パリのフォンダシオン ルイ・ヴィトンが2019年1月14日まで開催するのが、約120点のドローイング、水彩画、油彩画を集めた「エゴン・シーレ展」、そして、1980年から1988年までに製作された約135作を披露する「ジャン=ミシェル・バスキア展」です。

シーレとバスキア、ふたりのアーティストの展覧会がパリで同時開催!

異例とも言える、ふたりのアーティスト展の同時開催ですが、このふたつのエキシビションを同時に体験することで、早逝した希代のアーティストふたりに共通する熱い情熱、芸術性を垣間見ることができます。

Jean-Michel Basquiat Untitles ( Word on Wood), 1985 Oil and oilstick on wood 238.8×185.4cm Private collection ©Estate of Jean-Michel Basquiat Licensed by Artestar, New York.
Egon Schiele Self-Portrait with Chinese Lantern Plant, 1912 Oil and gouache on woo 32.2×39.8cm Leopold Museum, Vienna Picture: ©︎Leopold Museum, Vienne

性と死を描いた20世紀初頭の天才画家シーレ

シーレは何枚も自画像を残しています。

シーレ自画像
Egon Schiele Self-Portrait with Peacock Waistcoat, Standing, 1911 Gouache, watercolor, and black crayon on paper, mounted on cardboard 51.5×34.5cm Ernst Ploil, Vienna Picture: Courtesy of Ernst Ploil, Vienne

しどけない恰好をしたブロンドの女性を描いた作品。

ブロンドの女性を描いた作品
Egon Schiele Reclining Woman with Blonde Hair, 1914 Transparent and opaque watercolor over graphite on paper 31.7×48.5cm The Baltimore Museum of Art, Fanny B. Thalheimer Memorial Fund and Friends of Art Fund Picture: ©Mitro Hood

青い衣を持つ女性。シーレの作品には青い衣が度々登場します。

青い衣を持つ女性
Egon Schiele Standing Female Nude with Blue Cloth, 1914 Gouache, watercolor, and graphite on vellum paper 48.3 ×32.2cm Germanisches Nationalmuseum, Nuremberg Picture: ©Germanisches Nationalmuseum, Nürnberg

エゴン・シーレ(1890〜1918年)は、ウィーンで退廃的な世界を描いたチェコ系オーストリア人アーティストです。グスタフ・クリムト(1862〜1918年)から大きな影響を受けながらも自分の表現を追求しました。

ゴールドを多用し官能的な作風で知られるクリムトとシーレを比べると、ともに退廃的な匂いを感じます。彼らが生きた19世紀末から20世紀初頭当時の空気感を反映していたのでしょう。

シーレは性を大胆に描いていたので、当時の保守的なオーストリアではなかなか理解されず、生活には随分苦労したようで、「いずれ皆が『命ある』私の作品の偉大さに驚くことになるだろう」「近代美術は存在しない。そこにあるのはたったひとつ、永遠のアートのみである」という、悔しさと自信がにじむ言葉を残しています。時代に迎合することなく、ピュアに自己の芸術性を貫いたアーティストの言葉ですね。確かに彼の作品を今見ても古びた感じは全くなく、私たちの心に刺さってきます。

シーレは1918年、28歳の若さでスペイン風邪により亡くなりました。スペイン風邪は世界で大流行した史上初のパンデミックなのだそう。シーレの絵には死の匂いが漂いますが、まさにこの時代、世界中で死が隣り合わせだったのです。

荒廃した'80年代のニューヨークに現れたバスキア

ZOZOTOWNの前澤友作社長が昨年、123億円で購入した絵画も展示されています。

バスキアの作品
Jean-Michel Basquiat Untitled, 1982 Acrylic, spray paint, and oilstick on canvas 183.2 ×173 cm Yusaku Maezawa Collection, Chiba, Japan ©Estate of Jean-Michel Basquiat Licensed by Artestar, New York. Picture: Courtesy of Sotheby’s, Inc. ©2018

