舞台『ライフ・イン・ザ・シアター』は、ベテラン俳優ロバート(堤 真一)と若手俳優ジョン(中村倫也)による、「劇場」を舞台にした二人芝居。1977年からアメリカ、イギリス各地での公演を経て、日本では1997年(石橋蓮司、堤真一)、2006年(市村正親、藤原竜也)、2022年(勝村政信、高杉真宙)に上演され、今回が4度目の再演。実力もキャリアも十分に積み上げてきたふたりが作り上げる舞台とは?

堤 真一さん
俳優
(つつみ・しんいち)1964年生まれ、兵庫県出身。数多くの映画、ドラマ、舞台に出演し、受賞歴多数。舞台では、デヴィッド・ルヴォー、蜷川幸雄、野田秀樹、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、ジョナサン・マンビィ、リンゼイ・ポズナーら演出の作品に多数出演。そのほか近年の主な舞台出演作に『みんな我が子』、『帰ってきたマイ・ブラザー』、『カラカラ天気と五人の紳士』、『A Number─数』、ドラマ『ミワさんなりすます』、『舟を編む〜私、辞書つくります〜』、『大阪激流伝』などがある。2025年は映画『室町無頼』、『木の上の軍隊』、11月公開の『旅と日々』に出演。10月よりNHK朝のテレビ小説『ばけばけ』に出演する。
中村 倫也さん
俳優
(なかむら・ともや)1986年生まれ、東京都出身。2005年俳優デビュー。2014年『ヒストリーボーイ』で舞台初主演。そのほかの主な舞台出演作に『黄昏』(06)、『バンデラスと憂鬱な珈琲』(09)、劇団☆新感線 41周年興行秋公演・いのうえ歌舞伎『狐晴明九尾狩』(21)、MUSICAL『ルードヴィヒ 〜Beethoven The Piano〜』(22)、『OUT OF ORDER』(23)がある。近年は、映画『ミッシング』、『ラストマイル』、『あの人が消えた』、ドラマ『Shrink−精神科医ヨワイ–』、Amazon Originalドラマ『No Activity』シリーズなどに出演。最新出演ドラマは『DOPE 麻薬取締部特捜課』(TBS系) 。声の出演をしている映画『ペリリュー –楽園のゲルニカ–』が、12月5日公開予定。

どこかに共感したり、同じ景色を見たことある、と感じられる舞台

インタビュー_1
左から/堤真一さん、中村倫也さん

ふたりが共演するのは、9月開幕の二人舞台『ライフ・イン・ザ・シアター』。稽古は7月後半からスタートし、7月末の取材時は、膨大なセリフを頭に叩き込んでいる真っ最中。このタイミングでしか聞けないリアルなトークと、期待を背負ったふたりの頭の中を、少しだけ覗き見してみると――

あれ? こんなにセリフ多かったっけ?(堤さん)

――いよいよ稽古が始まりました。稽古を前にして、演出家の水田伸生さんは「胃が痛くなるほど緊張している」とおっしゃっていましたが、おふたりの心境はいかがでしょう?

堤さん(以下敬称略):新しい舞台が始まるときはいつも手探りなので、特別な緊張もなく、すーっと入っていった感じでしょうか。今からやるぞ!みたいな意気込みがあるわけでもなく。

中村さん(以下敬称略):早くみんなと一緒に稽古をやりたかった…というか、家でひとりで台本を読んだりセリフを覚えたりしてるのは、本当につまらなくて。集まって稽古をしたほうが、ひとりで考え込むよりわかることがたくさんあるんです。

インタビュー_2
中村さん衣装/Tシャツ¥12,650・ジャケット¥51,700・パンツ¥29,700(すべてLAD MUSICIAN<STUDIO FABWORK>)、その他スタイリスト私物

:(稽古の)進み方としては、ずいぶん早いんじゃないかな。もう半分以上きたか…。

中村:そうですね、3分の2ぐらいきましたね。

:それでわかったんだけど、自分が演じたとき(注※)の印象より、ものすごくセリフが多い。あれ? ロバートはこんなにしゃべるんだっけ? って。今はとにかく最後まで稽古して、覚えるしかない。

注※1997年、舞台『ライフ・イン・ザ・シアター』は石橋蓮司と堤真一で上演された。石橋さんがベテラン俳優のロバートを演じ、このときに堤さんが演じたのが、今回中村さんが演じる若手俳優のジョン役だった。

中村:過去に何度か上演されてきた舞台だけれど、時代とともに作家自身が(セリフを)変えたり増やしたりしていくこともあるみたいです。

:いやいや、減らしてくれ…(笑)。場面転換も多いし、覚えなきゃならないことがいっぱいで。まあ、それは以前も同じだったし、演出家が考えなければならないところが多いんですが。

