私たちの職場には、さまざまな事情を抱えて働いている人がたくさんいます。病気や怪我の治療中であったり、療養から復帰したばかりの方と一緒に働くことも、そう珍しいことではありません。
この場合、周りの人間がどのようにサポートしていけばいいのかは、なかなか悩ましい問題です。体調が万全でない人に無理をさせるわけにはいかないし、かといって、過度な特別扱いは、本人にとっても職場にとってもプラスにならないような気がするし……。また、いろいろ配慮したつもりが、かえって相手には失礼に受け取られるなど、悪印象を与えてしまうこともあるかもしれませんよね。
そこで、マナー講師の金森たかこさんに、病気や怪我の治療中の人、療養から復帰したばかりの人と一緒に働くときに「やってはいけないこと」の例を4つ、教えていただきました。
病気や怪我の治療中の人・復帰したばかりの人に対してのNGマナー4選
■1:「顔色が悪いですけれど、大丈夫ですか?」はNG
職場で調子の悪そうな人を見かけると、こんなふうに声をかけたくなるかもしれません。ただし、「顔色が悪い」「(不健康な意味で)痩せた」「しんどそう」など、見た目のネガティブな印象をそのまま口に出すと、相手を傷つけてしまう恐れがあります。
「病気を治療中の人、職場に復帰して間もない人は、何事も否定的にとらえてしまう傾向があります。周囲から気遣われると、ありがたいと思う反面、『自分はそんなに病人のように見えるのか』と、悲観してしまうかもかもしれません。また、『自分のせいで、職場に迷惑をかけているのではないか』という不安もあるので、罪悪感を強めてしまうことも。
また、『大丈夫ですか?』という問いかけも、曲者です。控えめな人の場合、本当は辛くても『大丈夫じゃないです』とは言いづらいもの。『はい、大丈夫です。ご心配をおかけして申し訳ありません』などと言わせてしまったり、痩せ我慢をさせてしまう可能性のほうが高いです。
もちろん、『大丈夫ですか?』は相手を気遣う言葉ですし、絶対にどんな状況でもダメというわけではありません。ただ、病気が完治していないうちは、心に余裕がなく、健康なときとは、言葉の受け取り方に差があるという点は、肝に銘じておきたいところです。
顔色が悪い、痩せた、しんどうそうなど、自分が見て感じたことをそのまま軽々しく口にしてしまうよりは、相手がつらそうだと感じたら、仕事をさりげなくフォローするなど、言葉よりも行動で示したほうが、望ましいと思います」(金森さん)
気遣いのつもりの言葉が、相手には否定的にとられかねないというのは、なかなか難しい状況ですよね。金森さんのお話にもあるように、「大丈夫ですか?」は絶対的なNGフレーズというわけではありませんが、口にする前に、自分が相手の立場だとしたら言われてどう感じるかや、言葉をかけるよりも、何か自分にできることはないか?を考えてみるのがよさそうですね。
■2:「私たちでやりますから大丈夫ですよ」「無理しなくてもいいですよ」はNG
まだ体調が万全でない人には、無理強いは禁物……という気遣いからのフレーズも、場合によっては、相手にマイナスに受け取られる恐れがあります。
「特に、長く休職していた人は、『休んでいたぶん、挽回しないと』という気負いがありますから、『あなたは仕事をしなくていい』というニュアンスの言葉をかけられると、自分が疎外されているように感じてしまうかもしれません。ひとつ目の項目で述べたことの繰り返しになりますが、言葉よりも行動でのフォローが望ましいでしょう。
また、仕事のフォローをする際、“やってあげる”という上から目線にならないよう要注意です。できれば、『手が空いているのですが、何か手伝うことありませんか?』『今から~するのですが、Aさんの分もついでに一緒にやっておいてもいいですか?』など、相手に負担を感じさせない一言をかけられるとよいですね」(金森さん)
ひとつ目の項目と同様、過度に病人扱いするのは、かえって相手のためにならないのですね。困ったときはお互い様の精神をもって、自然体でフォローするというのは、どんな相手に対しても大切なことかもしれません。
■3:「私だったら~するのに」「~したほうがいいよ」はNG
職場の人の病状に身に覚えがある……例えば、自分自身や身近な家族が同じ病気にかかった経験のある場合、「自分のときはこうだった」などと、親身にアドバイスしたくなりますよね。
また、実経験はなくても、世話好きな人ならネットや書籍などから得た情報をもとに「~病なら、こういうものを食べたほうがいいんじゃないの?」などと声をかけたくなるかもしれません。しかし、相手から求められているわけでもないのに、一方的にアドバイスするのは、ありがた迷惑になってしまう恐れがあります。