王冠はバスキアのトレードマーク。この恐竜の絵も有名ですね。

王冠をかぶった恐竜の絵
Jean-Michel Basquiat Untitled, Pez Dispenser, 1984 Acrylic and oilstick on canvas 183 ×122 cm Private collection. Courtesy Galerie Enrico Navarra ©Estate of Jean-Michel Basquiat Licensed by Artestar, New York. Picture: ©Tutti-image. Bertrand Huet

4つのパネルをつなげた大作「Grillo」。

4つのパネルをつなげた大作Grillo
Jean-Michel Basquiat Grillo, 1984 Acrylic, oil, paper collage, oilstick, and nails on wood 243.8×537.2×47 cm Fondation Louis Vuitton ©Estate of Jean-Michel Basquiat Licensed by Artestar, New York. Picture: ©︎Fondation Louis Vuitton / Marc Doma

アンディ・ウォーホルとのコラボ作品「Dos Cabezas」。

アンディ・ウォーホルとのコラボ作品Dos Cabezas
Jean-Michel Basquiat Dos Cabezas, 1982 Acrylic and oilstick on canvas mounted on wood supports 152.4×152.4cm Private collection ©Estate of Jean-Michel Basquiat Licensed by Artestar, New York. Picture: ©︎Robert McKeever

一方、ジャン=ミシェル・バスキア(1960〜1988年)が登場したのは'80年代のニューヨーク。かつてフランスの植民地だったハイチ系の移民を父にもつので、彼の名前はフランス風です。

バスキアは高校を中退したのちストリートでスプレーペインティングをして自己表現していたところ、アンディ・ウォーホルらに見出されて時代の寵児となっていきます。'80年代のニューヨークといえば民族間の諍いが絶えず治安が悪く混沌としていた一方で、さまざまなカルチャーが誕生していて、マーク・ジェイコブスらファッションデザイナーがこの時代から着想したコレクションをよく発表しています。

バスキアは主にアフリカンアメリカの伝統や暴動といったテーマからインスピレーションを得て、力強い色彩、荒々しいタッチにより、モダニズムと表現主義に回帰した作品を発表。シーレと違って、早々に成功を収めました。ところが、徐々に麻薬にのめり込み、1988 年にオーヴァードーズで死去しました。

シーレの展覧風景。壁の色が作品とよく合うモスグリーン色です。

シーレの展覧風景
Installation view of the « Egon Schiele », gallery 1 (level -1), Fondation Louis Vuitton, Paris, from 3 October 2018 to 14 January 2019. © _Fondation Louis Vuitton / Marc Domage

バスキア展の方は、カラフルな作品を際立たせるように白壁で構成。

バスキア展の展示風景
Installation view of the « Jean- Michel Basquiat » exhibition, gallery 2 (level -1), Fondation Louis Vuitton, Paris, from 3 October 2018 to 14 January 2019.
左から右へ/Jean-Michel Basquiat  Untitled, 1982  Acrylic and  oilstick on panel
182.8 × _244 cm. Private collection・Jean-Michel Basquiat Crowns (Peso Neto), 1981 Acrylic, oilstick, and collage on canvas 182.9 × _238.8 cm Private collection 
© _Estate of Jean-Michel Basquiat Licensed by Artestar, New York © _Fondation Louis Vuitton / Marc Domage

シーレは28歳、バスキアは27歳で死去したわけですが、そういえば、カート・コバーンは27歳で、尾崎豊は26歳で、でしたね…。

若く美しいまま逝ってしまった天才たち。短い時間を駆け抜けた反抗的でロックな生き方のアーティストの強烈な才能とエネルギー、そして、それと相反するはかなさの矛盾に、後世の私たちは惹かれてしまうのかもしれません。

この記事の執筆者
某女性誌編集者を経て2003年に渡仏。東京とパリを行き来しながら、食、旅、デザイン、モード、ビューティなどの広い分野を手掛ける。趣味は“料理”と“健康”と“ワイン”。2013年南仏プロヴァンスのシャンブル・ドットのインテリアと暮らし方を取り上げた『憧れのプロヴァンス流インテリアスタイル』(講談社刊)の著者として、2016年から年1回、英語版東京シティガイドブック『Tokyo Now』(igrecca inc.刊)を主幹として上梓。
WRITING :
安田薫子