里山で暮らす人々から学んだ「足るを知る」豊かさ
森や川で体を動かし、畑を耕しながら地域の人の輪に入って学び、四季折々の地の恵みを食べる。松山ケンイチさんが妻で女優の小雪さんと3人のお子さんと共に移り住んだ田舎での暮らしは、温かくも力強い。
「僕自身が田舎育ち。将来、子供たちがどんな場所にいても自分らしく生きていく力を育めたらという思いがありました。当初は半年ごとに家族一緒に拠点を移す予定でしたが、最近は子供たちがすっかり田舎を気に入り、夫婦で仕事を調整しつつ、ドラマや映画の撮影期間は寂しく単身赴任です(笑)。でも、東京では帰宅後も、翌日の撮影や作品のことを考えてしまい、目の前にいる子供を直視できていない感覚がありました。日に日に成長する彼らの日常を観察できるようになったことは、大きな収穫ですね」
瞳に優しい光を湛えて語る、充実の日々。都会を離れる不安はなかったのだろうか。
「どんな業種でもスピード感を求められる時代。よりしっかり仕事に向き合わないと、消えるだろうなという覚悟はありましたね。ライフスタイルの変化を肯定的に捉えてくれるパートナーたちに支えられ、俳優を続けられています。ただ、田舎でも一日はあっという間。今はちょうど、種から育てているトマトの苗づくりに忙しくて。狩猟免許をもつハンターとして畑の見廻りにも参加しています。捕獲した動物の肉は解体してすべて使いきるのですが、命をいただく過程を体験すると、必要以上に食べなくなる。『足るを知る』は、物や仕事、時間の使い方にも通じるもの。各々が自分の満足する量を知り、知恵も糧も労働力も与え合う地域の人々から生き方を学んでいます」
廃棄される獣皮に価値を次世代に負担を残さない社会へ
田舎に移住し、捕獲された獣の一部は食肉になるものの、皮は廃棄されている現実を目の当たりにし、松山さんが立ち上げたのがライフスタイルブランド"momiji"だ。モミジとは鹿の別称。獣皮を資源として利活用している。
「命と対峙する難しい社会課題ですが、何もしなければ次の世代に問題を先送りしてしまう可能性があります。ハンターや農家、研究者といった方々の経験知は貴重で、よくお話をうかがっています。鹿などの害獣と呼ばれている動物以上に影響を与えているかもしれない僕たちも自然のサイクルの一部。人間の生活を守るための駆除で終わらず、共生の中でお互いの大切な命を活かし、廃棄によるコストやCO2排出を減らす役割を担いたいなと」
人も自然のサイクルの一部。共に生み出し、共に生きていく
自ら企画書をつくり、人の縁を頼りに製作パートナーを開拓。職人と試作を重ね、環境負荷の低い技術の開発にも力を入れる。
「責任あるものづくりで、いかに長く愛していただけるかをみんなと追求しています。ずっと企画に携わっていると、何かと何かをつなげるという発想ができるように。台本という土台に表現を重ねていく俳優業にも、プラスに作用する実感がありますね」
今夏は画家、俳優、高齢者や子供、障がい者、こもりびとなど、多様な15名のアーティストと、アートTシャツ制作プロジェクトを始動。利益の一部を彼らに還元する試み。
「みなさんとお話しさせていただいて感じたのは、カテゴリから解き放たれて自分に自信がもてる表現の場として、"momiji"があればいいということ。いずれは農業と福祉を連携して、加工食品も手掛けたくて。自然と人が共に生きる新たな循環を生み出していけたら」
■和光『モミジ アーティストコレクション』
6/15(木)~28(水)まで、銀座・和光 本店4階にて『モミジ アーティストコレクション』を開催。
約70種のデザインからその場で選んでプリントできるアートTシャツづくりのほか、ジビエレザーアイテムのオーダーも可能。
イベントに関する最新情報はインスタグラムでチェックしてみてください。
期間:2023年6月15日(木)~28日(水)まで
営業時間:11:00〜19:00(年末年始を除き無休)
場所:和光 本店4階
住所:中央区銀座4丁目5-11(東京メトロ銀座駅 A9・A10出口より徒歩すぐ、B1出口直結)
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- TEXT :
- Precious.jp編集部
- PHOTO :
- 生田昌士(hannah)
- STYLIST :
- 五十嵐堂寿
- HAIR MAKE :
- 五十嵐将寿
- WRITING :
- 佐藤久美子