新しい年の始まりに、日本水墨画の最高峰を鑑賞。長谷川等伯『松林図屛風』の前で、能登の復興を願う
お正月には東京・上野の東京国立博物館に「初もうで」して国宝鑑賞を! 巳年にふさわしく、ヘビにまつわる古今東西の作品も登場します。眼にも心にも贅沢&縁起のよい時間を過ごして、パワーをチャージ!
展覧会の見どころについて、美術家で明治学院大学教授の山下裕二さんにご紹介いただきました。
【今月のオススメ】博物館に初もうで
東京国立博物館で毎年1月2日から開催される『博物館に初もうで』。年明けの恒例として、私もよく初日に足を運びます。2025年は「ヘビ〜なパワーを巳(み)たいの蛇(じゃ)!」という攻めた特集のタイトル…東博の意気込みを感じますね(笑)。金属を加工してつくられた、自由自在に胴を動かすことができる蛇の「自在置物」など干支にちなんだ作品や、めでたい意匠の作品などが展示されるようです。
そして今回も、本館2室の国宝室には、長谷川等伯の『松林図屛風』が。湿潤な大気そのものを描いたような、まさに幽玄の世界に、恍惚とします。今でこそ日本美術を代表する名画として人気を集めていますが、かつては、展示室には私だけ、『松林図屛風』ひとり占め、なんて時代もあったんですよ。
実はこの作品には、謎めいたところがあります。まずは印。これは等伯によるものではなく、後世の誰かが真似てつくったもの。さらに実物をよく見るとわかるのですが、紙の継ぎ目がずれている。なぜかというと、そもそも屛風のつもりではなく、もっと大きな画面、襖絵のための下図だったのでは、と考えられています。それがあまりにいい出来だったので切り詰めて屛風に改装し、印を捺(お)したのだろうというのが定説になっています。等伯の技量も超一級ですが、これを屛風に仕立てた人のセンスもすごい…!
等伯の生まれ故郷である能登には、実際に、こういう枝ぶりの松林があります。この美しい自然を、能登の人々が取り戻せますように。作品の前で、私も復興を願いたいと思います。(談)
現在の石川県七尾市に生まれた等伯。30代で野心を抱いて京に上るも、永徳を中心に狩野派が勢力をふるうなか、なかなか活躍の場が得られなかった。豊臣秀吉に気に入られ、絵師として名を馳せたのは40代になってから。『松林図屛風』は50代半ば頃の作品と考えられている。
「故郷の能登に想いを馳せて描いたのだと思います」(山下さん)
◇Information『博物館に初もうで』
2025年で22年目となる恒例企画。干支の特集では超絶技巧の『自在蛇置物』や、十二神将の彫刻から巳神、ヘビに抱かれるように座すブッダ像まで、多彩な作品が展示される。
開催期間:2025年1月2日(木)〜26日(日)
会場:東京国立博物館
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- EDIT&WRITING :
- 剣持亜弥、喜多容子(Precious)