美智子皇后のファッションから学んだことは大きいのです
「お洒落の真髄」とは相手を想う気持ちを表すこと
2019年、日本は「平成」が終わり新しい時代の幕開けを経験します。天皇陛下が生前退位の意向を示され、4月30日をもって退位されることが決まっているからです。そして翌日の5月1日に皇太子殿下が即位され、「平成」が改元されるのです。天皇陛下が自ら退位されるのは約200年ぶりということで、私たちはこれまでに経験したことのない「時の流れ」を実感することになるわけです。
つねに寄り添い、仲睦まじく公務にあたられる天皇皇后両陛下の姿は、まさに日本のベストカップルともいえます。さりげなく手をつながれたり、美智子さまがそっと陛下の腕に手を添える場面には「こんな風に歳を重ねて労わりあう夫婦でありたい」と思わせられました。
とりわけ美智子さまの気遣いあふれる振る舞いには、気品と優しさが香り立つようで、いつも目が釘付けになりました。大正生まれの母は、週末の朝早くにテレビで放送される皇室番組を欠かさず観て、画面に映し出される美智子さまの姿にため息まじりの賛辞を送っていたものです。母にとっての美智子さまは、まぎれもなく憧れの女性像の頂点であり、ファッションアイコンでした。
わが家にはそんな母の美智子さま崇拝の痕跡がいたるところにありました。皇太子さまが生まれて、それまでの皇室の慣習をくつがえして、乳母ではなくご自分で育児にあたられた美智子さまが、いわゆる「なるちゃん憲法」という子育てのルールを基本にしていると聞けば、わが家にもさっそく「なるちゃん憲法」が貼り出されました。
また、美智子さまがまだ小さい男の子だった皇太子さまにバスケットを持たせれば、わが家にもすかさず同じようなバスケットが導入されて、私の外出のお供になりました。美智子さまが自由学園でつくられている、ふわふわのタオル素材でできたぬいぐるみを買われたと聞けば、すぐに自由学園に足を運んで、そのぬいぐるみを手に入れるという具合でした。
でも、母が最もお手本にしたのは美智子さまのファッションでした。スーツと共布で仕立てた帽子をかぶられた美智子さまを(おそれ多くも)すぐに真似て、自分もスーツを仕立て、同じ布で帽子をつくって、デパートに行くにも、なぜかミカン狩りに出かけるにもそんなお洒落をして意気揚々としていたものです。
そんな美智子さまのファッションは実は美しいだけでなく、さまざまな気遣いがちりばめられていることをご存じでしょうか。
外国をご訪問される場合は、必ず訪問国の国旗の色を取り入れたスーツやケープをまとい、手にはその国の花をあしらったブーケを持たれるのです。あの美智子さまの頭に載せるトーク帽も、つばの広い帽子では相手の様子がよく見えないことに加えて、相手や周囲からも美智子さまのお顔がよく見えないのではという気遣いからだそうです。
被災地を訪れるときは、落ち着いた色目の、かがんでもいいように必ずパンツスタイルを選ばれ、子供や赤ちゃんと触れ合うときには、縫い目が当たらないようにと縫製にも気を配られ、生地もやわらかいものを選ばれると聞きました。
そこでよく見てみると、大きなボタンがついているものなどは避けられているのがわかります。そんな気遣いが随所にあってなお、ファッションとして極めて洗練された印象を受けるのは、訪問される場所への深い理解と、お見舞いの気持ちがにじみ出る立ち居振る舞いの美しさにあるのだと思います。
どんなに素敵なファッションであっても着ている人間の動きや仕草、表情によってその輝きはまったく違ったものになります。相手を想う気持ちを表すのがお洒落の真髄なのだと教えてくれたのが、美智子さまだと思うのです。
※本記事は2018年12月7日時点での情報です。
- TEXT :
- 安藤優子さん キャスター・ジャーナリスト
- BY :
- 『Precious1月号』小学館、2019年
- EDIT :
- 本庄真穂