秋深まる11月も、後半になると街は一斉にクリスマスムード。この時期ワイン好きの楽しみは、ボジョレー・ヌーヴォーの解禁ではないでしょうか。バブル経済が華やかな時代は、このボジョレー・ヌーヴォーの解禁日に大騒ぎしたものですが、なんであんなに人々を熱狂させたのでしょう? そもそもボジョレー・ヌーヴォーって何がすごいの? 今回は「ボジョレー・ヌーヴォー解禁日」にちなみ、関連する雑学をお届けします。

【目次】

ノンアルコールのボージョレ―・ヌーボーもある?
ノンアルコールのボージョレ―・ヌーボーもある?

「ボジョレー・ヌーヴォー解禁日」はいつ?なぜ?

■2024年の解禁日

2024年の「ボジョレー・ヌーヴォー解禁日」は11月21日(木)です。20日から日付が変わった21日午前0時に解禁、販売が可能になります。

ボジョレー・ヌーヴォーの解禁(販売=飲酒)は、毎年11月の第3木曜日と決められています。2024年11月の第3木曜日は21日。ちなみに2025年は11月20日、2026年は11月19日、2027年は11月18日。第3木曜日が21日にあたる2024年は、近年で最も遅い「ボジョレー・ヌーヴォー解禁日」というわけです。

■なぜ第3木曜日?

フランスのワイン法で第3木曜日の午前0時に解禁と定められているのですが、これはボジョレー・ヌーヴォーをほかに先駆けて出荷して利益を得ようとする、ワイン販売業者間の競争が激しくなったことに由来します。質の悪いワインが市場に出回るのを防ぎ、ワインの品質を守るため、フランス政府が1967年に11月15日をボージョレー・ヌーヴォーの解禁日とする法律を制定しました。

しかし11月15日が安息日である週末や祝日にあたる場合、迅速な輸送が困難になり解禁日に出荷できないというトラブルが発生することも…。そこでボジョレー・ヌーヴォーの売れ行きに影響が出ないよう、1985年からは安息日と重ならない“第3木曜日”を新たな解禁日としたのです。

■本場フランスより早く味わえる日本

11月第3木曜日の午前0時が解禁――ということは、時差の関係で日本はフランスより8時間早く解禁を迎えることになります。本場フランスより早く楽しめることとフランス料理人気も相まって、バブル時代のボジョレー・ヌーヴォー騒ぎとなったのですね。

次に「ボジョレー・ヌーヴォー」について、さくっとおさらいしましょう。


【「ボジョレー・ヌーヴォー」って?今さら聞けない基礎知識】

■「ボジョレー・ヌーヴォー」とは?

フランス語で[Beaujolais nouveau]となりますが、[Beaujolais]はフランスのブルゴーニュ地方南部にあるボジョレー地区を指し、[nouveau]は新しいという意味。ボジョレー地区で製造されたその年の新酒を「ボジョレー・ヌーヴォー」というのです。

■地域も品種も限定!

ボジョレー地区で栽培されているブドウの品種は、ほぼすべてがガメイ種です。これは、ボジョレー地区の土壌がガメイ種の生育に適しているから。ガメイ種からつくられる、果実味豊かでフレッシュな酸味をもつ赤ワインがボジョレー地区の特産。「ボジョレー・ヌーヴォー」を詳しく言うと、フランス・ブルゴーニュ地方のボジョレー地区で栽培されたガメイ種でつくった赤ワインの新酒、ということになります。そうです、「ボジョレー・ヌーヴォー」は赤ワイン限定なのです。

■「一般的な赤ワイン」と「ボジョレー・ヌーヴォー」の違い

通常の赤ワインは、夏に収穫した黒ブドウを潰し、果汁に果皮や種子を漬け込んだ状態で保存しながらアルコール発酵させます。その後、数か月から数年の熟成を経て、不純物を取り除いて瓶詰めされます。赤ワインは熟成によって風味風合いが変わるため、一般的に出荷は早くてもブドウ収穫の翌年です。長期熟成でおいしさが際立つものになると“何十年もの”といった高額な品も。

一方のボジョレー・ヌーヴォーは、収穫からおよそ2か月で11月第3木曜日を迎えます。

渋みが少なくフルーティというガメイ種の特徴を生かすため、ガメイ種は潰さずタンクに密閉し、タンク内を炭酸ガスで充満させた状態で数日置く「マセラシオン・カルボニック」という製法が用いられています。これは、自重によって下の方のブドウから潰れ、果汁が流れ出て発酵が始まるのだとか。また、炭酸ガスに浸かることで皮の色素が出やすくなり、美しいルビー色の赤ワインができ上がるというわけ。熟成期間をほぼとらずに飲み頃を迎えるボジョレー・ヌーヴォーは、ブドウの収穫から製造、出荷までのスピードが一般的な赤ワインと大きく違い、そこが魅力なのです。


ビジネス雑談に役立つ「ボジョレー・ヌーヴォー雑学」 】

■飲みごろは?

