大晦日の夜に食べるものといえば、やはり年越し蕎麦! 本来、蕎麦は庶民の食べ物で、あまり堅苦しいマナーについてとやかく言うのは、かえって無粋というもの。

とはいえ、人から見て不快だったり、配慮に欠けたりする食べ方を知らずにしていたら恥ずかしいですよね。そこで、今回はマナー講師の尾形圭子さんから、年越し蕎麦を食べるときのNGマナーについて教えていただきました。

大晦日に温かい蕎麦を食べるときの「NGマナー」7選

寒い時期には、熱々のかけそばが恋しくなるもの。というわけで、まずは温かい蕎麦を食べるときのNGマナーから。

■1:背中を丸めて食べるのはNG

丼をテーブルに置いたまま食べると、犬食いのような姿勢になりやすいので要注意です。

「和食では、手で持てるサイズの器であれば持って食べるのがマナーです。ただ、かけそばでは丼が大きかったり熱かったりして持ち上げにくいことが多いので、テーブルに置いたままでも構いません。ただ、食事中はできるだけ背筋を伸ばすことを意識しましょう」(尾形さん)

おいしいお蕎麦に食べるのに夢中になって、ついつい前かがみになってしまわないように!

■2:麺をすすらず途中で噛み切るのはNG

噛み切らずすすって食べよう
噛み切らずすすって食べよう

音が出たり、汁が飛んだりするのを恐れて、麺をうまくすすれない人は少なくありません。ただ、蕎麦は、基本的には麺を途中で噛み切らず、すすったほうが望ましいようです。

「途中で噛み切るのは日本の食文化、蕎麦通としても、マナーとしてもNGです。いっぺんにたくさん食べようとすると、強くすする必要があり、汁がはねてしまう恐れがあるので、6本程度を静かにすするようにしましょう。どうしてもすするのが苦手な人は、お玉やレンゲを使いながら食べてもよいかと思います。

ただ、蕎麦の食べ方についてはこだわる人もいて、すすらない方法で食べるとジロジロ見られたり、何か言われたりすることもあるかもしれません。ですから、お店で誰かと一緒の場合は『私、うまくすすれないんですよ』と予め宣言してしまってもよいでしょう」(尾形さん)

香りを味わうという点でも、蕎麦はすすって食べるほうが粋といえば粋。ただ、冒頭でも述べたように、蕎麦はもともと庶民の食べ物で“絶対にこう食べるのが正解”という堅苦しいマナーがあるわけではありません。食べ方を過度に気にするより、周囲とのコミュニケーションを大切にしましょう。

■3:麺を冷まそうとして強く息を吹きかけるのはNG

熱々を食べるときの注意点は?
熱々を食べるときの注意点は?

温かい蕎麦を食べる際、猫舌の人はどのような点に注意すればよいのでしょうか?

「熱いものに息を吹きかけて冷ますのは、海外ではNGですが、日本ではOKです。とはいえ、あまり強く吹きかけると、汁が飛んで周りに迷惑になる恐れも。私の場合、上唇を伏せがちにして、麺の上から静かにフーフーするようにしています」(尾形さん)

真正面に強く息を吹きかけるよりも、上から下に静かに吹くほうが、見た目的にもエレガントですよね。

■4:麺を冷ますために高く持ち上げるのはNG

麺を冷ましたいときには、もうひとつ気をつけるべき点があるようです。

「麺が熱くて食べにくい場合、麺を上下させて冷ます方法もありますが、口より高い位置に持ち上げるのは“上げ箸”といって、箸使いのタブーのひとつです。高く持ち上げると汁がはねやすくもなるので、上げ箸はやらないようにしましょう」(尾形さん)

ちなみに、尾形さんによれば、麺が熱くて食べにくい場合も、おたまやレンゲを使うとよいとのこと。もし、お店でこれらが添えられていない場合、「猫舌なのでおたまかレンゲをください」とお願いしましょう。

■5:天ぷらを食べかけの状態で長く残しておくのはNG

天ぷらの正しい食べ方は?
天ぷらの正しい食べ方は?

温かい蕎麦には、海老天やかきあげ天、かまぼこなどのトッピングが合いますが、トッピングの食べ方ではどのような点に注意すればよいのでしょうか? 特に、ひと口で食べきれない具の扱いが気になりますが……。

「麺とつゆ、トッピングはバランスよく食べるのが原則です。また、天ぷらをひと口で食べきれない場合は、食べ口を人に見せないようにしながら、なるべく2~3口で食べきるようにしましょう。食べかけのものを丼に戻すの好ましくありませんし、そのまま放置していると衣がはがれてきて散乱し、つゆが見苦しくなる原因にもなります。衣がはがれたら、すくっていただくようにしましょう」(尾形さん)

先にすべてトッピングだけ食べてしまうのもお行儀のよいものではありませんが、天ぷら類は食べ惜しみすると衣がはがれてしまうので、タイミングよく食べるようにしましょう。

■6:海老天の尾を無造作に放置するのはNG

蕎麦の海老天の尾を食べ残すのはマナー違反なのでしょうか? もしも、食べ残した場合、どのように扱うのが正解!?

