今、世界の人口の1/3を占めるようになったとされているのが、Z世代。

そこで、雑誌『Precious』3月号では【フラットな「異世代コミュニケーション」術】と題して、Precious世代の後輩となる、このZ世代との違いをおさらいしながら、よりよいチームになるためのコミュニケーション術を探りました。

本記事では、効果的に叱りたい、うまくほめたい、もっと雑談をしたいなど…職場でモヤモヤせずに後輩世代とコミュニケーションをとるためのちょっとしたコツを、コミュニケーションコンサルタントのひきたよしあしさんにお伺いしました。

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ひきたよしあきさん
スピーチライター、コミュニケーションコンサルタント、大阪芸術大学客員教授
兵庫県生まれ。博報堂で多くのCMを手掛け、政治、行政、企業のスピーチライターとして“人の心を動かす”原稿が評判を呼ぶ。著書も多く、新刊は『モヤモヤをするっと言葉にする』(幻冬舎)

職場のコミュニケーション、皆悩んでいます

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フラットな「異世代コミュニケーション」術

コロナ禍に就職した世代は、リモートワークなどの定着で職場の人間関係がより希薄になっています。そのため、社会人としての人格形成期にコミュニケーションにおける必要なステップを踏めていません。だから、「雑談しようよ」「本音で話して」と言われても「は?」となるわけです。

2016年頃から働き方改革が始まり、コロナ禍のさ中にパワハラ防止法が施行され、企業ではパワハラ研修も行われていますが、パワハラを学んだ若手社員は、「それはハラスメントでは」と感じることも多くあります。コロナ禍を挟み、世代ごとの価値観やコミュニケーションギャップが顕在化してきましたが、それに対しては企業も現場に任せているのが現状です。

一方、Z世代は少子化で、実は仕事は選び放題。リモートで上司に小言を言われている横で、スマホには条件のいい求人が届く。会社に執着する必要がないから滅私奉公には拒否反応を示します。組織に居続ける意味があるとすれば、「自分がスキルアップできる可能性がまだある」かどうか。そんな彼らに会社のために頑張ろうとか、飲み会をやろうと言っても響かないのは当然です。

コミュニケーションの過渡期で誰もが戸惑いがちな今、先輩・上司世代はそういった前提を認識しつつ、自分たちの“上司道”をつくる必要があります。わかり合うのに時間はかかりますが、それはどの世代間でも同じこと。まずは違いを理解することから始めたいものです。

先輩も後輩も、ラクになる伝え方

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「異世代コミュニケーション」術

Q:仕事は現状維持でいいという後輩に、もっとやる気を出してもらうには?

A:その仕事でどう成長できるかを最初に伝えて。

Z世代のメンターの中心は今やビジネス系YouTuberで、上司や先輩の言うことには拒否反応が出やすいなか、業務を依頼する際に「とりあえずやって」「会社のためにやって」と言うと拒絶されがち。ところが、「この仕事はスキルアップになるよ」と言うとがぜん、興味をもってきます。SNSなどで成功者のサンプルを多く見ている後輩世代は自分の成長には貪欲ですから、その仕事をすることで得られる結果を説明しながらやる気スイッチを押したいもの。「ここにはスキルアップできる可能性がある」と感じると取り組み方も変わっていきます。

Q:叱り方がわかりません。強く言えず、モヤモヤが残ります

A:「こうするともっと伸びるよ」とポジティブ変換を。

個性を尊重されて育った世代は「お前のここがダメだ」と頭ごなしに言われると想像以上に傷つき、自己肯定感が下がってしまいます。「負けるな」「とにかく頑張れ」と叱咤激励してもあまり響きません。「少し弱い部分もあるけれど、ここを変えるともっと伸びるよ」とポジティブな言い方に変換していくと伝わりやすいです。「叱るのは、君に伸びしろがあるからだよ」というフレーズは一見よさそうに聞こえますが、「伸びしろを上司に決められたくない」と反発されがちです。

Q:「わからないことはいつでも聞いて」と言ってもちっとも聞いてくれず、でも仕事も進んでいなくて、気付いたら辞めていたことが…

A:「仕事が止まってしまったら言ってね」と伝えてみて。

たいていは、何がわからないのかがわからずに業務がスタックしていることがほとんどです。だからよけいに聞きにいきづらい。それは能力差ではなく、業務が複雑化していることも原因。「わからないところ」という広い言葉ではなく、「仕事が進まなくなって困った状況になったら教えて」と伝えると来てくれやすいです。「報連相」が少ない、何事にも予防線を張りがちな後輩には、最初からハードルを下げて「20%できたら見せて」「企画が3つできたら見せて」と伝えると、業務が滞ることへのリスクヘッジにも。 

Q:雑談はビジネスでも大事だと思いますが、後輩には嫌がられます

A:過剰な雑談は「法律違反」と認識されることも。

パワハラ防止法では、パワハラ=業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であり、Z世代にとっては本音や雑談も同じこと。本音で語ることで理解が深まり、クリエイティブが生まれるという経験がないため、業務に必要のない法律違反ととらえがちです。ただ、彼らは雑談が嫌いなわけではありません。栗山英樹さんの「選手とのコミュニケーションは永遠の片思いでいい」という名言のように、相手を知る努力は続けたいものです。

Q:本音で話してもらえません。どうすればもっと頼ってもらえますか?

