いくつになっても、元気で健康な脳でいたいもの。そのために習慣づけたいことを、精神科医の保坂隆先生に教えていただきました。

前回の朝習慣に引き続き、今回は夜習慣。夜は人によって行動の範囲が広いもの。そのため、それぞれのシーンに合わせて脳を活性化させる方法をお伝えしていきます。

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簡単にできて続けやすい「脳を老化させない夜習慣」5選

■1:残業中は足つぼを刺激する

足の裏のツボをマッサージ
足裏には、老化防止や疲労回復などのツボがたくさん存在しています。

残業などで勤務時間が長くなると、集中力が続かなくなることがありますよね。これは実は脳が疲れ始めた証拠なんだとか。そのまま仕事を続けても効率は落ちる一方。本当はここで仕事を切り上げるのが最適なのですが、スケジュールなどでそうもいかない場合も多い……。

そんなときは足の裏を刺激してみるといいそう。足の裏を刺激することによってどんなメリットがあるのでしょうか?

「日本人は本来裸足の生活を好む人種です。日本の家は海外と違って、靴を脱いで上がるようにできていますよね。日本人の平均寿命が長いのはそういう理由もあるのです。しかし、日本人の生活が欧米化するにつれて裸足の機会が減っていて、足の裏への刺激が減っています。

足の裏には体に良いツボがたくさんあります。その中でも、足の裏の土踏まずの真ん中あたりにある『勇泉(ゆうせん)』というツボは、老化防止や疲労回復、集中力の向上に効くと言われています。そして逆にこのツボが未発達だと脳が衰えやすくなります。

ツボの刺激には足踏み健康グッズが最適ですが、ない場合には裸足になって足踏みをしたり、親指やボールペンのキャップなどで『湧泉』のツボを押してみてください。そうすることで脳の疲れがとれて頭がスッキリした感じになります。疲れ切った脳が再び動き始める感覚を実感できるでしょう」(保坂先生)

仕事の効率を上げて、少しでも早く帰るために足ツボを定期的に刺激する習慣をつけてみてください。

■2:仕事はあえて途中で終わらせて帰る

仕事はたとえ残業になったとしても、翌日に残さないため、キリがいいところまでは頑張ってしまっていませんか? 実はこれが脳には悪くはないものの、良い効果も与えていないそう。

脳はキリのいいところで仕事を終えるより、中途半端なところで終えたほうが仕事の内容は鮮明に残るそうです。これは実際に確かな結果があると保坂先生は言います。

「心理学者のツァイガルニクが発見した『ツァイガルニク効果』というものがあります。これは被験者にやらせていたある作業を途中で強制的に中断したところ、多くの人が完了した作業よりも記憶に残っていた効果のことを指します。さらに全員に自由時間を与えたところ、8割以上の被験者が中断させられた作業を再開しました。

このことから、中途半端で終わらせたほうが、仕事の内容が残ると同時に、『早く続きがやりたい』というやる気に満ちた気持ちで翌日を迎えられるということになります。記憶に残りやすいということは脳の神経細胞ネットワークが強化されやすいわけですから、脳の働きを高めることにもつながります」(保坂先生)

ひとつ注意が必要なのは、このツァイガルニク効果はあまり時間が経ち過ぎると弱くなる性質があるとのこと。仕事の再開までに数週間も開けてしまうと意味がなくなるので気をつけましょう。

■3:冷蔵庫の残りもので自炊する

冷蔵庫の残り物で自炊。
冷蔵庫の残り物からメニューを考えると、右脳を刺激してくれます。

家族がいる人は料理をすることが習慣化されている人も多いと思いますが、どうしてもひとりだと外食やコンビニで軽く済ますことも増えてきますよね。外食でも野菜や魚をたくさん摂れればいいのですが、どうも栄養は偏りがち。「栄養の偏った食事ばかりだと脳全体が衰えてしまう」と保坂先生は警告を鳴らします。

脳が活性化する食事とは果たしてどのようなものなのか。保坂先生がオススメしているのは、食事ではなく、調理方法だそうです。

「脳を活性化させるには、自炊をしてみてください。自炊は実にクリエイティブな作業で、右利きの人の多くが使わない右脳(画像処理や空間処理など総合判断を処理するところ。左脳は言語や計算など論理的なものを処理。仕事の多くは左脳で処理されている)が活性化されます。

そして特にオススメしたいのが、おかずをつくるときはできるだけ冷蔵庫にある残り物を使うようにすること。この材料で何ができるのか考えながらやることで右脳はグングン働きます。

料理に慣れていない人は、レシピを文字だけで見ると左脳が活性化してしまうので、右脳を刺激するためには画像がセットになったものを見ながら覚えるといいでしょう」

毎日は自炊するのが厳しい人はせめて3日に1回くらいからでもいいとのこと。さらに楽しんでやるとこが大切だそうです。ぜひ画像付きのレシピを考えながら自炊を楽しんでみてください。

■4:手のひらで押してやや硬いと思うマットレスで寝る

寝具の選び方
マットレスや敷き布団はやわらかすぎても硬すぎてもダメ!

