奥州三名湯のひとつ、1,400年もの歴史を誇る宮城県の秋保温泉。かつて、歴代の天皇や藩主が⾝体を癒やしたといわれる、仙台の奥座敷とも称される温泉地です。
その中でもひときわ静かな場所に佇む「界 秋保」。星野リゾートの温泉ブランド「界」の23施設目、東北では「界 津軽」に続く2施設目として2024年4月に誕生した温泉旅館です。
コンセプトは、渓流とそれを取り巻く四季の風景を楽しめる立地、そして宮城県にゆかりのある戦国武将の伊達政宗公にちなんで「彩りの渓流で伊達なひととき」。そんな秋保ならではの文化が館内のしつらえやおもてなしに表れた「界 秋保」にPrecious.jpライターが滞在。体験レポートで魅力をお伝えいたします。
“伊達な文化”を感じられる温泉旅館「界 秋保」宿泊レポート
仙台の夏の風物詩である七夕まつりをイメージしたのれんをくぐって入ると、廊下の天井には風鈴が。これは、仙台の伝統工芸品での松笠風鈴。ひとつひとつ手作りされた鋳物製の風鈴は、形も音色もすべて違うのだそう。江戸時代から魔除けとして使われてきた風鈴の音色を聴きながら、いよいよ建物の中へ。
大きな窓から日差しが降り注ぐ開放的なロビー。窓の上半分はあえて障子で覆い、下を流れる名取川の渓流と四季折々で変化していく周囲の景色を楽しめるようになっています。
秋保の「海馬ガラス工房」で作られているというガラスの工芸品も。松川だるまと宮城伝統のこけし、そして伊達家の家紋にスズメが入っていることから鳥をイメージした形のものが並んでいます。県内の川底から素材を集めているそうで、すべて手作りのため、色や気泡の入り方が微妙に違います。
施設内のインテリアやアートに至るまで、秋保や宮城をイメージするような細やかな遊び心にあふれています。
秋保温泉の渓谷、磊々峡から着想を得た紺碧色の客室
宿泊したのは、ご当地部屋の「紺碧の間」。その名の通り紺碧色を基調にした落ち着いたお部屋です。秋保温泉の景勝地である、名取川の峡谷「磊々峡(らいらいきょう)」が、かつて「紺碧の深淵」と表現されたことから着想を得て作られたのだそう。
お部屋に入るとまず驚くのが、窓から1枚の絵のように切り取られた緑豊かな景色。外から光が入ってくると窓の周囲が黒い額縁のように沈み、外の景色が鮮やかにくっきりと浮かび上がることで、まるで絵画のように見えます。
あえて広く作ってあるというカウンターにゆったりと本や飲み物を置き、大きなソファに腰かけたり、寝転んだりしながらさまざまな角度から景色を楽しむ時間は、とてもリラックスできます。
ゆったりとした作りのソファだけでなく、隣にある木製のカウンターも広々。電源も近くにあるため、ワーケーション利用にもぴったりです。
壁に飾られた仙台ガラスの作品も、海馬ガラス工房で作ったものだそう。杜の都と呼ばれる自然豊かな仙台を象徴するような、美しい緑色が特徴です。大きな窓から差し込む日光を受けて輝くさまが、川のせせらぎ、水面のきらめきを表現しているアートです。
一段高いスペースにはベッドが2台置かれています。こちらは星野リゾートがオリジナルで開発した、雲のようにふわりとした肌触りで極上の寝心地を約束する“ふわくもスリープ”のマットレス。
寝室の障子には、よく見るとこけしの柄が隠れています。宮城のご当地要素をぜひ探してみてください。
共同スペース「せせらきラウンジ」でくつろぐ
名取川に面した空間に設置されたパブリックスペース「せせらきラウンジ」へ。
せせらぎの古語で浅瀬に水が流れる音を表す「せせらき」。まさに渓流の音や風、四季折々の自然を目の前に楽しみながら、軽食や飲み物と共にくつろげるスペースです。
