2011年、『ふがいない僕は空を見た』で山本周五郎賞を受賞した窪 美澄さん。新刊の連作集『じっと手を見る』は、田舎町の介護施設で働く、若い女性たちへの取材をきっかけにして生まれた作品です。そして、そんな「片隅で生きる人たち」へ眼差しを向けるのは、窪さん自身の人生とも密接な関係が。読後には、なんともいえない切なさが胸に広がる恋愛物語です。

帰るべき場所を求めながら、どこか心がすれ違う切ない恋愛物語

富士山の見える、小さな町の老人施設で介護士として働く若い男女。ふたりの恋愛の行方を、移りゆく時の流れのなかに描く連作集。昔、田舎町の介護の場で働く若い女性の取材をしたことのあった窪さんは、いつか小説にしたいと思っていたのだといいます。

「言ってみれば死を待つ人たちを、こんなに若い子たちが看ているという生々しいような現実。『この仕事なら食いっぱぐれることはないから』と話すことにも衝撃を受けました。どこに羽ばたけるわけでもない、今の若者のひとつの姿、閉塞感でもありますよね」

窪 美澄さん

なんともいえない「切なさ」が胸に広がるラブストーリー

主人公ふたりのたどってきた半生には、つらい起伏があった。それぞれに現れる新しい相手もまた、同じような境遇を生きて、寂しさを抱え、心を寄せ合いたいと願いつつも、結局は添うことがない。窪さんの小説はいつも、そのような心情や本音、性愛の描写を美しい言葉でつむいできました。

「しんどさをことさら強調する、ではなくて、人生には普通にあること、という体で人物を書きたいと思っています。片隅で生きる人たちへの眼差しは、私自身の人生とも関わっているかもしれません。12歳のとき、母が家を出て離婚。父は明治から続いた酒屋を潰して、家は一気に貧乏生活になりました。私も離婚後、息子を育ててきましたし。でも憎しみや苦しみって、“時”がいつしかおかしみのようなものに変える。不思議なものですね」と、窪さん。

生きること、死ぬこと、恋すること、別れること…。読後、胸に広がった切なさが、しばらくの間離れません。

窪 美澄さん
作家
(くぼ みすみ) 1965年、東京生まれ。編集ライターを経て、2009年 に『ミクマリ』で「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞。 2011年、『ふがいない僕は空を見た』で山本周五郎賞を受賞。

『じっと手を見る』

著=窪美澄 幻冬舎 ¥1,400(税抜)

STORY

介護士として働き、恋愛関係にある日奈と海斗。ショッピングモールだけが息抜きの日奈の生活に、あるとき宮澤という男が東京からやってきて…。既婚の宮澤を追って故郷から出る日奈。一方、海斗も別の女と暮らし始めるが…。

PHOTO :
ノザワヒロミチ
EDIT&WRITING :
水田静子
RECONSTRUCT :
難波寛彦