芸能界の「おやじ」ながらも、時間や距離を感じさせない関係!
舞台『ライフ・イン・ザ・シアター』は、ベテラン俳優ロバート(堤 真一)と若手俳優ジョン(中村倫也)による、「劇場」を舞台にした二人芝居。1977年からアメリカ、イギリス各地での公演を経て、日本では1997年(石橋蓮司、堤真一)、2006年(市村正親、藤原竜也)、2022年(勝村政信、高杉真宙)に上演され、今回が4度目の再演。見どころは、年の離れたふたりの俳優の、時間とともに変化するパワーバランス。それはユーモラスでもあり残酷でもあり…。では、22歳差の堤 真一さんと中村倫也さんのバランスは?
後輩たちには、気兼ねすることなく、伸び伸びできる環境をつくりたい(堤さん)

――Vol.1では堤さんから、演じるロバートの「若者に対する対抗意識」という言葉が出ましたが、リアルな俳優同士ではそのような意識はあるのでしょうか。
堤さん(以下敬称略):ないない、全然ないです。共演によって、お互いに刺激を受けることはあるけれど、どっちがキャリアが長いとか、年が上だとか下だとか、仕事をするうえで意識することがないんです。でも、僕らが俳優を始めたころは今と違って、舞台をやっている人たちの熱がすごくて、確かに怖い人もいましたね。かつて学生運動を経験した人もまだいたころでしたから。
中村さん(以下敬称略):思想と舞台が密接だった時代がありましたからね。
堤:その頃、僕なんて「おい若造、どんな芝居するか見てやろう」みたいな雰囲気でにらまれて、萎縮してました。本当に怖かった。それだけに、今の若い人たちが伸び伸びとやっているのを見るとうらやましかったり、うれしかったり。だから、若い人たちには気兼ねをすることなく、伸び伸びできる環境をつくってあげたいという気持ちがあるんです。
ただ、対抗意識はなくても、ときどき若い人とどう接していいのかわからないときがあると、そんなときは、あえて会話に入らない。かといって、僕がずっと黙っていると、なんとなく空気が重たくなってしまうし、周囲に気を使わせてしまいそうで難しい。僕もね、もう60…いや61歳ですからね。
中村:僕もおびえながら芝居をやっていた経験、あります。ときどき怖い演出家の方がいらっしゃいましたが、そういうのを経験したぎりぎり最後の世代じゃないでしょうか。そういう僕も最近、年下の俳優と仕事をすることが多くなって、堤さんとまったく同じ気持ちです。対抗する意識はないし、伸び伸び好きにやってほしいと思います。そのときに、先輩である僕が黙っていると空気がピリついてしまうから、あえてチョケたりもして。
堤さんは、まとわない、肩肘張らない、そしてオープンマインド(中村さん)

――おふたりは2009年公演の舞台『バンデラスと憂鬱な珈琲』で共演してからのおつきあいだそうですが、今までにお互いの変化は感じられますか?
堤:倫也はずっと変わらないですね。久しぶり会っても、なんだろうこの感じ…時間や距離を感じさせないというか。気を遣わないし、遣わせないし、親戚みたいな感じで、古田新太とかと同じような関係(笑)。つきあいに、やっぱり年齢は関係ないんですよね。
中村:僕が初めて堤さんにお会いしたときは、今よりも硬派なイメージでした。なんて言うか、ちょっと怖い人なのかなぐらいの心構えでしたから。ところが実際は関西弁の気さくなおっちゃんで、しょうもない下ネタが好きで(笑)。世間の堤さんのイメージも、同じように変わってきているんじゃないでしょうか。いろんなことしゃべってくれて、ちょっと面白くて。
堤:世の中にどう思ってもらおうかを、考えてやってるわけじゃないですけどね。
中村:人によってはプロ意識として、どうアウトプットするか考えて言動をつくっている人もいるわけですけど、堤さんは一切つくろわないし、肩肘張らないし、オープンマインドだし、それはずっと変わっていません。そして僕にとって堤さんは、ずっと芸能界の「父親的存在」。いや、「おやじ」かな。

――お芝居において、お互い影響を受けたことはありますか?
堤:初めて共演(※)したとき、倫也はまだ…。
中村:22、23歳でしたね。
堤:そのときからもう芝居が上手かったから何も心配なくて、僕たちは自分のことだけやっていればいいから、本当に助かったし、任せられた。何か埋めるべきことがあれば、きっと自分で見つけるだろうし。そんな安心感がありました。
中村:初共演の舞台では、演劇怪人みたいなスペシャリストばかりの中に放り込まれて。その中で僕は、ルールも何も知らない生まれたての赤ちゃんみたいなものでした。それでも、必死に覚えて必死にくらいついてやることが、楽しくて楽しくて。今でも、ただただ毎日楽しくやってるだけ、かもしれませんね。でも…自分が歳を重ねても、堤さんのスケール感は出せません。だから憧れ続けるんです。
堤:俺、スケールある? いやあ、小ちゃいなぁと自分で思うよ。昔の舞台役者の先輩たちは、舞台に立っているだけで、存在感があって本当にすごかった。軽やかにいることは案外だれにもできるんだけど、ドシっと根を張って舞台に立てるって、本当にすごいことだと思う。
中村:でも、堤さんには堤さんにしかない独特のものがありますよね。たとえばですけど、堤さんに当て書きでつくられたオリジナル作品を、のちに別の若手俳優で再演しようとしても、たぶんできないです。
堤:舞台のオリジナル作品というのは、書かれた時代が出ているからね。誰が演じるにしろ、時代の熱がこもった、つかこうへいさん(※)みたいな演劇って、もう生まれないのかもしれないなと思ったりもする。
中村:僕もそれ、ちょっと危惧しているんです。あれほどのスケール感、熱量とスピード感、ケレン味とで、終わってからお客さんが「そういうことだったのか」と気づくみたいな舞台。そういう作品を書く人が、いなくなっていくんじゃないかと。僕は物書きじゃないですけれど、なんていうか、もっといろんな作品が出てきてもいいなと思っています。
――と、ふたりの関係の話から、いつの間にか「舞台」に魅せられた者同士の話に移行。舞台に立つ身ならではの醍醐味をたっぷり語った模様は、次回Vol.3でお届けします。
※本記事は初出より変更がございます。
■舞台『ライフ・イン・ザ・シアター』9月上演開始!
現代アメリカ演劇を代表するデヴィッド・マメットの代表作。大御所俳優ロバート(堤真一)と若手俳優ジョン(中村倫也)のふたりが、舞台上をはじめ楽屋や舞台袖、廊下など、さまざまな劇場空間で、演劇界ならではの人間関係や本音を「二人芝居」で表現する。時間の経過と共に変化していく二人の心理的なパワーバランスは、ユーモラスでありながら時に残酷で…。
【東京公演】9月5日(金)~9月23日(火祝) IMM THEATER
【京都公演】9月27日(土)~9月28日(日) 京都芸術劇場 春秋座
【愛知公演】10月4日(土)~10月6日(月) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
【大阪公演】10月9日(木)~10月14日(火) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
【愛媛公演】10月17日(金)~10月18日(土) 愛媛県県民文化会館 サブホール
【宮城公演】10月25日(土)~10月26日(日) 多賀城市文化センター 大ホール(多賀城市民会館)
問い合わせ先
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- PHOTO :
- 高木亜麗
- STYLIST :
- 中川原 寛(堤さん/CaNN)、戸倉祥仁(中村さん/holy.)
- HAIR MAKE :
- 奥山信次(堤さん/B.sun )、Emiy(中村さん)
- WRITING :
- 南 ゆかり