鈴木保奈美さんの連載「Carnet de petite voyageuse 中途半端な旅人は語る」第十四回

俳優・鈴木保奈美さんの大好評連載「Carnet de petite voyageuse 中途半端な旅人は語る」では、保奈美さんの趣味のひとつである旅をテーマに、これまで経験してきた旅路を振り返ります。

第十四回となる今回は、【魔法使いのスーツケース】と題してお送りします。今回も保奈美さん自ら撮影したフォトも大公開します。

鈴木保奈美さん
俳優・文筆業
(すずき ほなみ)ときにエスプリの効いた感性豊かな文章には定評あり、本誌でも数多くのエッセイを執筆。現在、『あの本、読みました?』(BSテレ東)ではMCを、『365日の献立日記』(NHK-Eテレ)ではナレーションを、と幅広く活躍中。11/19より配信スタートの、芸能界の闇を描くABEMAオリジナルドラマ『スキャンダルイブ』(毎週水曜 無料配信)に出演。公式インスタグラムhttps://www.instagram.com/honamisuzukiofficial/も好評。

第十四回「魔法使いのスーツケース」 文・鈴木保奈美

鈴木保奈美さんが撮影したスタイリストの犬走比佐乃さん
スタイリスト犬走比佐乃さんと保奈美さんは、30年以上のお付き合い。写真は1年半前、パリ・ラスパイユ通りのマルシェでのスナップ。マダム犬走はその審美眼で、旅先でもセンスのいい服や小物を見つける達人。

旅先でシャツを着る、というのが、自分のトレンドになっている。トレンドというか、野望? いつだったかハワイのホテルで、あまりにも素敵なフランス人女性に遭遇してからだ。いつも麻の上下をさらりと着ていた。トングサンダルは、革。ロゴTシャツとかゴムのビーチサンダルって、なんのことかしら? って風情にノックアウトされてしまった。

一方で、ニューヨークの地下鉄で見かけた日本人女性(ご家族と一緒にいて、確実に観光客だった)。Tシャツにパーカーに、てろんと中途半端に長いスカート。ええええ、日本にいるときと同じじゃん。部屋着に見えなくもない。せっかくニューヨークにいるんですよ、もうちょっとギア上げましょうよ。気分、上げていきましょうよ。

スーツケースを手にした鈴木保奈美さん
 

だけど旅のシャツはハードルが高いのも事実だ。スーツケースに押し込めた時点でシワができるし、一度袖を通してしまったらもう着回しできない。一体どうすれば…と、首を捻った先に、あの人がいた! 我らがレジェンドスタイリスト、マダム犬走が!

犬走さんはいつも隙なくお洒落だ(いや、プロだから当然といえば当然だけど、でもそのレベルがね)。遠方のロケでも、酷寒酷暑、早朝深夜でも、ちゃんとその場にふさわしいデニムやジャージも着こなし、かつ「なんですかその可愛いコートは!」みたいなひと匙のエスプリを忘れない。

鈴木保奈美さんが撮影した犬走比佐乃さん
パリのホテルにて、銀ジャケットをお洒落に着こなすマダム犬走。
旅先での鈴木保奈美さん
同じジャケットを保奈美さんが着てみると…、「わあ、素敵! でもやっぱりポンピエ(消防士)

おまけに撮影後にお食事に行くときはぐっとエレガント。い、いつの間にお着替えなさったのか… Preciousのロケでパリに行ったときは、アルミの保温シートみたいな銀色のジャケットで登場して、「なんですかそのポンピエみたいなジャケットは!」と我々に突っ込まれたのだが、「こっちは寒いらしいし、パリだからいいかなあって(ニッコリ)」と動じなかった。そして確かに、パリには銀色のパンツのマダムが颯爽と歩いていて、犬走さんはあっさりと馴染んだのであった。

旅先での鈴木保奈美さん
例のシルバーパンツのパリマダム。

そうだ。餅は餅屋。馬は馬方。蛇の道は蛇。お洋服のことは、スーパースタイリストに聞くことにしよう。

1.アウターから決める
いきなりカウンターパンチである。アウター! だよねだよね、納得。冬のコートは何着も持っていけないから、どれを選ぶかで中に合わせるものは自然と方向が決まってくる。グレーなのか、ネイビーなのかベージュなのか、思いきって白? 暖かい季節でも、大人は必ず何か羽織るから(そしてそれがパーカーである確率は極めて低い、犬走さんの場合)ジャケットの色とデザインを決めれば全体像が見えてくる。

