【ART】3月に逝去した彫刻家・舟越桂が遺したものとは── 生前準備を続けていた企画展が箱根で開催

性別を感じさせない人物像や、両性具有の《スフィンクス》で知られる舟越桂。さまざまな作品がありますが、そのテーマは一貫して「人間とは何か」でした。今年3月、72歳で逝去した、日本を代表する彫刻家の作品を、今こそ。

この展覧会について、美術ジャーナリストの藤原えりみさんにご案内いただきました。

藤原えりみさん
美術ジャーナリスト・女子美術大学、國學院大学非常勤講師
雑誌などでの執筆のほか、展覧会図録制作にも携わる。現在「アプリ版ぴあ」で水先案内人を務める。著書に『西洋絵画のひみつ』(朝日出版社)ほかがある。

【今月のオススメ】舟越桂《樹の水の音》

展覧会_1
舟越桂《樹の水の音》2019年 楠に彩色・大理石 93×46.5×31cm 西村画廊蔵、Photo: 今井智己 (C)Katsura Funakoshi Courtesy of Nishimura Gallery(※この写真は所蔵者の許可を得て撮影しています。実際の展示風景とは異なります)

「遠い目の人がいる。自分の中を見つめているような遠い目をしている人がときどきいる。 もっとも遠いものとは、自分自身なのかもしれない。世界を知ることとは、自分自身を知ることという一節を思い出す」(創作メモより)。

クスノキに彩色を施した作品はどれもミステリアスな表情。大理石の瞳には何が映っているのだろう。遠くを見つめる眼差しをもった舟越の人物像は、国内のみならず国際展などでも高く評価されている。


どこを見ているのか。何を見ているのか。遠くを見ているようでいて、自身の内面に集中しているような表情でもある。なんとも形容し難い佇まいの人物像です。彫刻家、舟越桂の作品を初めて観たのは1970年代の終わり頃だったと記憶しています。ロダンや高村光太郎のブロンズ像とはまったく違う。木彫で、こんなにリアルな人物ができるのか、と衝撃を受けました。

初めての本格的な木彫作品は、大学院生時代に、北海道のトラピスト修道院の依頼で2年をかけて制作した、巨大な聖母子像でした。このとき彼は、自分が扱うべき素材は木なのだ、と気付いたそうです。

彼の作品の前に立つと、木のずっしりした存在感や湿度まで感じられて、思わず手を伸ばして触れたくなります(もちろんダメなのですが)。瞳が大理石でできているのも大きな特徴です。これは、鎌倉時代の運慶快慶作品でもよく知られる、眼の部分をくり抜いて水晶をはめ込む「玉眼」という伝統技術を生かしたもので、暗い堂内で仏像に対峙するときのような、瞳の輝きのリアリティから目を離すことができません。この眼差しには、観る人に伝わる何かがある。無二の魅力だと思います。

かつて取材でアトリエに伺ったことがありますが、穏やかで、物静かな方でした。今回、箱根の彫刻の森美術館というロケーションで舟越作品を観られることが、とても楽しみです。舟越作品と向き合うとき、私たちは自分自身の内面を見つめているのかもしれません。大切で特別な時間が流れることでしょう。(談)


【Information】彫刻の森美術館 開館55周年記念舟越桂 森へ行く日

開館55周年を記念した展覧会として昨春より準備を進めていた。半人半獣の「スフィンクス」シリーズほか数々の代表作から最晩年の作品までが並ぶ。

期日:7月26日(金)〜11月4日(月)まで
場所:彫刻の森美術館

問い合わせ先

彫刻の森美術館

TEL:0460-82-1161

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WRITING :
剣持亜弥
EDIT :
剣持亜弥、喜多容子(Precious)
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