吉高由里子さん主演で平安時代の雅な世界を描いた話題のNHK大河ドラマ『光る君へ』の第27回が放送された直後、SNSのトレンドに「閨房」という言葉が上がりました。「閨房」というワードは、藤原道長の妻・倫子(ともこ)が入内が決まった彰子(あきこ)の教育係である女房・赤染衛門(あかぞめえもん)に、「入内して目立たなければ死んだも同然」だから、天皇の目に止まるよう、目立つように、という意味で「彰子に華やかな艶を身につけさせてほしい」と頼み、赤染衛門がそれを「閨房の心得」と勘違いする…というシーンに登場します。今回は、この「閨房」という言葉について、解説します。

【目次】

「寝室、特に夫婦の寝室」を意味します。
閨という漢字じたい、あまり見かけませんよね…。この一文字だけで「婦人の寝室」という意味があります。

【「閨房」とは?「読み方」「意味」など「基礎知識」】

「読み方」

「閨房」は「けいぼう」と読みます。

■「意味」

「閨房」には、「女性の居間」という意味のほかに、「寝室、特に夫婦の寝室」という意味があります。ここから転じて、「夜の営み」を示唆することも。平安中期くらいまでは男性の通い婚が一般的だったため、「女性の寝室=夫婦の寝室」というのが共通認識だったのかもしれません。

娘・彰子に、周囲を惹きつける華やかな明るい雰囲気を身につけさせたかった倫子に対し、赤染衛門先生はすっかり勘違いして、「閨房の心得」、つまり「性教育」を彰子に施していたんですね!
「やすらわで寝なましものをさ夜ふけて傾(かたぶ)くまでの月を見しかな」
(あなたが来ないとわかっていれば、さっさと寝てしまえばよかった。来るのを待って、西の山に入っていく月の姿まで見てしまったわ…)
こんな艶っぽくもストレートな和歌を詠む赤染衛門が教えた「閨房の心得」は、どんなものだったのでしょう…気になりますね。

紅閨とは?

「閨」には「女性の部屋」「寝室」という意味があり、「房」も「部屋」を意味します。女性、特に「美人の寝室」は「紅閨(こうけい)」と呼ばれ、「翠帳紅閨(すいちょうこうけい)」は、「翠帳(緑色のとばり)を垂れ、紅色に飾った寝室、貴婦人の寝室」を意味します。


【「類語」と「英語」での言い方】

「寝室」という意味での「閨房」の言い変え表現をご紹介します。

■「類語」「言い換え」表現

・房室
・寝部屋
・ベッドルーム
・寝間
・臥房

■「英語」で言うと?

「寝室」は英語で[a bed chamber]。「閨房での睦言(むつごと:寝室での男女の会話)」は[pillow talk]です。


【「閨房外交」とは?】

絶対王政期のヨーロッパにおいて、外交官が成功を収めるために最も重要なことは、君主あるいはその周辺(王妃・寵妃・宰相・寵臣など)、外交政策での意思決定に最も近い人の歓心を得ることでした、そのためには、彼らに対して金や高価な品物を贈るのはもちろんのこと、各種宮廷行事などに参加して接触の機会を増やし、最終的にはその信任を得ることを目指したのです。一流の外交官は公式の場ではなく、夜中に接受国の君主の寝室に通されて直接重要交渉を行うものとされ、その究極の形が、閨房外交(けいぼうがいこう)でした。君主またはその周辺の人物との間で私的な愛人関係を結び、その恋愛感情を利用して外交を動かそうとしたと言われています。

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『光る君へ』放送後は、SNSに「(赤染衛門を演じる)凰稀かなめさんの閨房教室!」「『閨房以外に知恵はないの?』って、パワーワード……!」といった声が。花山天皇の閨房でのお振る舞いといい、今回の大河は攻めてますね!

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