パリのヴァンドーム広場には高級ジュエラーが軒を連ねていますが、ブシュロンがこの広場に最初にブティックをオープンしたメゾンです。

創業者のフレデリック・ブシュロンは1858年に開業し、パレ・ロワイヤルに店を構えていたのですが、1717年にオルレアン公フィリップ2世の第一侍従だった貴族シャルル・ド・ノセのためにつくられたヴァンドーム広場のノセ邸に1893年に移転しました。

邸宅は300年間、いろんな人の手に渡り、その都度、改築されていたため、原型を留めていなかったそうですが、ブシュロン設立160周年事業として、ブシュロンの親会社ケリングがノセ邸を元の姿に戻すことに。

歴史的建築物の専門建築家ミシェル・グタールが過去のドキュメントを検証し、選りすぐりの職人を選出して元の姿を蘇らせました。さらに、インテリアを担当したピエール=イヴ・ロションがこの場所のために特別にデザインしたモダンな家具やアンティークを集め、店に配置。店内は伝統と現代性が共存する空間が実現されています。

このお披露目のため、2019年1月20日にソワレが開催されました。

時を経て蘇る、伝統とモダンが共存するブシュロン パリ旗艦店

オートクチュール期間中の2019年1月20日夜、オープニングパーティーが開催されました。
オートクチュール期間中の2019年1月20日夜、オープニングパーティーが開催されました。
ブティック入り口の地面に明かりが灯されて、ゲストを誘います。
ブティック入り口の地面に明かりが灯されて、ゲストを誘います。
パーティーのドレスコードは「ブラックタイ」。女性はフルレングスのドレスでパーティーを楽しんでいます。
パーティーのドレスコードは「ブラックタイ」。女性はフルレングスのドレスでパーティーを楽しんでいます。
この旗艦店の限定ブレスレット。8角形のヴァンドーム広場をかたどり、ダイヤモンドが散りばめられています。
この旗艦店の限定ブレスレット。8角形のヴァンドーム広場をかたどり、ダイヤモンドが散りばめられています。
大人気シンガー、アンジェルによるプライベート・コンサートが開催されました。
大人気シンガー、アンジェルによるプライベート・コンサートが開催されました。
創業者フレデリック・ブシュロン氏の肖像画。ウインクしたり、手前を猫が見きったりする楽しいデジタル肖像画。
創業者フレデリック・ブシュロン氏の肖像画。ウインクしたり、手前を猫が見きったりする楽しいデジタル肖像画。

3階には顧客が宿泊できる“アパルトマン”を設置

この店のコンセプトは“私邸”です。これまでになかったジュエリー体験が待っているのです。この全く新しい本店について、ブシュロンCEOのエレーヌ・プリ=デュケンさんにお話を伺いました。

ブシュロンCEO エレーヌ・プリ=デュケンさん
ブシュロンCEO エレーヌ・プリ=デュケンさん

「ヴァンドーム広場で最も美しいこのノセ邸は代々受け継がれてきたものです。この歴史の価値を際立たせることに最初からフィーチャーしてコンセプトを考えました。

そして、ケリングの社長フランソワ=アンリ・ピノーに最初、意思を確認しました。普通にブティックとして改修するか、もしくは工事は大掛かりになるが歴史的遺物を改修するか、です。

当初から彼は歴史的遺物を改修する案に同意してくれました。この類を見ない改修はひとりの建築家ではできません。修復は大家のミシェル・グタールに依頼しました。

一方で、本店のコンセプトは私邸です。お客様が足を踏み入れたときに、家族の家のように、あるいは友人として迎えられたかのように温かみを感じさせたいと思ったのです。そこで、人々を最も良い状態で迎え入れるのに長けたホテル建築の専門家であるピエール=イヴ・ロションに内装を依頼しました」

ロションはオリジナル家具をデザインするだけではなく、古物商で歴史を感じさせるアンティーク家具やオブジェを探しました。ふたつは見事に調和し、ラグジュアリーでありながら店に懐かしさ、親しみやすさを漂わせています。

「家族の家のようにひと部屋ごとに内装が異なりますし、ブティックであってもブティックっぽく見せたくなかったので、透明な什器を採用しています。サロンにまず入ると、すぐにブティックのようには感じません。

さらに、テーブルを丸型にしました。ジュエリーの売買は“取引”ですのでジュエラーは店で伝統的に長方形のテーブルを採用してきました。でも、この店は“家族の家”ですから会話やコーヒーを楽しむ丸型のテーブルにしたのです」

私邸というコンセプトの極みは、ゲストが宿泊できるアパルトマンをつくることでした。

「フランソワ=アンリに“世界のどこにも、友人を迎えるための寝室がない家族の家はありません。このアパルトマンにもつくりましょう”と言いました。彼は目を丸くしていましたよ」

