今年、第156回直木三十五賞を受賞した話題作、『蜜蜂と遠雷』。


作者の恩田 陸さんの、“言葉による「音」の表現”に脱帽したという、翻訳家・エッセイストの鴻巣友季子さんが、作品の魅力について語ってくださいました。

第156回直木三十五賞を受賞『蜜蜂と遠雷』恩田 陸

形のない「音」を言葉で表現する作者に脱帽!

2015年、5年に1度の国際ショパンピアノコンクールと、4年に1度のチャイコフスキーピアノコンクール、3年に1度の浜松国際ピアノコンクールが重なったせいか、このところ日本では、宮下名都の『羊と鋼の森』など、ピアノ小説が人気です。なかでも私のイチオシは、恩田 陸の『蜜蜂と遠雷』。浜松国際のコンクー ル現場を長年取材した作者が、コンテスタント4人の人生を音楽によって描きだす群像劇の傑作です。

4人をざっと紹介すると...異能の野生児・風間塵、16歳。養蜂家の父とともにフランスで暮らし、その天衣無縫の演奏は恐怖すら呼び起こします。

天然ボケタイプの栄伝亜夜、20歳。天才少女として華々しくデビューしながら深い挫折を経験。

そして、サラリーマン音楽家・高島明石は同コンペの上限年齢28歳、一児の父。

最後にジュリアード音楽院の優等生で日系ペルー人のマサル・カルロス・レヴィ・アナトール、19歳。日本在住時代には壮絶ないじめにあっている。

芸術に点数や勝ち負けを決めることはできるのか? というのが、本作のテーマのひとつでもあります。また、音楽のみに生きる者だけが尊敬に値するのか? といった、音楽だけでなく文学や美術に言い換えられるテーマも。実際、作者はしばしば音楽界と文学界をさりげなくだぶらせる書き方もしています。どちらもコンテストばかり乱立していて、食べていける人はほんのひと握り...とか。

さまざまな主題やモチーフが有機的につながり合い、まさに壮大な組曲のように展開していきますが、なにしろ脱帽したのは、「音」という形の見えないものを言葉で描き切ろうとする作者の決意です。 予備予選からグランドファイナルまで、ぐらいの曲が出てきますが、一曲の省略もなく語られています。とくに、フランツ・リスト のピアノ・ソナタ ロ短調は物語仕立てで進み、リストの短編小説を恩田 陸の翻訳で読んだ気持ちになりますよ。

音楽と文学が美しく睦んだ小説です。

 

■歌手、ピアニスト、役者たちを描くとき、恩田 陸の筆は冴えわたる。今回は、国際ピアノコンクールを舞台に、人間の才能と運命、さらに音楽の旋律まで描き尽くす。2017年第156回直木賞受賞作!

『蜜蜂と遠雷』 著=恩田 陸、幻冬舎  ¥1,800(税抜)

※この情報は2017年2月7日時点のものになります。

 

この記事の執筆者
英語圏の現代作家の作品を翻訳、紹介すると同時に、『嵐が丘』『風と共に去りぬ』など古典文学の新訳にも力を注ぐ。また、翻訳のあり方や方法論に関する評論を続けている。文学とワインを論じ合わせる異色のワイン文学論「カーヴの隅の本棚」を「文學界」に足かけ9年連載。国内外の文芸評論も行い、朝日新聞、毎日新聞の書評委員の後、週刊朝日および週刊ポスト書評委員、週刊新潮書評者に。NHKラジオ第1「すっぴん!」内「本、ときどきマンガ」担当。2012年より学習院大学非常勤講師。2016年前期、津田塾大学非常勤講師。 好きなもの:クラシックピアノ、ワイン(基本的にはブルゴーニュ。近年は南アなどにも夢中)、猫(やっぱり雑種の和猫)、映画(ウェス・アンダーソンとか)、細めの附箋、ダウントン・アビー、北イングランドのアクセント、L’Arte Del Gelato(NYC)のピスタチオアイス、チェルシー・マーケット(NYC)、Rebelle(NYC最強のワインバー)、ブロードウェイとウエストエンド・ミュージカル(2015年ベストはFun Home)、エリオット・ハンナ、ジャズダンス、東京国際文芸フェスティバル(サポーターやってます)、ラ・フォル・ジュルネ(アンバサダーやってます)、豆煎餅、ミラベルのカヌレ、セージ色のリボン……
Faceboook へのリンク
Twitter へのリンク
クレジット :
撮影/田村昌裕(FREAKS) 文/鴻巣友季子
TAGS: