「亥の子」という言葉をご存知ですか? 関東にお住まいの方はほとんど聞いたことがないかもしれませんね。「亥の子」とは日本の伝統行事のひとつで、「亥の子の祝い」や「亥の子祭り」とも呼ばれます。今回は「亥の子」について、その意味や行われる日付、「亥の子」にまつわる豆知識をご紹介します!

【目次】

2024年は11月7日(木)です。
2024年は11月7日(木)です。

【「亥の子」とは?「読み方」と「意味」】

「読み方」

「亥の子」は「いのこ」と読みます。

■そもそも「亥」って何?

「亥(い)」は「子・丑・寅…」ではじまる十二支の第12番目。十二支獣としてイノシシがあてられていることは、皆さんよくご存知ですよね! 旧暦10月の異称としても用いられ、特にこの月の最初の亥の日を指して、「亥の日」と言います「亥」が中国の陰陽五行説で「水」の性質をもち、火災を逃れられると考えられたことから、江戸時代にはこの日に囲炉裏や掘り炬燵を開く風習がありました。また、江戸の民間では牡丹餅(ぼたもち)を食べて無病息災や、イノシシの多産にあやかって子孫繁栄を願う風習がありました。時刻としては、今日の午後10時を中心とした前後2時間(21時から23時​)が「亥の刻」「亥の時」にあたります。方角としては、北から西へ30度寄った方角で、北北西です。

■では改めて、「亥の子」の意味は?

「亥の子」は、旧暦10月(亥の月)最初の「亥の日」のことです。あるいは、その日に主に西日本各地で行われる「亥の子の祝い」「亥の子祭り」と呼ばれる行事を意味します。この日の「亥の刻(21時から23時​)」に、7種の穀類を混ぜてつくった「亥の子餅(もち)」を食べると病気にならないと伝えられていますよ。稲刈りの時期と重なることから西日本では収穫祭として広まり、収穫を感謝し、無病息災と子孫繁栄を祈る行事となりました。現在では11月の亥の日に行われています。

「亥の子の祝い」は西日本では伝統的な行事として知られていますが、関東では「亥の子」という言葉自体、ほとんど知られていませんね。関東・東北地方には10月10日の夜に行われる「十日夜(とおかんや)」と呼ばれる行事がありますが、これが西日本でいう「亥の子の祝」にあたるといわれています。


【2024年の「亥の子」はいつ?】

では、2024年の「亥の子」は、何月何日でしょう? 11月最初の「亥の日」が「亥の子」となりますので、2024年は11月7日(木)です。


【「食べ物」など「亥の子」にまつわる「雑学」をご紹介!】

■「亥の子」はいつから祝われた?

「亥の子の祝い」は、平安時代に中国から伝わった習俗です。中国には、この日の亥の刻に、大豆、小豆、大角豆(ささげ)、ごま 、栗(くり)、柿、糖(あめ)の7種を混ぜた7色の餅 (もち) を食すと無病でいられるという俗信がありました。それが平安時代初期に日本の宮廷に取り入れられ、室町時代には、白、赤、黄、栗 、ごま の5色の餅をつくったそうです。この餅は宮中や将軍に献上されましたが、のちには宮中や将軍から臣下に下賜されたり、貴族同士が互いに贈答し合うことになったといわれています。一方、西日本の農村の庶民が行った亥の子の行事は、稲刈りの時期にあたるため、稲の収穫祭と結び付きました。「亥の子様」を田の神と考え、春に田畑に来臨した神を送り返す儀礼となったのです。

■現在の「亥の子」はどう過ごす?

現在、西日本で受け継がれている「亥の子祭り」は、子どもたちの健やかな成長を願う行事として行われています。子どもたちがわらでつくった「亥の子槌(づち)」や、大きな石に数本の縄を付けた「石亥の子」を持って町を練り歩き、亥の子唄を歌いながら地面を突いてまわり、「亥の子突」と呼ばれています。近所の家をまわって、亥の子餅やお菓子、お小遣いをもらうこともあるそうです。この行事でも「亥の子餅」を食べます。

■「亥の子餅」って、どんなお餅?

紫式部の『源氏物語』には「亥の子餅」が登場する場面があります。大豆・小豆・大角豆・ごま・栗・柿・糖の7種類の粉を入れてついた餅だったようです。鎌倉時代にはイノシシが多産であることから、子孫繁栄を願う意味も含まれていたとか。

江戸時代には、亥の月の最初の亥の日を「玄猪(げんちょ)の日」と定め、玄猪の祝いとも言われていました。 このため、亥の子餅は玄猪餅とも呼ばれます。ウリ坊(イノシシの子)をイメージしたコロンとした可愛らしいかたちをした季節の和菓子で、焼きごてでウリ坊の体ようなしま模様が付けられたものが知られています。材料は生地が餅生地だったり求肥だったり、ごまを混ぜ込んだり、きなこをまぶしたり…と、そのつくり方もデザインも、地域やつくり手により、さまざまなものがあるようです。

■茶道の世界では「亥の子」に炉開きをする習慣が!

茶道の世界では、5月から10月まで使用していた卓上式の風炉(ふろ)をしまい、畳を切って床下に備えた「炉(=茶をいれるための湯を沸かす場所)」に初めて火を入れる日を指して、「炉開き」と言います。茶人にとっての正月にあたる、おめでたい節目の行事で、特に「亥の日」を選んで行われます。理由は、「亥」が中国の陰陽5行説でいう「水」の性質をもち、火厄除けになるからとも、あるいは、多産で縁起がよいイノシシにあやかり、無病息災を願ってのことともいわれています。そのため、この時期のお茶の席で「亥の子餅」を食べる習慣が始まったそうです。

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いかがでしたか?「亥の子」のことは知らなくても、「亥の子餅」はぜひ食べてみたいですね! 冬の訪れを感じるこの時期だけの味わいであり、縁起のよいお菓子でもあるので、手土産にも喜んでいただけそうです!

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) /京都市文化市民局文化財保護課「京都をつなぐ無形文化遺産」(https://kyo-tsunagu.city.kyoto.lg.jp/gyoji/tsunagu300/9-11/inoko/) :