伊達政宗公は、日常的に草花を愛でていたと言われています。また客人へのもてなしとして、食べ物や飲み物をふるまうことはもちろん、小鼓をたたいたりも。そんな政宗公の粋なおもてなしから着想を得て、ラウンジでは政宗公にゆかりのあるものも交えた花のしつらえが空間を彩ります。
チェックイン後、15:30~22:00の間は、地元のワイナリーのワインや季節のドリンク、お菓子などが並び、自由に飲食OK。
老舗の「仙台駄菓子本舗日立家」が添加物を入れずに作る優しい味わいの仙台駄菓子。カラフルで一口サイズの可愛らしい駄菓子がずらりと並ぶさまは、宝石箱のよう。季節ごとにさまざまなお菓子が提供されるので、訪れるたびに新鮮な喜びがありそうです。
気候のよい日には、ぜひ足湯付きのテラスでのんびりと。じんわりと体が温まっていく中、川のせせらぎや木々が風に揺れる音を聴いていると、つい時間を忘れてしまいます。
夜9:00からは、日によって篠笛だったり津軽三味線だったりと、和をテーマにした生演奏も行われます。粋なおもてなしを感じられるラウンジのひとときをお過ごしください。
歴史ある名湯・秋保温泉を心ゆくまで楽しむ
古墳時代の天皇も病を癒やしたという秋保温泉は、天皇に認められた「日本三御湯(にほんさんみゆ)」の一つとしても知られています。政宗公の時代には庶民にも親しまれ、今では地元や東北の人々を中心に広く愛されている温泉地です。
そんな歴史ある温泉を心ゆくまで楽しむために、入浴の前に界オリジナルの作務衣に着替えて、湯上り処で行われる「温泉いろは」に参加しました。秋保温泉の歴史や泉質、効果的な入浴法について、湯守と呼ばれるスタッフにレクチャーしてもらえるアクティビティです。
界 秋保の内湯は、秋保温泉の、敷地内の2本の源泉を引いた自家源泉かけ流しの「あつ湯」、心身ともにリラックスできる「ぬる湯」の2つの浴槽があります。
泉質は、身体の芯から温まり、湯冷めしにくいという特徴をもつ「ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉」。心身ともにリラックスしたい方におすすめです。
また、殺菌作用のあるメタほう酸、保湿効果のあるメタケイ酸を多く含むため、美肌の湯としての効果も期待できます。香りなどにクセがないため、老若男女問わず楽しめる温泉です。
外には、岩組みの露天風呂が。木立に囲まれていますが、渓流が近いため、川のせせらぎの音を感じながらゆったりと風情ある湯浴みを楽しめます。
夕飯は食事処にて楽しむ「新伊達会席」
夕食は、海と⼭の幸が豊富な地・宮城の旬の食材を楽しむ「新伊達会席」。⼤名の⾷事をイメージした脚つきのお膳にて提供される、粋な特別会席です。
界の先付けは、地域で親しまれる食材を意外な組み合わせや新たな調理法で提供しています。秋保では、仙台麩に牛テールと仙台味噌のリエットをつけて味わう一品。
続く煮物椀は、蓋を開けると秋の紅葉の景色が広がります。
そして宝楽盛りが登場。八寸は、渋皮栗の白和え、落花生生豆腐、鮭の幽庵焼き、炙り太刀魚寿司。酢の物は、北寄貝と若芽の土佐酢和え。
この日のお造りは、サーモンとまぐろとぶり。地元のお醤油である吟醸醤油をつけていただきます。
揚げ物は、湯葉とアオサを使用した車海老の東寺揚げ。かぼちゃとししとうの天婦羅と共に、味は付いているのでそのままでも、お好みでレモンを絞っても。サクサクとした衣の中のぷりっとした車海老が美味でした。
メインの鍋は、宮城が⽶どころでもあるところから着想を得た「⽜の⼭海俵鍋」。香味野菜と鶏ガラの出汁にたっぷりとトリュフを入れて風味をつけた中に、牛ロースや牛タンをくぐらせ、雲丹を添えて楽しみます。