店の3階には、書斎、ダイニング、サロン、ベッドルーム、バスルームが本当に設置。書斎のシノワズリーの壁紙も修復され、棚にはブシュロンのオーダー目録などが並んでいます。

ピエール=イヴ・ロション デザインのアパルトマン
ピエール=イヴ・ロション デザインのアパルトマン

このコンセプトにちなんで、お披露目ソワレの際に招待客にプレゼントされたのは「Cluedo」というボードゲームでした。舞台がまさにこのアパルトマンになっているのです。

招待客にプレゼントされたボードゲーム「Cluedo」
招待客にプレゼントされたボードゲーム「Cluedo」

サロン、寝室など、まさにこのアパルトマンがゲームの舞台になっています。

もちろん、ブシュロンがホテル業に乗り出すわけではありません。実際の宿泊では同じヴァンドーム広場にあるオテル・リッツがコラボレーションします。

「これはスペシャル・オーダーをするお客様をお迎えするアパルトマンです。スペシャル・オーダーには決めるまで時間がかかりますからね。時間をかけて考えるためにゆっくりしていただくというわけなのです。ここは単なるブティックではありません。デザインから製造、販売まで一貫して行っている特別な場所ですから、その場所を実際に体験していただきたいのです」

ほかにも、例えば、ブティックの奥にあるガラス張りの部屋はジャルダン・ディヴェール(温室)のような造りで、鳥のさえずりがBGMです。これはエレーヌさんがノルマンディに所有する別荘の庭で録音してきた鳥のさえずりだそうです。

また、ブティックの随所に、フランソワ=アンリ・ピノー財団所蔵の美術品が飾られていて、お店を回遊しながら美術鑑賞ができてしまうのも魅力です。

ブティック1階の奥にあるジャルダン・ディヴェール。鳥かごの形のショーケースも特注。
ブティック1階の奥にあるジャルダン・ディヴェール。鳥かごの形のショーケースも特注。

素晴らしいアイディアをCEOとして実現したエレーヌさん。エグゼクティブ・ビジネスウーマンであり、妻であり母である彼女自身にも興味がつきません。どうしたら彼女のように力を発揮してビジネスで成功し、CEOに上りつめることができるのでしょうか。

「女性たちの問題は自信がないということだと思います。女性が自分でブレーキをかけているのです。私は自分の価値を高めていくためのチャンスと自分のしていることに絶対の自信がありましたし、謙虚さ、誠意も大切にしています。

男性から妨害されたこともありません。いつも男性のメンターが助けてくれました。そのメンターとは私が以前働いていたカルティエの元社長です。彼はビジネス上の育ての親のようなものです。女性が自分自身に自信をもちづらく、権力のあるポストに就くのは正当ではないのではないかなど考えてしまうのは、伝統的な家庭のしつけが影響しているのでしょう。女性は自分を解き放たなければなりません」

メンターが助けてくれたとのことですが、ではどうしたらそのメンターを見つけられるのでしょうか。

「私が見つけたのではなくて、彼が私を選んだのです。彼が私をリクルートし、17年間、一緒に働き、影に日向に助けてくれました。どうして女性と仕事をするのが好きなのか、と彼に尋ねたことがありました。彼は『女性は嘘をつかないから』と答えました。私は間違ったとき、知らなかったときは正直に言って解決策を申し出る。これは私の価値の一部です。それを信頼してくれたのです」

誠意が何より強みとなり、「この人ならすべて任せられる」という信頼を勝ち得たわけですね。いわば人間力の勝利。示唆に富んだお話です。

エレーヌさんは母でもあるわけですが、どうやって責任あるポストと私生活を両立させているのかも気になります。

「私は3人姉妹で、同じ環境で育ちながらも、姉妹は主婦で、私はビジネスウーマンの道を選びましたが、主婦についてジャッジするつもりはありません。子供と一緒にいる時間は専業主婦よりも短いでしょうが、長い時間をなんとなく一緒に過ごすのではなく、より質のいい時間を子供と過ごすようにしています」

私生活が充実してこそ、ビジネス界でも存分に活躍できるというものなのでしょう。ブシュロン本店のコンセプトである「家族の家」というのも、エレーヌさん自身の幸せな家族が影響していたのかもしれません。

ブシュロンのアパルトマンに宿泊した人はまだいないのですが、お声がけした候補がすでにいらっしゃるそうです。最初に宿泊するエグゼクティヴなゲストは誰なのでしょうね。

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この記事の執筆者
某女性誌編集者を経て2003年に渡仏。東京とパリを行き来しながら、食、旅、デザイン、モード、ビューティなどの広い分野を手掛ける。趣味は“料理”と“健康”と“ワイン”。2013年南仏プロヴァンスのシャンブル・ドットのインテリアと暮らし方を取り上げた『憧れのプロヴァンス流インテリアスタイル』(講談社刊)の著者として、2016年から年1回、英語版東京シティガイドブック『Tokyo Now』(igrecca inc.刊)を主幹として上梓。