東京・日比谷で国内外の賓客を迎えてきた「帝国ホテル 東京」。2021年より、帝国ホテル 第14代東京料理長 杉本雄氏のプレゼンテーションによる「食のサステナビリティフォーラム」が行われています。
2024年のテーマは「今の時代の料理人を作る」。食を取り巻く環境がめまぐるしく変わっていく昨今。日本の食の頂点ともいえる存在である帝国ホテルは、どう食と向き合っていくのでしょうか。
約250人の料理人を束ねる杉本氏が語る料理人の新しい働き方について、また、ダイバーシティ経営で注目を集める「ポーラ(POLA)」代表取締役社長 及川美紀氏との対談の様子をレポートします。
「帝国ホテル 東京」の「食のサステナビリティフォーラム」
これまでの「食のサステナビリティフォーラム」振り返り
2021年に行われた第1回目のテーマは「ラグジュアリー×サステナビリティ」でした。「食材の恵みを最大限に生かして無駄なく使い切り、余すことなく使う」ことをテーマに掲げ、相反すると思われるラグジュアリー、きらびやかさと、サステナブルや道徳的なことを、どのように両立させていくべきかを提案しました。
「発端は初代会長の渋沢栄一という大きな存在があります。道徳と経済を両立させ、健全にその両輪を回すことが社会、国を作っていくことだと唱えた初代会長の思いを、今の時代の食のシーンでどう生かすべきなのか」(杉本氏)
それには大量生産・大量消費のスタイルから、量より質への転換を図っていく必要があり、どうしても出る食品ロスから目を背けず、ロスが出ないレシピ作りをしていく必要性を提言しました。
第2回のテーマは「繋ぐ輪でおいしく社会を変える」。食を通じて社会課題を解決していく新たなプロジェクトとして、具体的な取り組みに進んでいきます。従来は低価値な出産を終えた後の経産牛や、市場に出回ることが少ない未利用魚を積極的に利用。また、平均で2.5t/年も廃棄していたというサンドイッチの耳の廃棄の削減に着手。耳まで白く口当たりのよいパンのレシピを開発し、商品化に成功しています。
フォーラムを開催しなかった2023年においても、取り組みは進められ、多様性を重んじたコースメニューを提供する「サスティナブルウェディング」や、バナナやパイナップルの生産・販売を行う「ドール(Dole)」によるSDGsの取り組みである「もったいないバナナプロジェクト」に賛同した「Le Bâton B(ル バトン ビー)」というチョコレートテリーヌの商品化に至っています。
第3回のテーマは「今の時代の料理人を作る」
第3回目となる2024年のテーマは「今の時代の料理人を作る」。飲食店もホテル業界も人手不足が叫ばれる昨今。そもそも調理師専門学校の入学者数が減少しているという現状があると言います。さらに、学生たちは「料理業界は体力的に厳しい」というイメージを持ち、成長重視タイプと安定志向タイプの二極化してきていることもわかってきたそう。
そんな中で「今の時代の料理人」を育成し、「サステイナブルな組織」となっていくために、帝国ホテルの料理人たちをどうまとめていくか。手始めに若手料理人の意見を直接吸い上げられる「ラウンドテーブル」を定期的に開催。杉本氏を囲んだランチ会を始めたと言います。雲の上の存在である料理長と直接、会話ができるチャンスを得た若手スタッフは「思っていたよりも気さくで話しやすい方でした」と語っていました。
そうして、男女問わず、個々が活躍できる場を作りながらも、帝国ホテルを強いチームとして創り上げ、料理業界の働き方も変化させていきたいという杉本氏。
後半は個を活かすことで企業価値を上げていった先行事例として知られる、国内屈指の化粧品メーカー「ポーラ(POLA)」の代表取締役社長 及川美紀氏とのトークセッションが行われました。
及川氏は1991年、株式会社ポーラ化粧品本舗(現 株式会社ポーラ)に入社後、美容教育営業推進業務に携わり、2009年以降、商品企画部長、執行役員、取締役等を歴任。2020年1月にポーラでは初めての女性社長に就任しています。
ポーラでは心理的安全性を担保しながら対話を重ね、個人のwill(実現したいこと)を引き出しつつ、会社のパーパスに向かうことが個性活躍型の組織になると考え、仕組みづくりを行っていると語る及川氏。
杉本氏は「社員には『働き方を自分でデザインしましょう』とよく言う」という及川氏の言葉に、感銘を受けた様子でした。さらに、流動性が高くなっている昨今、どういう組織であればいいのかと杉本氏が問います。
それに対し、及川氏はポーラでは採用の段階から、会社のパーパスを理解し、それを実現するために何が必要か、個とのすり合わせを行っていると回答。また、社員のES調査も行い、“自分の仕事に対する誇り”に関する項目を常にチェックしていると言います。
さらに退社した人が再入社しやすい雰囲気づくりも行っているそう。戻ってきた社員は他社での業務で視野が広がった上で、ポーラの理念に共感しているため、意欲が高く、それを見た残っている社員のモチベーションも上がるのだとか。
杉本氏が帝国ホテルでも帝国ホテルの本質を揺るがさずに、より個々人が活躍できる場を作っていきたいと抱負を述べ、閉会となりました。
日本の料理業界の最高峰として、また、ホテル業界をけん引する存在として、唯一無二の存在である帝国ホテル。今の時代に合った料理人を育成していきながら、サステイナブルな組織を作りあげ、今後、新しいスタンダードをも作っていくのではないでしょうか。
問い合わせ先
関連記事
- 「帝国ホテル 東京」や「アマン京都」など|ラグジュアリーホテルで楽しむ「初夏のパフェ」8選
- 「帝国ホテル 東京」初夏の味わい!抹茶や季節のフルーツを使った「テイクアウトスイーツ」6選
- 15周年記念メニューも!帝国ホテル 東京にて「ハワイ ハレクラニフェア」が今年も開催
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 田中いつき
- EDIT :
- 小林麻美