日々の疲れを洗い流し、心身共にリフレッシュできる温泉旅。天然資源である温泉はその土地ごとの個性があり、ただ体が温まるだけでなく、全身の凝りがほぐれるのを感じられたり美肌に近づけたりなど、普段の入浴では得られないさまざまな恩恵をもたらしてくれます。

そうした温泉のポテンシャルをしっかりと実感できる近畿の名宿を、温泉ジャーナリストの植竹深雪さんがピックアップ。今回ご紹介するのは、兵庫・有馬温泉にある「陶泉 御所坊」です。

植竹深雪さん
温泉ジャーナリスト
(うえたけ みゆき)全国各地の3000スポット以上を巡っている温泉愛好家。フリーアナウンサー、温泉ジャーナリストとして、テレビ番組をはじめ、さまざまなメディアで活躍中。著書に『からだがよろこぶ! ぬる湯温泉ナビ』(辰巳出版)がある。
公式サイト

有馬最古の温泉旅館で国内屈指の濃厚な金泉を満喫する

日本三古泉、日本三名泉、そして日本三大薬湯のひとつに数えられる兵庫の名湯・有馬温泉。約600万年前に海底に堆積した古代海水が湧き出したものがルーツとされる、世界でも珍しい非火山性の温泉です。古くは「日本書紀」や「万葉集」にも登場し、数々の文豪や著名人を魅了してきた名湯には、今なお国内外から多くのゲストが訪れます。

その由緒ある温泉街にて、最古の宿が「陶泉 御所坊」。創業西暦1191年という途方もない歴史を有し、有馬温泉の象徴的存在といっても過言ではありません。

外観
「陶泉 御所坊」の外観。木造三階建の風情ある建物は国の登録有形文化財でもある。
館内の展示品
文豪・谷崎潤一郎にも愛された宿。館内には谷崎の限定本や書簡の展示も。
サロン・ド・ロシオ
昭和6年当時の姿を今に伝えている「サロン・ド・ロシオ」。

「有馬には、にごり湯の“金泉”と無色透明の“銀泉”がありますが、こちらの宿で入れるのは金泉。泉質でいうと、含鉄-ナトリウム-塩化物強塩温泉にあたります。金泉は、湯の温度や成分の影響で管理が非常に難しいとされますが、源泉かけ流しで堪能できるのは、こだわりの湯遣いの賜です」(植竹さん)

有馬の金泉
有馬の金泉。

「金泉の特徴は、鉄分・塩分の含有量がずば抜けた国内屈指の濃厚さ。もともとは無色透明な湯ですが、鉄分が空気に触れることでまるでチョコレートのような茶褐色のにごり湯に変化していて、その力強さは見た目にも一目瞭然です。また、塩分量は海水の約1.5倍から2倍。浴槽に浸かると体が浮遊するような感覚も得られ、高い保湿効果や血行改善による腰痛改善効果などが期待できます」(植竹さん)

大浴場内湯
大浴場は手前が内湯。奥が半露天という構造。洞窟のような通路を抜けて半露天へと向かう。

「長い歴史に渡って数多くの湯治客を癒してきた効能豊かな湯ですが、高濃度で成分が体に浸透しやすいため長湯は禁物。湯あたりしないように、こまめに休憩をとったり、しっかり水分補給したりしながらパワフルな湯に抱かれ、その魅力を全身で感じていただければ…と思います」(植竹さん)

大浴場半露天
大浴場半露天の一番奥は男湯と女湯がつながる半露天式。仕切り越しに会話を楽しむカップルも多いとのこと。
半露天からの眺め
半露天からの眺め。

大浴場の「金郷泉」は、手前の内湯は男女別。一番奥まで進むと半露天の男湯と女湯がつながっていて、背の低い柵と岩で男女が区切られている半混浴式です。この独特の造りには、“男女で同じ空間を楽しんでほしい”という当主の思いが込められているとのこと。

「半混浴といっても、広さがあり死角となるような衝立もありますので、人目が気になることはほぼありません。それに、金泉のにごり湯に浸かっている部分は外からは全く見えないので、混浴文化になじみのない人でも比較的抵抗なく湯浴みを楽しめるのではないかと思います」(植竹さん)

「湯屋 松風」の外観
「湯屋 松風」の外観。

一方、プライベートな空間で金泉を享受したい人には、貸切風呂「湯屋 松風」がおすすめです。古民家を改装した建物に「頼」「韻」という二種の浴槽があり、それぞれ壁一面のモザイクアートがユニーク。源泉に最も近い場所に建てられたことから、より濃厚で新鮮な湯をひとり占めする贅沢なひとときを過ごせます。

貸切風呂「頼」
貸切風呂「頼」。
貸切風呂「韻」
貸切風呂「韻」。

以上、有馬温泉「陶泉 御所坊」をご紹介しました。温泉好きはもちろんのこと、そうでない人でも人生で一度は体験しておきたい有馬の金泉。悠久の歴史を感じつつ濃厚なにごり湯を堪能したい人は、次の旅先候補のひとつに加えてみてはいかがでしょうか。

問い合わせ先

  • 陶泉 御所坊
  • 住所/兵庫県神戸市北区有馬町858
    客室数/全17室
    料金/朝夕2食付き 2名1室1名¥33,500~
  • TEL:078-904-0551

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WRITING :
中田綾美
EDIT :
谷 花生(Precious.jp)