夜になると、綺麗にライトアップされた百貨店のショーウィンドウ。つい足を止めて、眺めてしまう方も多いのではないでしょうか。そんなときに、洋服を引き立てているディスプレイツールが、人型の「マネキン」です。実はひと口にマネキンといっても、さまざまな種類があり、近年では最新技術を搭載したマネキンも発表されています。

今回は、そんなふだん何気なく目にするマネキンに注目。マネキン製造や売り場のディスプレーなどを手がける「吉忠マネキン」のクリエイション本部・川野 泰さんと、販促広報・石崎昌浩さんに、マネキンの変遷について伺いました。

そのお話によれば、店頭で洋服を引き立てているマネキンは、密かに産業分野をも横断しはじめているよう。マネキン製作の技術によって、SF映画に登場するような”ロボット”が誕生する日も近いかもしれません!

マネキンもファッションの低価格化に伴い、コストダウンしている?

1946年に創業した吉忠マネキンが手がけるマネキンは、今でもすべてがハンドメイド。'60年代はツィギー、'70年代にはスーパーモデルの山口小夜子をモデルに起用したマネキンを製作しました。しかし、近年はこういったリアルさを追求したマネキンの需要は、減っているそう。ファストファッションや量販店が台頭したことで、ファッション業界全体の単価が下がり、マネキンもコストダウンの対象になっているといいます。

左から/リアルマネキン、抽象マネキン、ヘッドレスマネキン

「マネキンは大きく分類すると、人間の容姿に近い『リアルマネキン』、目鼻立ちの細かい造形が省略された『抽象マネキン』、頭部がない『ヘッドレスマネキン』の3種類に分けられますが、現在の主流は抽象マネキンです。

リアルマネキンは、存在感があり華やかさもある反面、空間演出が難しく、ディスプレーを構成できるデザイナーなどの人材コストが必要です。そういった理由も、抽象マネキンの需要が高まった要因のひとつです」(石崎さん)

マネキンの具体的な価格について聞くと、発注数など、条件によって変わるため、定価はないそう。ちなみにマネキンの発祥地である、アメリカやヨーロッパでは買取のみ。マネキンのレンタルは日本にしかないサービスだそうです。

女性たちの「痩せ願望」でマネキンも痩せてきている?

左が2000年、右が2016年のマネキン

近年、話題に上ることが多い、女性たちの痩せ願望。ファッションアイテムのサイズが昔よりも細身になっている、と聞いたことがある方もいるのではないでしょうか?

上の写真の左側が2000年に発表したマネキンで、右が2016年のもの。現在販売されている同じサイズのスキニーデニムを履かせてみると、なんとウエストが閉まらなかったそう。写真を見比べてみると、ウエストだけでなく、腕や肩幅も細くなっていることがわかります。

ファッションアイテムが細くなったことや、スリムな体型を目指す女性が増えたことによって、マネキンの体系も変化しているようです。

人間とまったく同じ顔にすると不気味?マネキンが「手づくり」である深いワケ

「FLOLA」(2017) 首は実際の人間よりも細長く、身長は190㎝。売り場では見上げる形になります

リアルマネキンのつくり方は、モデルを起用する場合と、モデルを使わない場合のふたつがあります。モデルを起用する場合は、ノギスで採寸し、原型をつくっているそう。モデルを使ったリアルマネキンの場合、人の顔に直接型取りをさせてもらったほうが、早く正確につくれるような気もしますが、どうして原型から制作しているのでしょうか?

その理由について、ロボットの分野でよく指摘される「不気味の谷」(※1)現象が関係していると、川野さんは言います。

※1:ヒューマノイドロボットの容姿やしぐさをどんどん人間に似せていくと、ある程度までは好印象を抱くが、人間にかなり近づいたところで急に薄気味悪さや嫌悪感が出てくる。この現象を1970年に森政弘氏が「不気味の谷現象」と提唱した。

「原型から手づくりするのは、リアルすぎると怖いからです。例えば「Pepper(ペッパー)」や「RoBoHoN(ロボホン)の顔は、アニメキャラクターのような表情にしていますよね。

モデルを起用したリアルマネキンでも、実際のモデルの顔とは実は少し違っています。実在の人物と全く同じ顔の造形にすると、見る人に気味悪さを感じさせてしまう。微妙に調整をしながら、人が見て美しいと感じる造形にしているんです」(川野さん)

マネキンならではの造形美を表現する原型作家による粘土原型

ロボットの分野で、マネキン製作のノウハウが求められている!

モーションコントロールで首や手足が稼働するマネキン「QLOGO(クロゴ)」

ショップでマネキンを見ると、ほぼ人間と変わらないプロポーションに見えますが、腰の高さやサイズなどを実際とは少し変えていて、より美しく見える黄金比率があるそう。

造形美を表現する独自のマネキン製作のノウハウは、「不気味の谷」現象が発生するヒューマノイドロボットの開発分野から期待が寄せられています。吉忠マネキンでは、その先駆けとして首や手足が稼働するポージングマネキン「QLOGO(クロゴ)」のプロトタイプを2015年に発表。マネキンの中にモーターを入れ、機構を設計するのは世界初の試みなのだとか。

2015年に発表されたQLOGO(クロゴ)

「マネキンの細い体型の中にモーターを入れ、機構を内蔵させるのはとても難しいんです。マネキンの中に入る、規格の機械をつくらなくてはいけませんから。現在の課題としては、全身が動くマネキンは高コストだということ。動くマネキンをショップのディスプレイに使うには、メンテナンスサービスのインフラ構築なども必要になります」(川野さん)

将来的に「QLOGO」は、人の顔や音声認識技術と融合し、陳列ツールの枠を超え、人とコミュニケーションがとれるロボットにすることも視野に入れているそう。「QLOGO」の開発には、2016年公開した映画『エクス・マキナ』(※2)に登場するヒューマノイドロボット・エヴァなど、映画に登場するロボットも参考にしているといいます。

※2:米タイム誌に「2015年のトップ10」に選ばれ、日本でも多くの著名人や媒体が取り上げ、話題を呼んだ映画。
あらすじ:世界最大級の検索エンジンサイトを運営する会社で働く若いプログラマー・ケイレブが、山奥に住むCEOとの対面に選ばれ、そこで人工知能を搭載した女性型ロボット「エヴァ」と会う。この美しいヒューマノイドロボット「エヴァ」を研究するために選ばれたケイレブは、チューリングテストを行うが、次第にエヴァに魅了されていく。

リアルすぎず、人間味のある美しい造形をつくる、絶妙なバランスを表現できるのが、マネキンの造形美技術——。マネキンの造形美をもったロボットが誕生する日も、近いかもしれません。普段何気なく目にしていたマネキンには、さまざまな可能性が秘められているようです。そのうち店頭に立つマネキンが歩き、私たちと会話をする日もやってくるのではないでしょうか?_

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TEXT :
Precious.jp編集部 
2018.5.31 更新
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PHOTO :
吉忠マネキン
WRITING :
石水典子
EDIT :
高橋優海(東京通信社)