認知症になり、娘である千紗子の存在も忘れ、日に日に衰えていく父・孝蔵役を演じたのは名優・奥田瑛二さん。また、記憶喪失の少年・拓未を演じたのは子役・中須翔真さん。映画『かくしごと』では、杏さん演じる千紗子がついたひとつの嘘をきっかけに、次第に明かされていく家族の秘密と芽生えていく絆を浮き彫りにします。インタビュー2回目では、関わる人たちとの関係性や〝嘘〟への向き合い方を語っていただきました。

俳優の杏さん
シャツ¥217,800[予定価格/6月中旬発売予定]・パンツ¥225,500(フェンディ ジャパン) 靴¥130,900(セルジオ ロッシ カスタマーサービス<Sergio Rossi>) ピアス¥242,000[片耳価格]・ブレスレット¥649,000・ネックレス¥847,000・リング¥352,000(フレッド カスタマーサービス<FRED>)
すべての写真を見る >>
杏さん
俳優
(あんさん)1986年、東京都生まれ。'01年モデルとしてデビュー。'05年から海外のプレタポルテコレクションで活躍し、'07年に俳優デビュー。2023年には映画『TOKYO MER~走る緊急救命室~』『キングダム 運命の炎』『私たちの声』『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』『窓ぎわのトットちゃん』と、数々の話題作に出演。俳優業を中心に、ナレーターや声優など多彩に活躍。2022年からは、3人の子供と共に日本とパリの二拠点生活を送る。日々の暮らしを伝える、YoutubeやInstagramも人気。

【俳優・杏さんインタビューVol.01】自分の中で大きくなった感情を出して挑んだ、〝偽りの母親〟

「嘘から生まれたのは、箱庭の中で儚い花が枯れるまでのような愛おしいひととき」

――奥田瑛二さん演じる認知症の父・孝蔵の佇まいに圧倒されましたが、共演されていかがでしたか?

「撮影当時は、本当の奥田瑛二さんという人物をまだ知らないと感じるほど、役に没入していました。プロモーションで役衣装とは違うスーツ姿でお会いしたときは、『はじめまして』という気持ちになったくらいです。待ち時間も役を抜ききらない状態で過ごされていましたし、それほど深いところまで潜っていくアプローチがなければ、この作品は生まれなかったのではないかと思います」

――記憶喪失の少年・拓未を演じた中須翔真さんとの自然なやりとりにも引きこまれました。

「翔真くんは役柄に暗い過去があったり、明るく無邪気な部分もあったり、多面的で大変だったと思いますが、自立したひとりの役者として見事に体現していました。

関根光才監督は、つくり込むのではない生の表情を、他の大人がどうやったら引き出せるかを大事にされていて。特にラストシーンは、私も『テストを重ねるのではなく、場当たりの後に本番に入れたら』と事前に相談させていただきました。出来上がったシーンを観て、ゾクッとするような最後になったなという衝撃がありましたね」

俳優の杏さん
「ゾクッとするようなラストシーンになりました」(杏さん)

――本作を「現代のおとぎ話のよう」と受け止めたとのこと。その心は?

「虐待されている少年を救うために母親のふりをするというのは、現実にあったとしても、いつかはほころびが出てしまいますよね。未来永劫続く環境ではなく、社会保障や学校の問題など多くのハードルがあり、ひと夏だけ成立することができた物語ではないかと。

まるで箱庭の中で、儚い花が枯れるまでのひとときのような、甘く愛おしい時間。でも必ず終わりが来る。その虚しさや哀しさを抱えながら、笑顔がある。ラストシーンからエンドロールへつながる映像には、監督の思いが込められていて、観る人にとっても想像の余地があるところがすごく素敵だなと感じました」

俳優の杏さん
「まるで箱庭の中で、儚い花が枯れるまでのひとときのような、“おとぎ話”のようなお話です」(杏さん)

――登場人物たちは各々何かしら“かくしごと”があって、それが物語を動かすスイッチになっていきますが、杏さんご自身は、嘘に対してどのように向き合っていますか?

「“嘘も方便”ということわざがあるように、嘘が必ずしも悪いわけではない場合もありますよね。『大丈夫だよ』と安心させることも、解釈次第では嘘かもしれませんし、そうでないかもしれません。大事なのは、その状況にどう対処したかを自分自身が知っていることなのかなと。後ろめたさや後悔があるかどうか。根底にあるのは自分の利益のためなのか、他人の利益のためなのか、考えていきたいと思っています。

家庭では子供たちが嘘をつく年齢になってきて、そういった話をする機会が増えました。『正直に謝ったほうがいいよ』という以上に、嘘をつくことで信用を失う恐ろしさを伝えるのは簡単ではないですね。完全に清廉潔白な人間になるのは大人でも難しいことですが、子供たちには、『君たちがついている嘘の延長線上には、怖いことがあるんだよ』と伝えています。

「完全に清廉潔白な人間になるのは大人でも難しいことですが、嘘の怖さも伝えています」(杏さん)
「完全に清廉潔白な人間になるのは大人でも難しいことですが、嘘の怖さも伝えています」(杏さん)

――劇中の人間模様のように、関係が近いほど「こうあってほしい」という思いが強く出てしまうことは、観る人にとっても身に覚えがあると思います。身近な人とコミュニケーションを取る上で気をつけていることはありますか?

「たとえば、自分は子供たちがいて、なかなかフットワーク軽くは動けないというとき。友人やシッターさんが訪ねてくれた場合は、その距離とか時間をちゃんと想像して、当たり前だと思わないでいたいです。『神奈川から1時間かけて来てくれたんだ』『乗り換えは2回はしてくださってるな』と考えて、『来てくれてありがとう』で終わらないようにしないといけないなと、自戒の念を込めて」


杏さんインタビューVol.03では、感情が揺れ動く撮影と日常生活をどのように両立していたのか教えていただきました。ぜひ映画とあわせてチェックを!

映画『かくしごと』 2024年6月7日(金)全国公開!

映画「かくしごと」キービジュアル
(C)2024「かくしごと」製作委員会
すべての写真を見る >>

絵本作家の千紗子は、認知症を患う父・孝蔵の介護のため、渋々田舎に戻ることに。よそよそしい父との生活に疲れ果てていたある日、事故で記憶を失った少年と出会う。少年の体には虐待の痕があり、千紗子は彼を守るために自らを母親だと偽ることを決意する。
ひとつの“嘘”から始まった千紗子と少年、そして認知症が進行する父との共同生活。ぎこちないスタートながらも、次第に心を通わせ、新しい家族の形が生まれていく。しかし、そのささやかな幸せは長くは続かなかった。
なぜ彼女は嘘をついてまで少年を守ろうとしたのか。少年に隠された秘密、思い出してはいけない過去、ひとつの嘘をきっかけに明かされていくそれぞれのかくしごととはー。

脚本・監督:関根光才
原作:北國浩二『噓』(PHP文芸文庫刊)
出演:杏、中須翔真、佐津川愛美、酒向芳、木竜麻生、和田聰宏、丸山智己、河井青葉、安藤政信 /奥田瑛二
音楽:Aska Matsumiya
主題歌:羊文学「tears」F.C.L.S.(Sony Music Labels Inc.)
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)2024「かくしごと」製作委員会

公式ホームページ / 公式X

問い合わせ先

関連記事

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
PHOTO :
三宮幹史(TRIVAL)
STYLIST :
中井綾子(crêpe)
HAIR MAKE :
犬木 愛(AGEE)
WRITING :
佐藤久美子
EDIT :
福本絵里香