ありがとう、さようなら、DIC川村記念美術館。最後の展覧会と共に稀有な空間を楽しみたい

’25年3月下旬からの休館が決まっているDIC川村記念美術館。昨夏の発表以来、別れを惜しんで全国から多くの美術ファンが訪れています。素晴らしいロケーションと質の高いコレクションに、万感の想いを巡らせて──。

今回は、美術ジャーナリストの藤原えりみさんにご案内いただきました。

藤原えりみさん
美術ジャーナリスト
女子美術大学、國學院大学非常勤講師。雑誌などでの執筆のほか、展覧会図録制作にも携わる。現在「アプリ版ぴあ」で水先案内人を務める。著書に『西洋絵画のひみつ』(朝日出版社)ほかがある。

【今月のオススメ】DIC川村記念美術館

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DIC川村記念美術館外観 撮影/渡邉 修 

千葉県佐倉市にあるDIC川村記念美術館。3月下旬から休館と聞いて、久々に足を運んできました。まるで森の中のような自然溢れる広大な敷地。木々の間を抜けると、野鳥が遊ぶ大きな池が目の前に現れて、そこに、ふたつの塔をもつ美術館が建っています。エントランスホールに入ると、色鮮やかなステンドグラスが目に入ってきて、ああ、そうだ、以前来たときにこの窓を象ったピンバッヂをお土産に買ったんだった、と懐かしい記憶がよみがえりました。床や天井の照明、壁までも美しく、思わずため息がもれたほど。

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エントランスホール 撮影/渡邉 修

展示室へ足を進めると、17世紀のレンブラントの肖像画、印象派の名画、現代美術の巨匠まで。なかでも、20世紀の抽象表現主義を代表する画家、マーク・ロスコの〈シーグラム壁画〉のための専用展示室「ロスコ・ルーム」と、フランク・ステラの大作を通観できる特集展示(〜1月26日)は本当にすごい。この場所でしかありえない空間ですから、なんとしても体感してほしいと思います。1月26日まで開催中の「西川勝人 静寂の響き」展も、心に沁み入るような、まだまだ観ていたいと名残惜しくなる展示でした。

DIC川村記念美術館
「西川勝人 静寂の響き」展示風景 撮影/西川勝人 (C)Katsuhito Nishikawa 2024 

休館後どうなるのかは、まだ決まっていないようですが、個人でも企業でも、美術品というものは、人の手から手へと渡っていくもの。そして、必ずしもこうして、一般に広く公開展示してもらえるものではないんですよね。DIC川村記念美術館に深く感謝しながら、どうか貴重なコレクションが遠くに行ってしまいませんようにと、今、祈るような気持ちでいます。(談)


DIC川村記念美術館

DIC(旧大日本インキ化学工業)が関連企業と共に収集してきた美術品の公開を目的に、1990年に同社の総合研究所敷地内に開館。当時、国内でまとめて観る機会が少なかった20世紀美術のコレクションが話題となり、以来、人気を集めてきた。広大な敷地に点在する屋外彫刻も魅力で、自然とアートを楽しめる。’25年3月下旬から休館。

◇企画展『西川勝人 静寂の響き』

ドイツを拠点に活動する美術家。クリスタルガラスの彫刻とアクリルガラスのパネルを展示した2階の展示室も見どころ(記事中写真)。大きな窓からの自然光で、作品の印象が変わり続ける。

  • 開催期間:開催中〜2025年1月26日まで
  • 住所:千葉県佐倉市坂戸631

問い合わせ先

DIC川村記念美術館

TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)

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EDIT :
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