「神嘗祭」とは、その年に実った米でつくった酒などを伊勢神宮に奉納する、皇室の神事です。ニュースなどで見聞きしたことがあるのではないでしょうか。今回はこの「神嘗祭」について、意味や由来などを解説します。

【目次】

「にわかファン」といわれてムッとした経験は?
「神嘗祭」は「かんなめさい」、「新嘗祭」「にいなめさい」と読みます。

【「神嘗祭」とは?基礎知識】

■読み方

「神嘗祭」は一般的には「かんなめさい」と読みますが、「かんなめのまつり」「かんにえのまつり」「しんじょうさい」と呼ばれることも。

■意味

神嘗祭は、五穀豊穣の感謝祭で、毎年秋に執り行われる神事です。新穀でつくった神酒(みき)と神饌(しんせん)を天皇が神宮に奉ります。ちなみに神宮とは伊勢神宮のことを言います。

■2024年の神嘗祭はいつ?

神嘗祭の日にちは毎年同じです。古くは陰暦の9月17日でしたが、新暦が採用されたのちの1879(明治12)年以降は、毎年10月17日に行われています。

■由来

神嘗祭は、収穫した新穀を、天照大神に捧げ、恵みに感謝するために行われます。では、なぜ伊勢神宮なのでしょう? 三重県伊勢市を流れる五十鈴川のほとりにあるこの神宮は、約2000年前の垂仁天皇のころから皇室の祖先神であり、全国の総氏神として崇められる天照大御神(あまてらすおおみかみ)を祀っているからです。
この「神嘗祭」の付属神事として、伊勢神宮では4月中旬に「神田下種祭(しんでんげしゅさい)」、9月中旬に「抜穂祭(ぬいぼさい)」、10月15日に「興玉神祭(おきたまのかみさい)」と「御卜の儀(みうらのぎ)」などが行われます。

明治以降、宮中では、天皇が皇族を率いて遥拝式を行います。実際に伊勢神宮へ参らずとも遥拝(遠いところから拝むこと)することで、お気持ちを奉納するのです。また、全国の神社では「神嘗祭当日祭り」が行われています。


【「神嘗祭」が最も重要な神事】

古来、日本は「豊葦原の瑞穂の国(とよあしはらのみずほのくに)」と呼ばれていました。清らかな水に恵まれ稲穂が立派に実る国、という意味です。日本人にとって、お米は食料としてだけではなく、神と人とを結ぶ大切な供物でもあるのです。

稲が芽吹いて実るという稲作の周期に合わせ、伊勢神宮では年間1500回におよぶ神事がおこなわれているのだとか。そのなかで、もっとも需要とされているのが「神嘗祭」。伊勢神宮で行われる年間の神事・祭典は、「神嘗祭」を中心に行われているといっても過言ではありません。


【「行事食」は?神嘗祭にお供えするもの】

はじめに新穀でつくった神酒と神饌を供えると解説しましたが、具体的に何を用意するのか気になりませんか? ここでは「神酒」と「神饌」について説明しましょう。

■「神酒」とは?

「神酒」というより「御神酒(おみき)」のほうが耳慣れているかもしれませんね。神さまに供えるお酒のことで、新米でつくった日本酒を用います。
「神嘗祭」と、6月と12月に行われる「月次祭(つきなみさい)」を合わせて「三節祭」と言いますが、いずれも4種のお酒が奉納されます。

【奉納されるお酒】

・白酒(しろき):濁り酒
・黒酒(くえき):白酒に草木の灰を加えて着色したもの
・醴酒(れいしゅ):甘酒の一種
・清酒(きよざけ):濁りのない酒

「白酒」「黒酒」「醴酒」は伊勢神宮の神域にある忌火屋殿(いみびやでん)で醸造されたもの、「清酒」は全国の蔵元から奉納された清酒(せいしゅ/一般的に日本酒として飲まれるもの)が用いられます

■「神饌」とは?

神さまに供える飲食物全般を「神饌」といい、「みけ」とも読みます。米、酒、塩、水を基本としますが、野菜や果物、魚介類など、季節の食材も併せて供えられます。

「神嘗祭」および2度の「月次祭」では、通常の「神饌」ではなく特別メニュー「由貴大御饌(ゆきのおおみけ)」が。これは清浄で立派な食事という意味で、海・川・山・野それぞれの食材を揃え、神田(しんでん)で収穫された新米を玄米のまま蒸して土器に盛ったものなどをお供えします。

そのなかで特別な一品が「干鯛(ひだい=鯛に塩をかけて干したもの)」です。これは、伊勢湾に浮かぶ小さな島から奉納された鯛を、神宮内で干してつくるのだそう。


【「神嘗祭」を執り行う伊勢神宮関連の「雑学】

皇室にとって大変重要な伊勢神宮。清らかで緑多い五十鈴川のほとりの神域に内宮(ないくう)、4km程離れた場所に外宮(げくう)があり、これを合わせて神宮(伊勢神宮)と言います。日々、それぞれでさまざまな神事が行われています。また、中世から近世まで、伊勢神宮は庶民にとって憧れの旅先でもありました。そんな伊勢神宮にまつわる話をいくつかご紹介しましょう。

■1500年間、毎日2回、日別朝夕大御饌祭が行われている

内宮と外宮、そして別宮それぞれのご祭神に食事を奉る神事を「日別朝夕大御饌祭(ひごとあさゆうおおみけさい)」と言います。この神事は、外宮鎮座から約1500年間、一日も休むことなく朝夕の2度行われています。

■「神嘗祭」に続いて重要な春と秋の神事は?

伊勢神宮では、2月に豊作を祈る「祈念祭(きねんさい)」が、11月に収穫に感謝する「新嘗祭(にいなめさい)」が行われています。初春の「祈念祭」は、五穀豊穣を祈り、稲の美称「とし」と祈りや願いを意味する「こい」を用いて「としごいのまつり」とも呼ばれます。

晩秋に行われる「新嘗祭」の「新」は新穀、「嘗」は「お召し上がりいただく」という意味。収穫された新穀を神様に奉納し、その恵みに感謝し、国家安泰や国民の繁栄を祈るのです。令和6年の「新嘗祭」は11月23日(土・祝)。外宮と内宮それぞれで行われます。

■「お伊勢参り」とは?

江戸時代に大流行した「お伊勢参り」。江戸後期の最盛期には、国民の6人にひとりが伊勢を目指したといいます。一般庶民は全国を自由に行き来することが難しかった当時、「お伊勢さんに参る」と言えば比較的簡単に通行手形が出たため、多くの人が伊勢を目指したのだとか。とはいえ誰でも行けるわけではなかったので、地域で「講」と呼ばれる集団をつくり、みんなで積み立てた旅費で代表者が旅をしました。ちなみにその代表者は、くじで決めていたのだとか。また、全国から集まるお伊勢参りの人々のために、内宮への出入り口である宇治橋の近くに土産物屋や食事処が集まり、現在も「おはらい町」「おかげ横丁」としてにぎわっています。

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今回ご紹介した「神嘗祭」は皇室の行事ですが、お米をはじめとする穀物は日本人にとって大変重要なもの。常に感謝していただきましょう!

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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館)/『デジタル大辞泉プラス』(小学館)/『使い方のわかる 類語例解辞典』(小学館)/『プログレッシブ英和中辞典』(小学館)/『ランダムハウス英和大辞典』(小学館)/ :