岩崎家の別邸をルーツに持つ、伊豆を代表する名旅館「三養荘」
静岡県伊豆の国市に位置する「三養荘」は、旧三菱財閥の創始者・岩崎弥太郎氏の長男である岩崎久彌氏の別邸をルーツに持つ、日本を代表する老舗旅館です。1947年の開業以来、歴史ある建築や美しい庭園を受け継ぎながら、多くの人々を魅了してきました。
敷地内には、数寄屋造りの本館と、文化勲章受章者である建築家・村野藤吾氏が設計した新館が佇みます。本館は登録有形文化財にも登録されており、歴史的価値の高い建築として知られています。一方の新館は、伝統的な和の美意識とモダニズムが調和した村野建築ならではの魅力を随所に感じられる空間です。
また、約3,000坪にも及ぶ広大な日本庭園も見どころのひとつ。近代日本庭園の先駆者として知られる庭師・小川治兵衛氏によって手がけられた庭園は、四季折々の表情を見せ、館内のどこにいても自然の美しさを感じさせてくれます。歴史ある建築と庭園が一体となった空間は、日常を離れてゆったりとした時間を過ごすのにふさわしい、特別な趣に満ちています。
今回、新館和室にPrecious.jpライターが滞在。今年5月に復元された「月見台」と共に、客室や食事、魅力あふれる館内の建築などをご紹介します。
日本の観月文化を現代に伝える新たな象徴「月見台」が復活
三養荘の新たな魅力として復元された「月見台」。月見台とは、日本に古くから受け継がれてきた観月文化の中で、月を鑑賞するために設けられた空間のことです。奈良時代から平安時代にかけて宮廷文化の中で発展した観月の風習は、月を愛でながら和歌を詠み、季節の移ろいを感じる日本人ならではの美意識として受け継がれてきました。
三養荘では開業当時、この場所に月見台が設けられていましたが、時代の流れとともに失われていました。今回の復元では、創業当時の設えや思想をもとに往時の趣を現代によみがえらせています。
月見台が設けられたのは、村野氏が設計した新館の一角。目の前には美しい日本庭園が広がり、昼間は豊かな緑、夕暮れには柔らかな光、夜には月明かりに照らされた幻想的な景色を楽しめます。庭園と建築が一体となった空間で静かに月を眺める時間は、現代ではなかなか味わうことのできない贅沢な体験です。
6月より不定期でお茶会が行われているほか、7月にはジャズナイトイベントも開催。今後は、観月会、こたつバーなど、月見台を活用したさまざまな催しも予定されています。
宿泊者だけでなく外来利用も可能なイベントが用意されており、日本文化の魅力をより身近に感じられる場としても注目を集めています。
村野藤吾氏の美学が息づく上質な和空間。新館和室「若紫」に宿泊
旧三菱財閥創始者の長男の別邸として建設され、1947年に旅館として営業された頃からの歴史がある本館。専用の畳廊下50mを通って行くプライベート感あふれる貴賓室「御幸」は、かつて昭和天皇がご宿泊する際に作られたという特別な客室。本館離れの「高砂」「花月」は庭園の中に佇み、四季折々の景色を楽しめます。
1988年に誕生し、少しずつ客室数を増やして現在は22室ある新館の客室は、村野氏による自然の地形を生かした造りが特徴。洗練された空間美を堪能できます。

今回宿泊したのは、新館和室デラックスタイプの「若紫」。村野氏が手がけた新館ならではの落ち着きと洗練を感じられる客室です。
本間、次の間からなる2間続きの和室は、全部で101平方メートルもの広さを誇ります。
客室に足を踏み入れると、まず印象的なのが大きな窓の向こうに広がる庭園の景色。四季折々の自然を室内にいながら楽しめる設計となっており、まるで一枚の絵画を眺めているかのような美しさです。
室内は和の趣を大切にしながらも、ゆったりとくつろげる開放的な空間。障子越しに差し込むやわらかな光や、木の温もりを感じる意匠など、細部にまで心配りが感じられます。窓辺に置かれた椅子に腰を下ろして庭園を眺めているだけでも心が落ち着き、日常の慌ただしさを忘れさせてくれます。
次の間にはエアウィーヴ社製の大きなベッドが2台備え付けられています。居間と寝室が分かれているので居住性が高く、快適に過ごせます。
さらに客室内には、掛け流しの温泉が付いています。大浴場と同じ、伊豆長岡温泉の源泉をひいてきたアルカリ性単純泉です。大浴場まで足を伸ばすのもいいですが、滞在中はいつでも客室内ですぐに温泉に入れるというのが、なんとも贅沢でうれしいポイントです。
朝には鳥のさえずりや風に揺れる木々の音が聞こえ、自然との一体感を味わえるのもこの客室の魅力のひとつ。空間そのものの美しさと静けさで心を満たしてくれる客室でした。
