パリのフォンダシオン ルイ・ヴィトンで2019年1月14日まで開催されているのが、約120点のドローイング、水彩画、油彩画を集めた「エゴン・シーレ展」と、1980年から1988年までに製作された約135作を披露する「ジャン=ミシェル・バスキア展」です。
シーレとバスキア、ふたりのアーティストの展覧会がパリで同時開催!
異例とも言える、ふたりのアーティスト展の同時開催ですが、このふたつのエキシビションを同時に体験することで、早逝した希代のアーティストふたりに共通する熱い情熱、芸術性を垣間見ることができます。


性と死を描いた20世紀初頭の天才画家シーレ
シーレは何枚も自画像を残しています。

しどけない恰好をしたブロンドの女性を描いた作品。

青い衣を持つ女性。シーレの作品には青い衣が度々登場します。

エゴン・シーレ(1890〜1918年)は、ウィーンで退廃的な世界を描いたチェコ系オーストリア人アーティストです。グスタフ・クリムト(1862〜1918年)から大きな影響を受けながらも自分の表現を追求しました。
ゴールドを多用し官能的な作風で知られるクリムトとシーレを比べると、ともに退廃的な匂いを感じます。彼らが生きた19世紀末から20世紀初頭当時の空気感を反映していたのでしょう。
シーレは性を大胆に描いていたので、当時の保守的なオーストリアではなかなか理解されず、生活には随分苦労したようで、「いずれ皆が『命ある』私の作品の偉大さに驚くことになるだろう」「近代美術は存在しない。そこにあるのはたったひとつ、永遠のアートのみである」という、悔しさと自信がにじむ言葉を残しています。時代に迎合することなく、ピュアに自己の芸術性を貫いたアーティストの言葉ですね。確かに彼の作品を今見ても古びた感じは全くなく、私たちの心に刺さってきます。
シーレは1918年、28歳の若さでスペイン風邪により亡くなりました。スペイン風邪は世界で大流行した史上初のパンデミックなのだそう。シーレの絵には死の匂いが漂いますが、まさにこの時代、世界中で死が隣り合わせだったのです。
荒廃した'80年代のニューヨークに現れたバスキア
ZOZOTOWNの前澤友作社長が昨年、123億円で購入した絵画も展示されています。

王冠はバスキアのトレードマーク。この恐竜の絵も有名ですね。

4つのパネルをつなげた大作「Grillo」。

アンディ・ウォーホルとのコラボ作品「Dos Cabezas」。

一方、ジャン=ミシェル・バスキア(1960〜1988年)が登場したのは'80年代のニューヨーク。かつてフランスの植民地だったハイチ系の移民を父にもつので、彼の名前はフランス風です。
バスキアは高校を中退したのちストリートでスプレーペインティングをして自己表現していたところ、アンディ・ウォーホルらに見出されて時代の寵児となっていきます。'80年代のニューヨークといえば民族間の諍いが絶えず治安が悪く混沌としていた一方で、さまざまなカルチャーが誕生していて、マーク・ジェイコブスらファッションデザイナーがこの時代から着想したコレクションをよく発表しています。
バスキアは主にアフリカンアメリカの伝統や暴動といったテーマからインスピレーションを得て、力強い色彩、荒々しいタッチにより、モダニズムと表現主義に回帰した作品を発表。シーレと違って、早々に成功を収めました。ところが、徐々に麻薬にのめり込み、1988 年にオーヴァードーズで死去しました。
シーレの展覧風景。壁の色が作品とよく合うモスグリーン色です。

バスキア展の方は、カラフルな作品を際立たせるように白壁で構成。

左から右へ/Jean-Michel Basquiat Untitled, 1982 Acrylic and oilstick on panel
182.8 × _244 cm. Private collection・Jean-Michel Basquiat Crowns (Peso Neto), 1981 Acrylic, oilstick, and collage on canvas 182.9 × _238.8 cm Private collection
© _Estate of Jean-Michel Basquiat Licensed by Artestar, New York © _Fondation Louis Vuitton / Marc Domage
シーレは28歳、バスキアは27歳で死去したわけですが、そういえば、カート・コバーンは27歳で、尾崎豊は26歳で、でしたね…。
若く美しいまま逝ってしまった天才たち。短い時間を駆け抜けた反抗的でロックな生き方のアーティストの強烈な才能とエネルギー、そして、それと相反するはかなさの矛盾に、後世の私たちは惹かれてしまうのかもしれません。

- TEXT :
- 安田薫子さん ライター&エディター
- WRITING :
- 安田薫子