実は脳の活動度は寝ているときでも大きな影響を受けることを知っていますか? そして、その大きな影響の要因は寝具にあるそう。寝具選びは実に大切なのです。

では、どのような基準で選べばいいのでしょうか?

「ふんわりと体が沈むようなやわらかなマットレスや敷き布団は寝心地がいいように感じますが、実際はまったくの逆! やわらかすぎるとお尻や肩など思い部分が大きく沈み込んで体がVの字になってしまいます。それでは体圧の分散が悪くなり、不自然な体勢のために筋肉の緊張が続き、疲労が解消しにくくなるのです。

だからといって、硬くて弾力性のない布団も良くありません。硬いものは体の節々を痛めつけ、安眠できません。

マットレスや敷き布団は手のひらで押してやや硬いと思うものを選びましょう。掛け布団は一般的に心地いいとされている1.2~1.4キロ程度のものを選ぶといいでしょう」(保坂先生)

そして、一番大切なものは枕だと保坂先生は言います。

「枕には好みもありますが、専門家の研究では、6~9センチの高さの枕が最も早く脳が安定した脳波を出すという結果が出ています。この高さは、寝た時に首の角度が10度前後になり、脳への負担が最も軽いとされています」(保坂先生)

ここまでしても安眠できない人はラベンダーの香りがするドライフラワーやアロマオイルなどを枕元に置いておくといいそう。ラベンダーはリラックス効果があるため、心地よく眠ることができますよ。

■5:眠れない夜はお酒に頼らずに布団の中で過ごす

ただ、いくら寝具がピッタリだったとしても、眠れない、または浅い眠りが続くようでは疲れが取れません。こんなとき、アルコールに頼ってしまう人も多いでしょう。しかし、お酒は逆効果になることがあると保坂先生は警告を鳴らします。

「寝酒を習慣させると、だんだん脳に耐性がつき、飲む量がどんどん増えていきます。その結果、依存症になる可能性もあるのです。また、睡眠中にお酒の効果が切れると急に眠りが浅くなり、夜中に何度も目覚めて、睡眠の質も下がってしまいます」(保坂先生)

では、眠れないときはどのようにしたらいいのでしょうか?

「眠れないときは、無理に眠ろうとしないことです。布団の中で読書したり、環境音楽などを小さな音で聞いてリラックスさせましょう。

眠り下手な人がやりがちなミスは部屋を真っ暗にすること。完全な暗闇にひとりで置かれると人間は強い不安を感じて脳波が大きく乱れます。

真っ暗にするのではなく、どこかから薄明かりが漏れてくる程度の明るさにしましょう。隣の部屋の電気を付けておくとか、部屋に豆電球をつけておくなどもいいでしょう。ただし、薄明かりになるからといって無音にしたテレビを付けっぱなし状態にするのはオススメできません」(保坂先生)

研究では、どんなに眠れない人でも3日(50時間以上)連続で起きていることは不可能とのこと。自分は眠れない人と思い込むのはやめて、リラックスすることを心掛けてみてください。

夜の過ごし方は、翌朝の脳の活性度にもつながってきます。保坂先生は、「睡眠は最初の1時間半~3時間が質の良い睡眠時間になるので、この時間に睡眠を妨げられないようにしましょう」とのアドバイスをいただきました。

職場や自宅で少しずつの意識から始めることができる夜習慣。毎日続けることで、1年後、5年後、10年後と効果は大きくなっていくもの。いつまでも若々しく元気な脳でいるために、今日からぜひ始めてみてください。

保坂 隆さん
精神科医
(ほさか たかし)慶應義塾大学医学部を卒業後、同大学の精神神経科に入局。東海大学医学部教授、聖路加国際病院精神腫瘍科部長などを経て、現在は保坂サイコオンコロジー・クリニック院長、聖路加国際病院・診療教育アドバイザーとして活躍している。多くの著者がり、『1日1分!生涯現役の脳をつくる方法』(三笠書房)が発売中。
保坂サイコオンコロジー・クリニック
この記事の執筆者
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WRITING :
藤野綾子