「この○がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日——「○」に入るのは、そう「味」ですね。歌人、俵万智さんの短歌「サラダ記念日」は、「国語の授業で習った」という人もいるでしょう。今回は、7月6日になるとどこからともなく聞こえてくる、この短歌について、さくっとご紹介します。

【目次】

「サラダ記念日」は“元祖いいね!”ともいわれます。
「サラダ記念日」は“元祖いいね!”ともいわれます。

【教科書にも掲載されている短歌「サラダ記念日」とは? 】

■概要

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日――これは、1987(昭和62)年5月8日に刊行された俵万智さんの初歌集『サラダ記念日』の中の一首(いっしゅ)、歌集のタイトルにもなった「サラダ記念日」です。

■作者について

大阪府生まれの歌人・俵万智さんは、この歌集刊行当時は20代半ば、高校の国語教師でした。口語の会話調で日常の景色や若い女性の心情をのびのびと歌い上げた『サラダ記念日』は、歌集としては異例の初版8000部で刊行され、瞬く間に重版を重ねて1年足らずで200万部を突破。「サラダ記念日の俵万智さんが教師をしている学校です」と、勤務していた神奈川県の県立高校の門前で観光バスが速度を落とすというようなこともあったとか。俵さんは「与謝野晶子以来の大型歌人!」「若き天才歌人!」などとも称され、昭和末期に一大短歌ブームを起こしました。

■「サラダ記念日」の意味

「サラダの記念日」なのではなく、「彼が私の料理をほめてくれた記念日」です。自らの感受性と、瑞々しい感性をもつ高校生と接する日々から生まれた何気ない日常の喜怒哀楽を詠んだこの歌は、記念日ブームをももたらしました。ちなみに、サラダ専門店やスーパーマーケット、ドレッシングを製造する食品メーカーなどが、“7月6日はサラダ記念日”としてPRに活用することもあるようです。


【ビジネス雑談に役立つ「サラダ記念日」の豆知識】

■累計発行部数280万部超えのお化け歌集

歌集の初版が8000部というのは異例の多さ。版元である河出書房新社の期待が高かった証しです。発売から2か月後、初めて訪れた7月6日の「サラダ記念日」に朝日新聞のコラム「天声人語」で取り上げられ、営業部に注文が殺到したとか。以降毎週8万~20万部の重版を重ね、発売から3か月で100万部を超えるミリオンセラーに。年末には200万部を超え、1987年度ベストセラーランキング1位に輝きました。同年の新語・流行語大賞では「サラダ記念日」が「新語部門・表現賞」を受賞しています。

■実際、「いいね」と言われたのはサラダではなく鶏のから揚げだった?

「サラダ記念日」は俵さんの実体験がもとになった短歌ですが、ディテールは違うよう。実際にはサラダではなく、カレー味の鶏のから揚げ。ボーイフレンドと野球の試合を見に行った際に持参した、手づくり弁当のおかずだったそうです。「歌に詠むには唐揚げはヘビーすぎる」ということでサラダに変更したのだとか。

■なぜ7月6日?

また、実際のデートは5月だったようですが、「サラダにピッタリな初夏の7月6日にした」のだとか。恋人たちのイメージがある7月7日の七夕の前日を選んだのは、“なんでもない日の何気ない喜びを記念日としたほうが効果的”という文学的意図があったそう。さすがですね。


【「短歌」と「俳句」はどう違う?さらに使える雑学 】

「サラダ記念日」が世に放った空前の短歌ブームから35年以上が経ちましたが、今また短歌が“キテ”います。TBS系で放送中のバラエティ番組『プレバト!!』で歌を詠むことのハードルが下がったり(こちらは俳句ですが)、NHK大河ドラマ『光る君へ』でちょっとした平安文化ブームが訪れていることも要因となっているよう。「サラダ記念日」当時と大きく違うのは、現在の短歌ブームをけん引しているのはSNS世代の若者だということです。

ところで…「短歌」と「俳句」の違いを言えますか? 「川柳」って何? 「和歌」っていうのは? そんなハテナにお答えしましょう。

■「短歌」「俳句」「川柳」の違い

「短歌」「俳句」、さらに「川柳」の決まり事を整理します。

・短歌5・7・5・7・7の5句31音を基調とする/季語は不要/1首2首と数える/出来事+想いを詠む

・俳句5・7・5の3句17音を基調とする/季語が必要/1句2句と数える/「俳諧(はいかい)の句」を略したもの。「俳諧」はおかしみや滑稽味を意味する言葉

・川柳5・7・5の3句17音を基調とする/季語は不要/1句2句と数える/風刺や機知、世相などを詠む

「和歌」とは日本独自の詩歌の形態を言い、「和」は日本の古い呼び名である「倭(やまと)」のことなので「和歌」は日本の伝統的な歌を意味します。5音と7音の繰り返しを基調とし、長さに決まりはありませんが5・7・5・7・5・7・5・7…5・7・7と、長いものは長歌(ちょうか/ながうた)と呼ばれ、最後は7音を2回続けて終わるのがルールです。そうです、最後は「5・7・5・7・7」と「短歌」の形になりますね。そこからもわかるように、「短歌」は「和歌」のひとつなのです。

■日本でいちばん最初の歌集は?

現存する日本最古の歌集は「万葉集」。7~8世紀の間に編さnされ、長短さまざまな歌4500首を全20巻に収めた歌集です。「万(よろず)」の「言葉」を集めた歌集とも、「万世(よろずよ)」に伝えるものともいわれます。

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「短歌」や「俳句」をつくることを「詠む」と言います。これは日本の詩歌は声に出して伝えたいことを相手に示す「詠む」ものだったから。想いを伝えるため声に出すこと「詠む」と言い、文字を目で追って理解することは「読む」。音(おん)は同じでも意味によって漢字を使い分ける——日本語の美しさがここにもあります。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本大百科全書(ニッポニカ)』(小学館)/『デジタル大辞泉』(小学館)/一般社団法人日本記念日協会 https://www.kinenbi.gr.jp :