明治時代の外国人向けホテル「開化亭」跡地に建てられた、全5階という広大な館内に、常時約450点の美術品を展示する岡田美術館。

60年ぶりに再発見された喜多川歌麿の肉筆浮世絵『深川の雪』や、83年もの間所在不明になっていた伊藤若冲『孔雀鳳凰図』を収蔵、公開するなど、開館以来、話題の続く美術館です。

収蔵品は、尾形光琳をはじめとする琳派の絵画や、日本・東洋の陶磁器など名品ぞろい。野々村仁清の香炉、尾形乾山の鉢など、重要文化財も。まさに「美の殿堂」と呼ぶにふさわしい、知的スポットです。

そして、岡田美術館の新たな顔になると注目を集めているのが、現在開催中の特別展「初公開 田中一村の絵画 ―奄美を愛した孤高の画家―」に出品されている田中一村の作品。まずは、一度見たら忘れられないインパクトをもつ『熱帯魚三種』をご覧ください。

田中一村 『熱帯魚三種』 昭和48(1973)年 岡田美術館蔵 ©2018 Hiroshi Niiyama

奄美の自然を描き続けた信念の画家

田中一村は、明治41(1908)年に、栃木で生まれました。18歳で東京美術学校(現在の東京藝術大学)に入学しましたが、2か月あまりで退学。その後は独学で制作を続けます。しかし、公募展で入選したのはごくわずかで、中央画壇で活躍することはありませんでした。

そして、50歳のとき、単身で奄美大島へ移住。大島紬の染色工として5年間働いて資金を貯めたら、3年間は制作に集中、再び染色工に、という、極めて質素な暮らしをしながら、絵のためだけに生きたのです。描いたのは、色鮮やかで生命力に満ちた奄美の風物。自らが納得する絵だけを残して、移住から20年後の昭和52(1977)年、69歳で亡くなりました。

田中一村 『白花と赤翡翠』 昭和42(1967)年  岡田美術館蔵 ©2018 Hiroshi Niiyama

1点を完成させるのに、数か月を費やしたといわれている一村。奄美時代の作品は、約30点しか存在せず、そのほとんどは、奄美大島にある田中一村記念美術館か、個人の所蔵となっています。今回の展覧会では、その稀少な作品のうち、『熱帯魚三種』『白花と赤翡翠』といった岡田美術館収蔵の代表作に加え、最高傑作と名高い『アダンの海辺』(個人蔵、展示期間8月24日〜9月24日)が特別に展示されます。

「昭和の若冲」と呼ばれた一村を若冲作品と比較!

一村は、その画風や生き方が、江戸時代の画家・伊藤若冲と通じ合う点が多いと言われており、「昭和の若冲」とも称されています。そして、岡田美術館には質の高い若冲コレクションもある、というわけで、今回は若冲と一村を見比べる贅沢な展示も。

伊藤若冲 『花卉雄鶏図』 江戸時代中期 岡田美術館蔵

真に迫る写実表現、鮮やかで装飾的な画面、そして隙のない完成度の高さ。昭和を生きた孤高の画家・一村と、江戸の奇想の画家・若冲との、時空を超えた競演を楽しめます。

足湯カフェに庭園巡り…観賞後もたっぷり楽しめます

岡田美術館は、展覧会だけでなく、施設やロケーションも魅力的。美術館正面には、日本画家・福井江太郎によって描かれた、縦12m、横30mにも及ぶ大壁画『風・刻』が迫力いっぱいに展示されています。来場者は、それを見上げながら、100%源泉かけ流しの足湯を飲み物とともに楽しむ…箱根ならではの贅沢に浸れます。

約15000㎡の敷地が広がる庭園には、春から夏にかけて、色とりどりの花が咲き乱れます。5月12日・13日の週末には、飲食施設「開化亭」で特製のお弁当が限定30食で提供(税込¥3,000・庭園入園料込)されるなど、さまざまなイベントも。爽やかな新緑の季節、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

問い合わせ先

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
EDIT&WRITING :
剣持亜弥(HATSU)