鈴木保奈美さんが撮影した写真
黒パンプスは、スエードかサテンを選ぶのがマダムのこだわり。

2.靴は最低3足
スニーカーが市民権を得て、本当にありがたい。昔は長距離移動でローファーを脱いでしまったら、二度と足が入らなくて泣いたものだ。旅先ではたくさん歩くから、履き慣れていることは必須だけれど、ハイブランドのお店を見るならきちんとした靴が欲しい。さらに、マダムはディナー用にヒールのある靴も用意する。おおお、わたしはここ、ぺったんこのミュールで切り抜けているな。ただしエナメルとか、光るもの。
(追記・室内履きもお気に入りのものを持っていく。「たいしてかさばらないしね」とのこと)

鈴木保奈美さんが撮影した写真
ブラウスやワンピースのために、パッド入りのハンガーを持参。「一緒に畳んでスーツケースに入れれば型崩れ無し」

3.シワにならない綺麗なブラウスか、ワンピース
そう、それもフリルが付いていたり鮮やかなプリントだったり、華のあるものを選んでらっしゃる、ということを、わたしは知っている(時々テレビの衣装用にお借りしたりしている)。ついシンプルなものを選んでしまいがちだけれど、ちょっと目を瞠(みは)っちゃうような一枚があると重宝するということに気付いて、わたしも最近アンテナを張っている。

鈴木保奈美さんが撮影した写真
「ジュエリーとスカーフは気分が上がるからとにかくいっぱい!」

4.スカーフやジュエリーは多めに
これ! 存在感のあるアクセサリーを使うことで、印象は大きく変わる。と、わかってはいるのだけれど。普段ジュエリーを着けない人間にはなかなか使いこなせない。旅先だからって急に何か始めるとうまくいかないことの方が多い。わたしはなるべく、いつも東京にいる自分の延長でいようと思っている。頑張りすぎない。つまり旅先でジュエリーを着けたかったら、普段から練習して日常にしておくことだ。んん? だとすると、あのニューヨークで見かけた女性は思いっきり普段着で、むしろ旅の達人だったってこと?

旅先での鈴木保奈美さん
 

5.非日常も楽しむ
「ロンドンでブルーのウィッグを買っちゃったことがあるのよ」とおっしゃるマダム犬走。今もお持ちだったら、見せて欲しい…。うん、この気持ち、わかるなあ。わたしはアイルランドのホテルのバスルームで、隣のスーパーで買ってきたヘアカラーで髪を染めたことがある。なんだか、やりたくなっちゃったのよね。ちょっぴり茶色くなっただけで、代わり映えしなかったけど。

鈴木保奈美さんが撮影した写真
ポーチとルームシューズは、大好きなブルーで統一。

6.パジャマを持っていく
大事です。日本の旅館だと浴衣が備えてありますが、あれでは眠れません。寝るときに、わたしも着替えます。ましてや海外なら尚更です。そしてここで! 着古したテキトーなTシャツなんか着てはいけない。旅の疲れを癒やし、翌日また元気に活動するために、正しくパジャマが必要なのです。マダムは最近リカバリーパジャマに変えたようです(実はわたしも)。

ただ問題はパジャマを何着持っていくか、なのだ。三泊までなら一着でいいか…。それより長い旅だったら、どうしよう? 下着くらいはちょこっとバスルームで洗っちゃうけど、パジャマは、ねえ。

鈴木保奈美さんが撮影した写真
ホテルのクローゼットのここに注目。「アイロン台をもっと活用しなくちゃ」と犬走さん。

7.そうそう、忘れていた、シャツ問題
シャツがしわくちゃになったら? 「アイロンかければいいのよ。ホテルのクローゼットにたいてい備え付けてあるでしょう? もしも無かったら、フロントに聞く。アイロンを用意していないホテルなんて絶対に無いから、なんならアイロン台と一緒にお部屋に届けて貰えばいいじゃない?」うわああ、そうきたか。これぞプロの真骨頂。目から鱗でした。今度やってみよう。ホテルの部屋でさっとアイロンをかけて、パリッパリのシャツでディナーに出かける。カッコいいいい。

ワインバーで二、三杯やりながらの楽しい取材であった。それにしても、あのスーツケースから繰り出される目くるめくコーディネートの数々。ドラえもんのポケットか、メリー・ポピンズのバッグか? マダム犬走、やっぱり魔法使いなんだと思う。

関連記事

PHOTO :
鈴木保奈美(本人の写真は、スタッフ、友人、家族が撮影)
EDIT :
喜多容子(Precious)
撮影協力 :
ライカカメラジャパン
取材協力 :
犬走比佐乃