まるで古い映画に出てくるかのような内装の店内
千代田区飯田橋といえば、ビジネス街でありながら西に行けば神楽坂がある、紳士の仕事場であり、遊び場でもある街。しかし今回おじゃまする『スナック紅』は九段下に向かう目白通りから少し入ったところにある。
昭和39年のオープン以来手を加えていない店舗は、渋いの一言では片付かない味のある外観だ。
店内に入ると、昭和の映画の登場人物になったかのような錯覚を覚えるほどのオールドスタイル。今日日なかなかお目にかかれない、使い込まれた真っ赤なカウンターに人知れず興奮を覚える。
今宵の美女・井上さんは、さっそく洋子ママから一献。
洋子ママは『スナック紅』の2代目ママ。といっても、昭和48年からカウンターに立っているので、そのキャリアは45年の大ベテランだ。
「スナックのママをするのも初めてだったし、お酒も飲めないから最初の3年は怒られてばっかりでしたよ。でも今では飯田橋のスナックで一番の古株になったし、死ぬまでやるしかないわね」 と洋子ママは笑いながら話す。
手塚治虫と伝説の編集者が打ち合わせをした電話
この店の歴史を感じさせるのが、奥のソファ席そばの壁面だ。
ここは秋田書店に近く、歴代の漫画編集者や漫画家が通った痕跡が至るところに残されている。『週刊少年チャンピオン』の部数を6倍以上に伸ばし、黄金時代を築いた2代目編集長を務めた壁村耐三氏という伝説の漫画編集者がいた。
彼は当時人気が低迷していた手塚治虫氏に『ブラック・ジャック』を描かせ、担当もしていた。手塚氏をはじめとする漫画家の原稿を『スナック紅』で酒を飲みながら待つのが習慣で、漫画家への連絡もここにある公衆電話からしていたという。
洋子ママは話す。
「この電話で壁村さんと手塚先生がよく打ち合わせをしていてね。今、使う人はほとんどいないけれど、そのまま残しておかないと」
この電話は歴史的な遺産だ。そんな貴重なもののそばで、洋子ママの思い出話を肴に飲めるのも、この店が長く愛されている秘訣かもしれない。
後編では井上さんの素顔にも迫ろう。
【スナック紅】
問い合わせ先
- スナック紅 TEL:03-3264-1998
- 住所:東京都千代田区飯田橋4-1-2
営業時間:19:00〜深夜
定休日:土・日・祝 メニュー:瓶ビール600円、焼酎ボトルキープ3,5000円〜、ウイスキーボトルキープ4,000円〜 セット料金はボトルキープなし1,000円、ボトルキープがある場合は水と氷を含む800円
掲載商品問い合わせ先
※後編は11月18日公開予定
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- TEXT :
- 津島千佳 ライター・エディター
- PHOTO :
- 小倉雄一郎