俵型の牛肉の中には、雲丹のおいしい部分だけを抽出したエキスが入っていて、お肉と共にいただくと口中に豊かな味わいが広がります。
また、宮城県ならではの食材としてせりがたっぷりと用意されています。冬のせりは、根っこまで楽しめるほど滋味豊かで美味なのだそう。さっとくぐらせて、お肉やほかのお野菜と一緒に味わいました。
炊き物として、柔らかく煮た牛タンが登場。そのまま食べても、土鍋で炊いたもち麦ごはんにかけて食べてもおいしい一品でした。
最後に、松島の景色に見立てた甘味「ずんだと蔵王ヨーグルトの松島仕立て」。上にはシャインマスカットと梅のジャムが添えられており、一味違った味わいに。〆のデザートにぴったりのさわやかなお味でした。
ご当地楽「伊達な宴」を楽しむ
その土地の文化を体験する界ブランドのおもてなし「ご当地楽」。界 秋保では、伊達政宗公が酒席の心得を重んじていたといわれる史実から着想を得た「伊達な宴」が開催されています。
政宗公の軍旗をイメージした、紺地に日の丸をモチーフとした特別なお部屋で開かれる宴は、当時の宴に入り込んだような追体験ができるご当地楽となっています。
政宗公の水玉模様の陣羽織(じんばおり)をイメージした羽織に袖を通して、スタッフの案内のもと宴がスタート。
政宗公はお酒の席での人とのつながりを大切にしていたと言われています。まずは、スタッフから“伊達な心得”として「酒は品格と教養あるもの同士で飲むこと」「人間性と精神性を高めること」との教えが。
政宗公にまつわるお酒のエピソードを聴きながら、宴が進んでいきます。
また、米どころ宮城には現在も多くの酒蔵があり、歴史ある酒蔵も現存しています。そんな仙台藩にゆかりのある内ヶ崎酒造店の純米酒「蓑かくし」が、ご当地おつまみと共にふるまわれます。おつまみは、くるみと仙台味噌とゴマを合わせてシソでくるんで揚げた一品。
お酒は隣同士になった参加者とお互いに注ぎ合い、当時の方法にならって乾杯をします。
スタッフから参加者への質問なども交えながら、朗らかに進む宴席。和気あいあいとお酒を楽しんでいると、あっという間に時間がすぎていきました。最後はスタッフが音頭を取り、一本締めで終了。
政宗公の宴に参加したような気分に浸れるご当地楽、ぜひ旅の思い出に参加してみては。
「ご当地朝食」で朝の活力を得る
界の朝ごはんは、地域色を感じる食材や調理法を取り入れた「ご当地朝食」。秋保では、宮城県の郷土料理「芋煮」をメインとした和食膳が登場します。
芋煮は「芋の子汁」ともいい、伊達政宗公の好物だったそう。戦が終わったらみんなで鍋を囲んで食べたい、という願いのこもった料理でもあるのだとか。収穫の時期には、今でも宮城の各地で芋煮会が行われ、みんなで芋煮を楽しむ習慣があるほど地元ではなじみのあるお料理です。
地元の三角あぶら揚げや豆腐も美味。香ばしく焼き上げられたあぶら揚げはぜひ温かいうちにいただきたい一品。太田とうふ店の吟醸豆腐は、オリーブオイルと塩をつけていただくのがおすすめだそう。
朝から栄養たっぷりの温かい和食膳に活力をもらいました。
仙台駅からのバスが施設の目の前に停まるため、車がなくても行けるというのも界 秋保の魅力。湯治目的に連泊してじっくりと温泉を楽しむのもおすすめです。ぜひ、界 秋保で歴史ある温泉と伊達なおもてなしを堪能していてはいかがでしょうか。
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- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 小林麻美