「海老のしっぽにはカルシウムが含まれているものの、吸収されにくいともいわれており、無理に食べる必要はないと思います。食べ残した尾は、もし薬味の小皿があれば、噛み口を自分のほうに向けてそこに置きましょう。もし小皿がなければ、丼の中でかまいません」(尾形さん)

海老天の尾は無理に食べなくてもOK。ただし、噛み口が人に見えないように配慮しましょう。

■7:丼の上に箸を置く(渡し箸)のはNG

渡し箸は代表的な嫌い箸のひとつ
渡し箸は代表的な嫌い箸のひとつ

食事中に水やお茶を飲むとき、食べ終わったときのお箸の扱いはどうすればよいのでしょうか?

「箸置きがない場合に、丼の上に置いてしまいがちですが、これは“渡し箸”というNGマナーに当たります。箸置きがない場合、箸袋で箸置きをつくってそこに置くようにします。箸がまとめてケースに入っているお店などで、箸袋もない場合は、薬味が入っている小皿に箸先をかけるとよいでしょう」(尾形さん)

箸は箸置きに戻すのが原則ですが、お店の状況に応じて適切に振る舞いましょう。

大晦日に冷たい蕎麦を食べるときの「NGマナー」3選

季節を問わず、もりそば派な人もいるはず。途中で噛み切るのはNGなど、これまでにお伝えした以外では、冷たい蕎麦では下記の点に注意しましょう。

■8:蕎麦をせいろの端から取るのはNG

蕎麦をきれいに取るには?
蕎麦をきれいに取るには?

もりそばを食べる際、蕎麦が絡まって上手にとれないのは、箸の入れ方に問題があるのかもしれません。

「蕎麦はせいろ(ざる)の中心から取ればきれいに取れると思います。大抵のお店では、そのように盛り付けをしているので、端からではなく中心から取るようにしましょう」(尾形さん)

温かい蕎麦を食べるときと同様、すすりやすい量を取ることもお忘れなく!

■9:麺をつゆにつけすぎるのはNG

適度につけて蕎麦の香りを楽しむ!
適度につけて蕎麦の香りを楽しむ!

もりそばは麺をつゆにつけながら食べますが、つけすぎると蕎麦本来の風味が失われてしまうので、通の食べ方ではありません。尾形さんは、「特に、最初の2~3本はつゆにつけず、麺だけをいただくようにしましょう」と言います。

また、お店によってつゆの濃さに違いがあるので、最初に麺だけを味わったあと、つゆの味見もすること。濃いつゆには麺を少しだけ、淡いつゆには多めにつけるのがおいしく味わうコツです。

■10:薬味をいっぺんにつゆに投入するのはNG

薬味は少しずつ楽しもう!
薬味は少しずつ楽しもう!

もりそばでは、大根おろし、ねぎ、わさび、しょうが、しょうがなどの薬味で、味の変化を楽しむのも醍醐味のひとつ。それらをお猪口にいっぺんに投入してしまうと、味音痴だと思われてしまうかも……。

「薬味と蕎麦の調和と変化を楽しみたいときは、薬味をつゆに入れるのではなく、麺に乗せて食べるのがおすすめです。とりわけ、本わさびなどをつゆに入れると、つゆの味そのものが変わってしまう恐れがあります。

わさびを添えたのは、つゆの鰹節の生臭さを消すためが由来との説もありますので、まずは一度試してみて、あとは自由に楽しんでいただくのがおすすめです」(尾形さん)

こだわりの蕎麦店であれば、おいしい食べ方についてお店の人がレクチャーしてくれたり、テーブルに説明書きがあったりすることも多いので、薬味の扱いもそれに従うのがよいかもしれませんね。

最後に、尾形さんから、年越し蕎麦を味わう上でのワンポイントアドバイスをいただきました。

「蕎麦は、“災厄を断ち切る”という意味もありますが、ツルツル(鶴)、噛め噛め(亀)と掛けてめでたい、ともいわれています。このため、地方によっては蕎麦を大晦日の夜ではなく、1月1日に食べることもあるようです。

いずれにせよ、家族全員で食卓を囲み、この1年のいろいろな出来事を話しながら健康で新しい年を迎えられることに感謝する時間とするとよいと思います」(尾形さん)

今回ご紹介したマナーを守りつつ年越し蕎麦をおいしく味わい、よりハッピーな2019年を!

尾形圭子さん
ヒューマンディスカバリー代表取締役、戦略的マナー講師、僧侶
(おがた けいこ)航空会社で研修やOJTのノウハウ、接遇の精神と技術を学び身につける。その後、大手書店、外資系化粧品会社などで、接客や人材育成に携わる。2000年に独立。2005年に会社設立。ショッピングセンターから百貨店、不動産会社や病院、官公庁など多様な業種で、ビジネスマナーを始めとして、電話応対・クレーム対応などの研修を行っている。著書は『会社では教えてもらえない 結果を出す人のビジネスマナーのキホン』など30冊以上。ラジオ・テレビ出演、雑誌などへの寄稿も多数。
ヒューマンディスカバリー
この記事の執筆者
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WRITING :
中田綾美