「同じ病名であっても、どのような状態であるかは人それぞれ、体質によりけりという面もありますし、治療や日常生活の過ごし方については、専門家である担当医の指示に従うのが最善です。ですから、相手から『どうしたらいい?』と相談されない限り、アドバイスは控えるほうがよいでしょう。
『私だったら~するのに』とか『~したほうがいい』などのアドバイスは、病気で辛い思いをしている人にとって『わかっていてもできない』というストレスにつながってしまう恐れがあります。一方的にアドバイスするよりも、相手が病気の辛さなどを訴えてきたときに、しっかり耳を傾けるようにしましょう。病気の人にとっては、ただ「話を聞いてもらえるだけ」でも、とても心が和らぐものです。だから、本当に聞くだけでいい。
『辛いんだね』など相手に寄り添う言葉をかけてもいいですが、もし、状況が深刻でかける言葉も見つからないような場合は、ただうなずくだけでもいいのです。一生懸命、相手の言葉を受け止めようとしていれば、その思いやりがきっと伝わりますよ」(金森さん)
職場において比較的、距離感が近い人が病気になった場合、話を聞く機会があるかもしれません。そんなときは、どんな言葉をかけるか頭を悩ますよりも、傾聴の姿勢を貫きましょう。
■4:コミュニケーションを避けるのはNG
ここまで3種のNGフレーズをお伝えしてきましたが、それよりももっとよくないのは、これかもしれません。病気や怪我の治療中の人、職場に復帰したばかりの人に対して、もっともやってはいけないのは、相手とのコミュニケーションを避けてしまうことなのです。
健康問題はデリケートなことがらなので、敢えて触れないでおこう、話題にしないようにしよう……と考える人も多いことでしょう。しかし、こうした腫れ物扱いこそが、相手にとって何よりも失礼です。職場で密にコミュニケーションをとる必要性について、金森さんは以下のように話します。
「病気の治療中の人と一緒に仕事をする場合は、その病気について職場全体でしっかり情報を共有しておく必要があります。上司の立場であれば、本人と面談を行うだけでなく、産業医とも連携をとって、本人にとってもっとも働きやすい環境をつくることを考えていくべきでしょう。
また、職場では気を張って元気そうに振る舞っていても、家ではその反動でぐったりしている、ということも往々にしてあります。できれば、ご家族の方に家での様子を聞いてみるほうがいいかもしれません。同僚や部下の立場であれば、一緒に働いていて何か気づいたことがあれば、自分だけで抱え込まずに、上司に報告するなどして、職場全体でその人をサポートしていくのが望ましいでしょう。
あとは、どんな発言がNGかというのは、話し方によってもかなり変わってきます。例えば、さきほどNGの例で挙げた『私たちでやりますから、大丈夫ですよ』なども、ニコッと明るい雰囲気で言えば、相手は悪い印象を受けるよりも、ありがたいと感じるのではないでしょうか?
ですから、こんなこと言うのはよくないのでは……と萎縮するのではなく、相手の立場を思いやりつつ積極的にコミュニケーションをとりましょう。ちなみに、病気と違って、骨折などの一般的な目に見える怪我の場合は、見て感じたことを伝えてもOKでしょう。
例えば、私自身も、骨折して松葉杖をついていたときに、ただ黙ってジロジロ見られるよりも、『金森さん、どうしたんですか?』と、率直に聞かれるほうがありがたかった、という経験があります。もちろん、何を言ってもいいというわけではありませんし、質問して相手が言葉を濁すのであれば、詮索は禁物ですが、普段通りの、何でも話しやすいオープンな雰囲気を保つことは、とても大切だといえるでしょう」(金森さん)
たしかに、松葉杖やギプスは見て見ぬふりをするほうが、不自然な感じがしますよね。目に見える怪我については、まわりが変に遠慮するよりも、言葉に配慮したうえで話題にするほうがよさそうです。
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よかれと思ってやったつもりが、実は相手に失礼だったということは多々あります。気遣いすぎたり、避けたりするのではなく、ストレートに「どう接すればいい?」「療養前と同じで大丈夫?」と聞くのがいいかもしれません。
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- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 中田綾美