齢の現役モデル、92歳である。その年齢だけなら、そういう現役モデルがいても別におかしくないと思うのだろう。90代女性なりの何かを伝えるモデルがいてもおかしくないと。
しかし実際その姿を目にすると、やっぱり度肝を抜かれる。現役も現役、あらゆる年代がその洗練された美しさにうっとりするのだろうし、モードもひっくるめて心から憧れるはずの、正真正銘本物のファッションモデルの姿がそこにあるからだ。
一体何をするとそうなるのか? 80代の頃のこの人のポートレートを見た時も大いに目を見張ったが、それから10年近く経ってもやっぱり美しさは変わらない。

それどころか、91歳にしてカルメンは、アメリカの雑誌『New You』誌の表紙を飾り、美しいセミヌードまで披露し、大きな衝撃をもたらしてもいる。セミヌードといってもアンダーウェアを身に付けてシーツをまとっているだけなのだが、あらわとなったデコルテや長い脚の美しいこと! もはや神々しいほどだった。
こうなるともう、“一体何をしているのだろう”という俗っぽい想像をするより、人間の目覚ましい進化を信じて、敬意を表するべきなのではないかと思えてきたのである。

一生涯モデルでようとするから一生モデルでいられるのだ。

例えば、バレエの世界でも、“20世紀最高のバレリーナ”とされたマイヤ・プリセツカヤは70歳で、ベジャールの振り付けによる「アヴェ・マイヤ」を初演し、結局89歳で亡くなるまで踊り続けたし、今も舞台に立ち続けている現役プリマドンナの最高齢を誇るのは、日本が誇るバレリーナ森下洋子、75歳。現在もその記録を伸ばし続けている。
普通に考えたらありえないこと。いや、ありえないと考えること自体が間違いなのだろう。人間の能力は、本来がそうした常人の想像を超えてしまうのかもしれない。
そもそも森下洋子さんは、「日本人にバレエは無理」と言われた時代に、26歳で国際コンクールで優勝を成し遂げている。13歳の頃から天才バレリーナとして頭角を表して以来、ずっと第一線で活躍を続けていて、じつにバレエ歴73年、その人は既に、前人未到の領域へ踏み込んでいるのである。

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2000年、モスクワのボリショイ劇場にてパフォーマンスするマイヤ・プリセツカヤ。75歳を迎えた記念として舞踏を披露した。(C)Wojtek Laski/Getty Images

多くのスポーツのアスリートと同じ、バレリーナにも必然的に、年齢的な限界が訪れるのだと私たちは考える。ましてやトウシューズを履く脚への負担を考えれば、膝にも骨にも否応なしに衰えがやってくる60代以降、現役で舞台に立つなどはやはり考えにくいが、その不可能を可能にするのが、おそらくは継続。毎日毎日、1日も欠かさずに当然のようにトウシューズを履き、当然のように踊り続けていたら、70代80代の壁も平然と超えることができるのだ。

モデルと言う職業も同じなのかもしれない。年齢に応じてもうそろそろ引退と思えば引退がやってくる。しかし自分は一生モデルを続けるのだと考えたら一生続けられるものなのかもしれないのだ。それを可能にするのが、ズバリ継続。1度たりとも、やめようなどと思わないことなのである。だから92歳の現役ファッションモデルの存在も奇跡ではない、ちゃんとあり得ることなのだ。

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Guo Peiのランウェイに登場したカルメン・デロリフィチェ。2017年、パリのファッションウィークにて。(C)Kay-Paris Fernandes/Getty Images

美容医療はむしろ芸術性を競うもの?

そしてカルメン・デロリフィチェはそれを今日も実践している人なのだ。あるインタビューにも、こう答えている。
“私たちは日々成長していて、人生最後の日まで、成長をやめない。だから、昨日から何かを学ぶこと。そして時計のように常に変化し続けること……”
なるほどこの人にとっては、90代に入ってからも日々成長なのだ。だからこの先もっとさらに輝く自分を披露することになるかもしれないと、暗示しているよう。
もちろん、仕事ぶりは極めて冷静。一方でこんな言い方もしている。この年齢でなお美しいとすれば、それはスタッフのおかげ。こういう業界に長くいれば、どうすると自分のような年寄りが醜く映ってしまうのかは充分にわかっているから、とも。

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メイクアップアーティストのシャーロット・ティルベリーの限定コレクションを手にとるカルメン・デロリフィチェ。2015年、ニューヨークのバーグドルフ・グッドマンにて(C)Brian Ach/Getty Images for Charlotte Tilbury

そしてこの人は美容医療を受けていることについても自ら臆せず吐露している。自分の場合は、若さにしがみつくためではなく、整形する必要があったからした。例えば、確かに顔にはシリコンが何年分も詰まっているし、両膝にはインプラントが入っている。また首の筋肉にはリラックスのためにボトックスも打っている、などなど。
ただ、美容医療の技術はむしろ芸術性を競うべきもの。そういう意味で自分の担当医は極めて優秀で、小さな針でシリコンを完璧に注入できる人。あまたの整形外科医の中でも、これほどの技術と感性を持った人はなかなかいないと語る。自分が芸術的なまでに美しいのはその恩恵もあるのだということも言って憚らないのだ。そしてだから、この92歳の美貌は人工的ではなく、決して痛々しくない、好感さえもてるのだろう。

