時代の流行や景気に合わせ、ベルトは多様に変化する
普段、何気なくクローゼットから手に取る「ベルト」。靴やバッグと同じように、ベルトだけを買いにお気に入りのショップへ行く人は少ないかもしれません。
しかし、ベルトはファッションを引き立てる、いわば「名脇役」として常にトレンドと関わり合い、百貨店の売り場を席捲した時代もあるのです。
今回は、ちょっぴり地味でありつつ、コーディネートを引き立ててくれるファッションアイテム、ベルトに注目。 東京洋装雑貨工業協同組合の理事長、杉本光延さんにその歴史を伺います。
ベルトはファッションを引き立てる名脇役
—ベルトは、ファッションの歴史とどのように関わってきたのでしょうか?
「ベルトというのは基本的には、洋服の脇役なんですよね。今までのファッションの歴史を振り返ると、『ミリタリールック』とか『カジュアルルック』とか、そういうファッションのトレンドに合うようなベルトが販売されています。
例えば、2017年に人気だったサッシュベルト。もともとは、17世紀の欧州諸国で軍隊を識別するために用いられていました。今とデザインは変わりますが、日本でも明治時代からあります」
「1950年代には、海外でシャネル、ディオール、いろいろなブランドがパリやミラノでコレクションを発表していました。それを見た世界中のバイヤーやファッション関係者たちが自国に戻って、自国に合うファッションを考えていた時代でした。振り返ってみるとそういう気がします。
時代の状況やトレンドに合わせて、デザインが工夫されていく、それがベルトなんです」
ベルトは文明開化の海外との交流からはじまった
—では、日本にベルトが登場したのはいつ頃なのでしょうか?
「欧米諸国は洋装の歴史が長いので、ベルトは必要不可欠ですが、日本にベルトが輸入されたのは今から170年くらい前のことです。
明治時代、横浜に『鹿鳴館』という外国人との社交場がありました。そこで当時の上流階級が洋服を着て、海外の要人と交流を図ったのがベルトの始まりだと言われています。
その前は、ベルトなんてものはなくて。ズボン吊りとかガーターとか、そういうものを使っていたんです。それこそ、戦争が終わった当時は、ベルトの材料となる素材がありません。軍の落下傘の紐を分けてもらってつくったり、布の歯切れを編んでつくったりしたものがほとんどでした。ベルトというよりは、いわゆる紐みたいなものだったんですよ」
脇役が売り場を席捲した「百貨店全盛期」
—ベルトが日本国内で広まった当時のことを教えてください。
「昭和58年に、今はなき原宿の『ハナエモリ』のビルでベルトをメインにしたファッションショーをやったんです。そのころ、ベルトはすごくおしゃれな人しか使わないアイテムでした。ショーは、ベルト業界のイメージアップにつながったのではないかと思います。
そして、ベルトの認知度が広がり、各百貨店に広い面積をつかったベルト売り場ができました。当時は、百貨店全盛時代。伊勢丹、三越、髙島屋、西武、松屋、松坂屋…。どの場所にもラックいっぱいにベルトが並べられていました。そのときのベルト業界の売り上げは、何十億円もの売り上げでした」
「それが今日、売り上げが下降し、だんだんベルトの売り場がなくなってきたんです。だから、今ではベルトを扱っていない百貨店もあります。原宿や渋谷の駅のショップや小売店に販売が移行しています」
ファッションの歴史と関わりの深いベルト
—具体的にベルトにはどんなトレンドがあったのでしょうか?
「例えば、ディオールが『ニュールック』を発表したときは、細いウエストを強調するために幅広のベルトが用いられました。'60年代には、モデル・女優のツイギーの影響で、日本でも20代前半くらいの若い子を中心に、ミニスカートが流行します。当時は、ミニスカートの腰部分にベルトを通すアイテムもあるほど、腰の少し上にベルトをつけるのがトレンドでした。ちょうど同じころ、’60年代後半に、パンタロンスーツもブームになり、婦人物ベルト産業の会社が増えるんです。
そして、’70年代はミディやマキシ丈のスカートへと移行します。これによって、ベルトはウエストマークの位置が増えて、細いエナメルベルトがブームになりました。よく、『世の中が明るいとファッションは色が明るくなる』と言いますよね。それはベルトでも基本的には同じことが言えるのです。景気が悪くなると、暗い色になるし、’80年代は明るい色が主流でした」
ベルトに注目すればファッションがもっと好きなる
「今は世の中の変化によってさまざまな価値観が誕生しています。1980年代はバブルの影響もあり、高くてもモノが売れる時代でした。
ただ、今は洋服が昔より買い安くなっているのに、それに比べてベルトは高いんですよ。1万円とか2万円のベルトだと、女性のファッションならトータルのアイテムが買えてしまう。好きな人は購入しますが、ベルトがだんだん売れなくなるのは、ある意味必然なのかもしれません。
ただ私としては、ベルトにもっと注目してほしいと思っています。
例えば、『ジュンアシダ』や『イッセイミヤケ』など、日本人のデザイナーが発表するコレクションのベルトに注目してみるとか。デザイナーがどんなベルトを好むのかがわかっておもしろいものです」
女性らしいシルエットをつくったり、コーディネートにメリハリをつけたり。ベルトには、トレンドと深く関わりながら、脇役としてファッションを引き立ててきました。そして、他のファッションアイテムと同じように、時代のトレンドがあるのです。
次にショッピングに出かけた際は、今販売されているベルトの色をチェックしてみてはいかがでしょうか。
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- TEXT :
- Precious.jp編集部
- EDIT&WRITING :
- 高橋優海(東京通信社)