かつて、六本木や青山のバーなどで第3木曜日の深夜0時にボトルを開けて乾杯!――のような浮かれた街の様子が毎年ニュースになっていた時代ありました。その年に収穫・製造された新酒をいち早く味わうことにバブル経済期は大熱狂したわけですが、これ、飲み方としては正解!

マセラシオン・カルボニック製法でつくられたワインは、タンニンが少なく飲み口が爽やか。そのライトからミディアムボディの軽やかな味わいは、新鮮なうちに飲むのが最適なのです。熟成させて飲んでも問題はありませんが、ほかのワインのように熟成によってさらにおいしくなることはないので、ボジョレー・ヌーヴォーは早いうちに飲むべきワインなのです。

ここで勘違いしてはいけないのが、ボジョレー産のワインすべてが「早いうちに飲むべき」ではありません。マセラシオン・カルボニック製法でつくられた「ボジョレー・ヌーヴォー」という商品が早飲みに適しているのであり、通常の醸造法でつくられるボジョレー産の赤ワインはその限りではありません。

■何種類ある?

「ボジョレー・ヌーボー」には、一般的な「ボジョレー・ヌーヴォー」と、より限定した区域でつくられる「ボジョレー・ヴィラージュ・ヌーヴォー」と、大きく分けて2種類あります。「ヴィラージュ」は「村」のこと。「ボジョレ・ヴィラージュ・ヌーボー」は、より狭く限定された生産地域で、生産量や栽培方法なども厳しく規制されてつくられたものなのです。

また、「ボジョレー・ヌーヴォー」に赤ワインのほかロゼもあります。白ワインはありません。

■ボジョレー・ヌーヴォーは試飲用ワインだった!

ブドウの出来を確認するための試飲用ワイン――これがそもそものボジョレー・ヌーヴォーの正体です。ブドウの善し悪しを早期に見分けるための熟成させないマセラシオン・カルボニック製法でしたが、これによって苦み成分のタンニンが少なく飲みやすいワインに仕上がり、それがフレッシュでフルーティな味わいだと評判になったのです。

■2024年の価格は?

ボジョレー・ヌーヴォーはフランスから出荷され、しかも解禁日が限定されているので輸送には航空便が使われます。通常の船便より5倍の輸送コストといわれる航空便ですが、2022年以降はなんと10倍に! これはウクライナ情勢の影響でヨーロッパから日本への最短ルートが使用できず、迂回して航路が長くなったぶん燃料費がかさみ、燃料費自体も高騰していることが原因。しかも世界的なインフレによってボトルやラベル、段ボール箱など資材も値上がったうえの円安…。2024年のボジョレー・ヌーヴォーは、決して喜べる価格ではなさそうです。

■2024年の出来は?

今年は春に雨が多く、初夏にかけての日照時間が心配されたようですが、夏以降は順調に生育し、2024年のボジョレー地区のブドウの出来はなかなかのものとか。よいヴィンテージ(原料となるブドウの収穫年の記載を指す)になるとの見方もあり、期待できそうですよ。

■ノンアルはある?

ボジョレー・ヌーヴォーは「ボジョレー地区でつくられた新酒」を意味しますが、ノンアルコール商品はあるのでしょうか? 答えは残念ながら「Non」です。けれど日本国内のみならず、フランスやドイツ、カルフォルニア、オーストラリアなどでも需要に応えておいしいノンアルコールワインが製造されています。つまり、ボジョレーではありませんが、ノンアルコールのヌーヴォー(新酒)は飲める、というわけです。

■ヌーヴォーはボジョレーのみならず!

実は、フランス以外にも、熟成させない新酒を楽しむ伝統があります。

解禁日順にいうと、最も早いのがイタリアの[Vino Novell(ヴィーノ・ノベッロ)]で10月30日です。続いてドイツの[Der Neue(デア・ノイエ)]が11月1日、日本の「山梨ヌーヴォー」が11月3日、オーストリアの[Heurige(ホイリゲ)]が11月11日。

このなかで最も遅い解禁日となるのが、フランスの「ボジョレー・ヌーヴォー」なのでした。

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若者の飲酒離れや、コロナ禍で宴会の機会や飲酒の機会が減ったことなどもあり、アルコール業界はこの数年でずいぶん様子が変わりました。ノンアルコールのビールやチューハイ、ワインが増え、その味わいもブラッシュアップされ続けています。それでもワイン好きにとって「ボジョレー・ヌーヴォー解禁日」は、年に一度のお祭りのようなもの。楽しみ方は変わっても、ワイン好きもノンアル派も、気持ちよくおいしく飲みたいものですね!

この記事の執筆者
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参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館)/『マナーと常識事典』(自由国民社『現代用語の基礎知識』2007年版付録) :