A:小さなぶっちゃけ話と失敗談を加えてみて。

「本音で語りたいんだ」といきなり言われても打ち解けられないし、警戒されます。例えば、「今日は寒いですね」で終わるところを、「今日寒いですね。冷え症だからつらい〜」と、本音や少しの自虐を付け加えると、「この人はいつもぶっちゃけて話す人だな」と思ってもらえる。そこから本音を言いやすい雰囲気が醸成されていきます。ちょっとポンコツ感を出したり、小さな本音や失敗談の集大成が本音で語り合えるということです。

Q:パワハラ認定が怖くて何も言えない。ビジネスライクに対応しがちです

A:「ハラスメントです」と言われたら、 その理由を話してもらうこと。

「これはハラスメントですよ」と言われそうなことなら、「今から話すことは、ハラスメントではないと思って言うのだけれど…」と前置きし、ハラスメントをしたいのではないという意思表示を。それでもハラスメント認定されたら、「どうしてそう思った?」と問い、相手の言葉で理由を話してもらいましょう。そこを曖昧にすると、先輩世代がどんどん追い詰められていってしまうことにも。 

Q:雑談をするときに気をつけたいことは?

A:自慢話はNG。「あ行」と「す」のリアクションもおすすめ。

イノベーションが生まれたり、心理的安全性の確保ができたりと、雑談を増やすことが成長の鍵ともいわれますが、それを先輩世代が口にすると雑談が強制になります。雑談内容のNGは、後輩世代が最も嫌う自慢話。話すきっかけに困ったときは天気の話もありですが、「それで?」と思われがち。人は話を聞いてほしいという承認欲求が強いので、こちらから質問をして後輩世代に話してもらい、「自分は味方である」ことを伝えていきたいもの。雑談のリアクションでは「なるほどね」「はいはい…」と言いがちですが、相手は話を受け入れてもらえているのか不安になることも。おすすめは、「あ行」と「す」の言葉。ありがとう、いいね、えらい、すごい、すてき、するどいなどは共感や驚きを好意的に伝えます。つまりは合いの手。好かれる人は合いの手上手です。

Q:気を遣ってほめてしまいがち。効果的なほめ方、注意のし方が知りたいです

A:「ポポネポの法則」の活用を。

できていないことを気付かせ、間違っていることはちゃんと否定する。そういうときは、ポポネポ。ポジティブ→ポジティブ→ネガティブ→ポジティブと、ネガティブなことの前に、ポジティブなことをふたつ言うテクニックです。叱る、アドバイスをするときも同様で、最初にポジティブをふたつ重ねると「自分にとっていい話だ」と感じて耳を傾け、ネガティブな内容も受け入れやすくなります。

Q:わかってはいても、ついきつい言葉が出てしまいます。圧のない声掛けにするには?

A:「これからどうしようか」と、主語に自分を含めて。

ミスをした人に「どうしてこうなった」「だから言ったじゃないか」「そうなると思ってたよ」「お前の責任だぞ」は、嫌われる先輩・上司の定番。そう言われた瞬間に梯子を外されたと感じ、「信用できない」「敵だ」となってしまいます。「このあとどうするんだ?」ではなく、「私たちはこれからどうするべきかな」と、主語を「私たち」にし、自分も含めて話すことを心掛けて。

Q:意思疎通が難しく、相手の受け取り方にいつもギャップを感じます

A:「もっと早く来い」ではなく「15分早く来い」。

日本人のクリエイティブディレクターがN.Y.で広告制作中、現場のアメリカ人に「この青をもうちょっと足して」と言うと、相手が怒りました。「ちょっとは曖昧すぎる。何%かで言ってくれ」と。アメリカのような多民族国家は価値観も多様なので明確に伝える必要性がありますが、同じことが今、先輩・後輩世代間でも起きています。程度を表す言葉はとらえ方がすれ違いがちなので、ギャップが出ないように具体的に言語化して伝えるべきです。

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PHOTO :
Getty Images
EDIT&WRITING :
松田亜子、福本絵里香(Precious)
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