【役者・尾上右近さんインタビューVol.1】血縁関係のある“三代目尾上菊五郎”をいま演じることの、大きな意味

1842年に28年の歳月をかけて完結してから200年近くの時を超え、今なお漫画やアニメ、映画、舞台、歌舞伎と多彩なジャンルで二次創作が行われている『南総里見八犬伝』。最新の技術を駆使して実写映画化した本作『八犬伝』は、里見家の呪いを解くために、八つの珠に引き寄せられた八人の剣士たちの運命＝【虚】の世界と、物語を生み出した滝沢馬琴の生活や創作への葛藤を映し出す＝【実】の世界が交錯しながら、物語が展開します。【実】の世界において馬琴に関わる重要なキャラクター、歌舞伎作家・鶴屋南北が披露する『東海道四谷怪談』の中で、当時お岩を実際に務めた三代目尾上菊五郎役を、同じく歌舞伎役者である尾上右近さんが演じます。

歌舞伎俳優の尾上右近さん

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尾上右近さん

歌舞伎俳優

（おのえ・うこん）1992年5月28日、東京都出身。2018年に清元唄方の名跡、清元栄寿太夫を襲名し歌舞伎界の二刀流として活動する花形歌舞伎役者。7 歳で初舞台。『燃えよ剣』(21)で映画初出演を果たし、同作で第45 回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。歌舞伎のみならず、映画やドラマのバラエティでも活躍。主な主演作には、大河ドラマ『青天を衝け』(21)、『わたしの幸せな結婚』(23)、『身代わり忠臣蔵』(24)。公開待機作に映画『十一人の賊軍』、『ライオン・キング：ムファサ』（日本語吹替ムファサ役）。

「この役は自分の当たり役にしたい！」と演じた、『東海道四谷怪談』のお岩役

――劇中で披露される、歌舞伎の演目『東海道四谷怪談』にて、右近さんは、当時のお岩を演じた三代目尾上菊五郎役を務めています。文化・文政期の名優として名を馳せた歌舞伎役者を演じるということで、どのような思いがありましたか？

「“三代目尾上菊五郎”は家系的にいうと僕の曽祖父の曽祖父にあたる人ですね。血縁関係はあるものの、僕自身が実際に会ったことがあるわけでもないですし、かと言って、『見たことあるよ！』という人もいるわけではないので、特にプレッシャーを感じることはありませんでした。

ただ、自分の先祖を“役”として演じるということに、大きな意味があるなと感じたので、今回のお話をいただいて、とても嬉しかったです。

「自分の先祖を“役”として演じるということに、大きな意味があるなと感じた」（右近さん）

当時の歌舞伎の演目は、当たり前ではありますが、今とは違ってほとんどが新作。ヒットさせないと生活ができないと、役者が命がけで演じていた時代でしたから、独特のエネルギッシュな“空気感”と、人気商売のプロとして構える三代目尾上菊五郎の“ふてぶてしさ”みたいなものは意識しながら演じさせていただきました。

というのも、三代目尾上菊五郎は本当にそういう性格だったみたいなんですね。鏡をみて『俺はなんていい男なんだ』と言ったっていう逸話が残っているくらい。お岩役の扮装で、楽屋近くの人を驚かせたりしてたという話も。きっとエキセントリックな人だったんだろうけど、爆発的な演技だけでなくて、じっとりした役柄も得意だった。そんな彼の“人としての深さ”が表現出来たら、と」

――本作は28年の歳月を費やし、106冊という超大作を書き上げた馬琴の苦悩や葛藤が【実】のパートでは描かれています。同じく、何百年と歴史を背負っている古典芸能の世界で歌舞伎という舞台を創作している右近さんが本作を見てどんなことを感じられたのでしょうか。

「調子がいいときも悪いときも、世の中が待ってくれるからにはやり続ける…という馬琴の姿勢は“義務感”ではなく“使命感”だと思うんですよね。この違いをすごく意識しましたし、信念をもってやり続けていればいずれは報われるというのは、今の世の中にも通じるものがあると思いました」

「信念をもってやり続けていればいずれは報われるというのは、今の世の中にも通じるものがあると思いました」（右近さん）

――本作のあと、『六月博多座大歌舞伎』でも同じお岩役を演じられていましたね。

「僕もこんなに立て続けに同じ役をやると思っていなかったのでびっくりしました。この映画で初めてお岩さまを演じてから、『この役は絶対に歌舞伎の舞台でも演じたい、自主公演でやるぞ』と心に決めていたときに、ありがたくもオファーをいただきまして。これが役に選ばれた、ということなんだな、と感慨深い気持ちでいっぱいになりました。そんな経緯もあり、歌舞伎の舞台では『お岩さまを自分の当たり役にしたい！』という想いが強かったです」

――またお岩を演じたい、と思った理由は？

「う～ん、なぜでしょうね。多分、映画の支度中からお岩さまの気持ちに入り込めたからだと思います。衣裳を着て、化粧をして、その姿を鏡で見た瞬間に、スッと入ってきた。赤ちゃんを抱えたときは母性が芽生えたし、途中で育児ノイローゼみたいな気分にもなって。ファッションだって、着飾ったら華やかな気持ちになるし、カジュアルな恰好をしたらラフな気持ちになりますよね？それと同じような感覚で、扮装した途端にお岩さまの気持ちになれたのが、とても大きかったと思います」

「歌舞伎の舞台では『お岩さまを自分の当たり役にしたい！』という想いが強かったです」（右近さん）

この続きは、尾上右近さんインタビューVOL.02で！

■Information■ 映画『八犬伝』10月25日(金)ロードショー

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里見家の呪いを解くため、八つの珠に引き寄せられた八人の剣士の運命をダイナミックなVFXで描く「八犬伝パート【虚】」とその物語を生み出す作家・滝沢馬琴と浮世絵師・葛飾北斎の奇妙な友情を通じて描かれる「創作パート【実】」が交錯する新たな『八犬伝』。物語を生み出す苦悩と葛藤と共に作者の目線で描かれる『八犬伝』は、未だかつてない映画体験へと導いてくれる。

原作：山田風太郎『八犬伝　上・下』(角川文庫刊)
監督・脚本：曽利文彦
製作総指揮：木下直哉
出演：役所広司、内野聖陽、土屋太鳳、栗山千明、中村獅童、尾上右近、磯村勇斗、大貫勇輔、立川談春、黒木華、寺島しのぶ
製作：木下グループ
制作：unfilm
配給：キノフィルムズ

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