そもそも、うっとりするようなこの人の美しさの鍵の1つになっているのが"雪のように白い髪"だけれども、早くも40代の頃から染めるのをやめたと言うから、むしろ自然体であることを好む人なのかもしれない。しかしモデルとして必要だから、美しいものを美しく残す、これだけは仕事の1部として続けてきたと言うのである。
おそらくがむしゃらに美しさに固執し続けたら、このような奇跡的なまでに自然な美しさは保たれなかっただろう。「変化を受け入れること」がこの人のモットー。そしてこうも語っている「人生のほとんどすべては、少ないほうが良い。愛を除いてはね」つまり、愛情以外は、多く望まないで生きていたほうがいいということ。

逆に言えばこの人は生涯モデルであろうとすること以外、何かを貪欲に求める事はなかったのだろう。非常に短い結婚を3回していて、子供は1人。でも好きなことをしている自分は、十分に満たされているとも言った。
幼少期は貧しくはあったものの、シングルマザーである母は、バレエを習わせたり、アスリートとしての未来を模索してくれたり、娘の才能を伸ばすことに極めて熱心な人だった。その娘が90代を超えてもなお自分の母親への感謝を何より先に語り出すほど尊敬をして止まない存在なのだ。
そういう背景からも、ティーンエイジャーの頃からずば抜けた魅力を放っている少女だったのだろう。なんと15歳という史上最年少でVOGUEのモデルとして表紙を飾ることになるのだ。

最年少でトップモデルとなり、最年長にして最強のトップモデル、いかに容姿の美しさに恵まれていたとしても、やっぱりありえないこと。それはまさに多くを望まず生涯一モデルとして生きたいという、真摯な思いが実った結果に他ならないのだ。
それを裏付けるように、「モデルとは身に付けた服をより魅力的に見せるのが使命、そこに少しだけ自分の個性を加えていくことを、ずっと続けてきた」と、本人も語っている。
でも今、モデル界の最高峰に立ち、あるいは最強のモデルと言っても良い存在になったのも、その時その時を最高のモデルとしての役割を全うし続けてきたからに他ならない。とは言え、おそらくは途中、彼女はまだしぶとくモデルをやっているのね、などと陰口を叩かれたこともあったはず。しかし、本来ならば、モデルにとって最大の足かせとなるはずの年齢が、逆にこの人をまぶしいほど輝かせているのだ。皮肉だけれど、そうしたパラドックスが今この世のあちこちで成立しているのである。

102歳のファッションアイコンも年齢を重ねるほどに絶賛を浴びた人

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2021年、ニューヨークのセントラルパークタワーで開催されたアイリス・アプフェル100歳のバースデーパーティーにて。 (C)Noam Galai/Getty Images for Central Park Tower

先ごろ102歳で亡くなったアイリス・アプフェルは、インテリアデザイナーで実業家という肩書きを持ちながらも、亡くなる間際まで最強のファッションアイコンとして君臨し、それこそ90代で化粧品のコマーシャルに出演するなど、ファッション界で目覚ましい活躍を見せた。何よりも、カラフルの定義を変えてしまうほどの目が覚めるような多色遣いや、大振りのサングラス、大玉のネックレスなど、全くもってユニークなド派手なファッションが絶賛された人。それこそ、普通ならば単に満艦飾の常軌を逸したファッションに見えてしまうところ、この人はそれを別格のセンスとして見せつけてくれたのだ。
ひょっとするとそれも90代と言う年齢が、危ういファッションさえも重厚な価値あるものとして見せる鍵となったかもしれない。つまり年齢は、そういうふうに人をもう一度輝かせ、評価させる糧となるものなのだ。

カルメンもアイリスも、単なるセンテナリアン(もともと長生きをする遺伝子を持った人)ではない。年齢と言う呪縛に囚われずに生きた人に他ならないのだ。
来る100年時代における"90代の自分"を想像したことがあるだろうか。おそらく実際のあなたは、その想像とは大きく違っているはずだ。時代は刻々と人を進化させていて、私たちが90代になった時、時代も自分自身も想像を超えるほどに艶やかな姿へと変貌しているに違いないのだ。いや今と全く同じように現役でいるかもしれない。美しさも仕事ぶりも精神力も全てが今以上かもしれない。そんな未来を想定しながら改めて明日からを生きてみたい。

カルメンの言葉を借りて、「全ての人は製作中の芸術作品なの」だから。

この記事の執筆者
女性誌編集者を経て独立。美容ジャーナリスト、エッセイスト。女性誌において多数の連載エッセイをもつほか、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザー、NPO法人日本ホリスティックビューティ協会理事など幅広く活躍。『Yahoo!ニュース「個人」』でコラムを執筆中。近著『大人の女よ!も清潔感を纏いなさい』(集英社文庫)、『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)ほか、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など著書多数。好きなもの:マーラー、東方神起、ベルリンフィル、トレンチコート、60年代、『ココ マドモアゼル』の香り、ケイト・ブランシェット、白と黒、映画
PHOTO :
Getty Images
EDIT :
三井三奈子