館内を歩きながら楽しむ建築と自然の美
三養荘では宿泊する客室だけでなく、館内に残る歴史的建築にもぜひ注目したいところ。敷地内には登録有形文化財に指定された建物が点在しており、館内を歩くだけでも、日本建築の美しさや当時の職人技に触れることができます。
なかでも見どころの一つが、居間・書斎棟「松風」「小督」です。岩崎家の別邸時代から残る建物で、繊細な意匠を施した書院造の空間や、障子越しに庭園を望む設計など、日本建築ならではの美意識を随所に感じられます。格式を備えながらも自然と調和する佇まいは、時代を超えて受け継がれてきた建築技術の高さを物語っています。
ちなみに、こちらの「老松」では、期間限定で宿泊者以外でも参加できる「日本庭園カフェ」をオープンしていたことも。
また、「松風」は、岩崎久彌氏の別邸時代に居間として使用されていた由緒ある一室。上質な木材を用いた数寄屋建築ならではの繊細な細工や、庭園との一体感を意識した設計など、館内にいながら往時の迎賓空間を想像できる貴重な場所です。
こうした文化財建築を間近で見られるのは、長い歴史を持つ三養荘ならではの魅力。客室でくつろぐだけでなく、館内を散策しながら建築や意匠に目を向けることで、この宿が受け継いできた歴史や文化をより深く感じられるはずです。
また、三養荘を語るうえで欠かせないのが約3,000坪の日本庭園。池泉回遊式の庭園には池や石橋、松や季節の草花が配され、散策しながらさまざまな景色を楽しめます。館内のどこから眺めても絵になる美しさで、時間帯や季節によって異なる表情を見せてくれるのも魅力です。
温泉付きの客室でゆっくり過ごすのはもちろん、館内を歩きながら建築や庭園の美しさに触れる時間も、三養荘ならではの楽しみ方です。
伊豆の旬を味わう贅沢な食体験。懐石料理「松」と釜炊きご飯の朝食
旅館滞在中の楽しみのひとつが食事です。夕食では懐石料理の「松」コースをいただきました。
まずは、桜海老がのったキャベツのお浸しや高い糖度を誇るアメーラトマトの玉葱ドレッシング掛け、焼き穴子の新緑和えなどが並ぶ旬菜プレートが登場。
続いての御椀は「鮎並葛叩き」です。静岡県産椎茸や小メロン、素麺とともに、アイナメの旨みが味わえる一品です。お造りは、マグロとシマアジ。お醤油はもちろん、日本酒に梅干しや鰹節、昆布などを加えて煮詰めた日本古来の調味料である煎り酒につけていただくと絶品です。
焼肴は、福子(ふっこ)の木の芽焼きに、牛蒡の有馬煮、初神生姜を添えて。福子とはスズキの若魚の呼び名です。清々しい香りが上品な福子の白身によく合っていました。
続く酢の物は鰻柵。レモンの薄切りを敷いてさっぱりと。
メインのお料理は、国産牛のひれステーキ。バルサミコソースでいただくお肉は、ピンクペッパーがいいアクセントに。付け合わせは、やわらかく蒸したアスパラと玉ねぎと人参を焼き茄子のソースで。
蛸の炊き込みご飯と、お味噌汁も一緒にいただきます。
デザートには和菓子とすいかが登場。自分で餡をはさんで仕上げる最中を、静岡県のおやいづ製茶が手掛けるブランド抹茶「天空の抹茶」とともにいただきました。
翌朝は、釜で炊き上げるご飯が主役の朝食を堪能。ふっくらと炊き上がったご飯は香り豊かで、焼き魚や小鉢などとの相性も抜群です。湯豆腐も、朝から胃腸を温めてくれました。
シンプルながら素材のよさが際立つ朝食は、旅館ならではの贅沢を感じさせてくれました。
夕食、朝食ともに土地の恵みを大切にした内容で、食を通して伊豆の魅力を味わえるひとときとなりました。
歴史ある建築と広大な日本庭園、そして新たに復活した月見台。三養荘には、日本人が大切にしてきた美意識や文化が今も息づいています。静かな庭園を眺めながら過ごす時間は、慌ただしい日常を忘れさせてくれる特別な体験でした。
月見台の復元によって、三養荘は単なる温泉旅館ではなく、日本文化の魅力を体感できる場所としてさらなる進化を遂げています。伊豆を訪れる際には、歴史と自然、そして日本ならではの情緒に触れられる滞在を楽しんでみてはいかがでしょうか。
問い合わせ先
- 三養荘
- TEL:055-947-1111
- 住所/静岡県伊豆の国市墹之上270
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- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 小林麻美

