中村:だから演出家・水田さんは胃が痛かったんでしょうか。

:そうかもしれない(笑)。普通だったら、そういったつなぎや転換は演出家の頭の中だけにあって稽古は進んでいくんだけど、今回は違う空気を感じますね。スタッフを含め、舞台の転換のこと、その手順…、誰が何をどうするというのを、今からみんなが気にしていて。そこは楽しみなところでもあります。

中村:衣装替えも多いですしね。いろいろ考えても結局、衣装の実物が出来上がってからでないとわからないし、と思いながら…。さて、どうなるか。

「何者でもない人」だけど、見る人の心を揺さぶる役(中村さん)

インタビュー_3
「この作品は、引いて見れば、人間の一生の上り下りを表現しているものでもある」(中村さん)

――着々と準備が進んでいるようですが、演じるロバートとジョンそれぞれの人物の魅力は、現時点でどう感じていらっしゃいますか。

:僕は1997年に石橋蓮司さんが演じたときの姿をよく覚えていて、それが今すごく助けになっています。ロバートの印象は、本当に面倒くさいオヤジ(笑)。ベテランになってまで、若者に対する対抗意識をもっていて、逆にすごいと思います。言うなれば、「大人になれないおっさん」。相手をするジョンがかわいそうに思えてくるほど。

中村:あはは。

:以前にジョンを演じたときは、そんなふうに思わなかったのに。

中村:僕が演じるジョンは、ロバートのことを面倒くさくて偏屈なヤツだなと思っています。でも、どこか寂しげだったり、哀愁があったり…というロバートが垣間見えて、切ないんですよね。ジョンはそれを無視したりもしているんですけど。
人生の上り坂にあるジョンと、老いていきつつできないことが増えたりしながら、志はピュアなところもあるロバート。この作品はふたりの一時期を切り取った二人芝居ですけど、引いて見れば、人間の一生の上り下りを表現しているものでもあるんです。だから、多くの人がどこかしらのポイントに共感したり、同じ景色を見たことあると感じたりすることができる。みなさん会社でも、家庭でも、同じようなことはありますから。だからふたりとも「何者でもない人」たちなんだけど、見る人の心を揺さぶるのだと思います。

――それを膨大なセリフで表現するわけですが、そこに大変なご苦労もあるのではないでしょうか。舞台ではロバートもジョンもセリフを忘れてしまう場面がありますが…。

:いやー、すごいセリフ量だから、僕は本当に忘れちゃう可能性がある。

中村:いやいやいやいや(笑)。

:量の多さは僕のほうでも、実は難しいのはジョンのほうなんだよね。「ほー」とか「いいえ」だけのセリフも多いでしょう。それって、会話の内容に沿ったものがあれば、そうじゃないものもあって。「うん」なのか、「うーん」なのか、細かいところに意外と神経を使うんだよね。

――覚え方はあるのですか?

中村:僕は暫定の(台本の)段階から、物語の道筋を追いながら、とりあえず全体とおして覚えます。でも、堤さんが言ったように、「ああ」、「はい」、「うん」みたいな返事が多くて、やっぱりややこしいです。全部頭に入れているわけではないですけど、考えようによっては、なんでもいけちゃうんじゃないか、なんて思ったりもして。

:まあね(笑)。前回の蓮司さんとの共演のときは、こっちのジョンの返事もきっちり正確に覚えておかないと、という思いが強くて。だってちょっと違う返事をしたら、蓮司さんを混乱させてしまうから、間違えられないっていう緊張感があったんです。

中村:うわ、頑張ります。

――共演は久しぶりでも、すでに息はぴったりのふたり。ここに至るまでのふたりの関係、それぞれが信頼を寄せるわけは、次回Vol.2でたっぷり語っていただきます。


■舞台『ライフ・イン・ザ・シアター』9月上演開始!

現代アメリカ演劇を代表するデヴィッド・マメットの代表作。大御所俳優ロバート(堤真一)と若手俳優ジョン(中村倫也)のふたりが、舞台上をはじめ楽屋や舞台袖、廊下など、さまざまな劇場空間で、演劇界ならではの人間関係や本音を「二人芝居」で表現する。時間の経過と共に変化していく二人の心理的なパワーバランスは、ユーモラスでありながら時に残酷で…。

【東京公演】9月5日(金)~9月23日(火祝) IMM THEATER
【京都公演】9月27日(土)~9月28日(日) 京都芸術劇場 春秋座
【愛知公演】10月4日(土)~10月6日(月) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
【大阪公演】10月9日(木)~10月14日(火) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
【愛媛公演】10月17日(金)~10月18日(土) 愛媛県県民文化会館 サブホール
【宮城公演】10月25日(土)~10月26日(日) 多賀城市文化センター 大ホール(多賀城市民会館)

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PHOTO :
高木亜麗
STYLIST :
中川原 寛(堤さん/CaNN)、戸倉祥仁(中村さん/holy.)
HAIR MAKE :
奥山信次(堤さん/B.sun )、Emiy(中村さん)