平成時代と別れを告げた今こそ、平成のことを振り返るベストタイミング! イタ飯ブームを懐かしみながら、新しいイタリアンのトレンドも押さえておきましょう!
今回は、「ホットペッパーグルメ外食総研」上席研究員の有木真理さんに「イタ飯ブーム」の背景や、当時流行っていたメニュー、そして現在のイタリアンのトレンドを教えていただきました。
イタリア料理・イタリアンは、日本人のなかでどう変化したのでしょうか?
さらに、イタ飯ブームのシンボル的といわれているイタリアンの名店「IL BOCCALONE(イル・ボッカローネ)」の代表・岡さんに、当時と今の変化を伺いました。
平成バブル期といえば「イタ飯」ブーム!イタリアンはどう変化した?
バブル時代の「イタ飯」ブームの背景
いわゆる「イタ飯ブーム」といわれるのは、1980年代後半。このイタリアンが流行った背景を、有木さんに教えていただきました。
■1:バブル期との親和性が高かった
「イタリアンは、1980年代・特に後半のバブル期との親和性が高かったことが挙げられます。例えば『イタリアン=わいわいがやがや』でバブルの雰囲気にぴったり。
さらにバブル期は、男性が女性をエスコートするのが当たり前の時代でした。男性が失敗せず、カッコつけるために行くレストランとして、イタリアンがちょうどよかったと考えられます」(有木さん)
■2:雑誌の強い影響
「1976年創刊の『ポパイ』、1979年創刊の『ホットドック』などの雑誌の影響も大きかったと考えられます。当時は『男性が魅力的な女性を高級車に乗せ、アルマーニなどのイタリアブランドを身にまとい、高級レストランに行く』といったシーンが、かっこいい男性の象徴として誌面で取り上げられていたのです。
当時は、多様化している現在とは真逆で、みんなが雑誌を見て“真似る”という形で、トレンドが1本化される傾向が背景にあったと思われます」(有木さん)
■3:メニューが分かりやすかった
「フレンチはマナーやメニュー、ワインの注文の仕方など、ちょっと難易度が高い一方、イタリアンはメニューが分かりやすく、値段も安すぎず高すぎず。またフレンチのようにかしこまらないけど洒落ており、“こなれ感”もありました」(有木さん)
■4:料理番組でイタリアンの有名シェフが取り上げられた
「その後も、フジテレビ系列の『料理の鉄人』やその他の料理番組で有名シェフが取り上げられ、一気にイタリアンブームになりました」(有木さん)
イタ飯ブームのど定番メニューとは?
有木さんによると、当時、次のメニューが特に流行っていたといいます。
■1:パスタ
「『スパゲティ』から『パスタ』へと表現が変わったのもこのころです。喫茶店の和製パスタとしてのミートソース、ナポリタンだけではなく、カルボナーラ、ペペロンチーノなどにも注目が集まるようになりました」(有木さん)
■2:カルパッチョ・カプレーゼ
「カルパッチョやカプレーゼは、味が日本人でもなじみやすかったことから、人気メニューとなりました」(有木さん)
■3:ティラミス
「イタ飯ブームといえば、ティラミス。雑誌『Hanako』で紹介されたのがもとになり、空前のティラミスブームが起こりました」(有木さん)
そして、イタ飯ブームを牽引していたイタリアンのお店について、有木さんは次のように話します。
「当時は『IL BOCCALONE(イル・ボッカローネ)』や『Piccolo Grande(ピッコロ グランデ)』のような、かっこいいトラットリアが一躍人気に。
なかでも、ちょっとカジュアルでかっこいい“イル・ボッカローネ”と、クラシックでちょっとかしこまって行く“CHIANTI(キャンティ)”がイタリアンの2大巨頭だったのではないでしょうか」(有木さん)
イタ飯ブームの象徴的存在「イル・ボッカローネ」はどう変化した?
有木さんのお話にも登場したイル・ボッカローネは、イタ飯ブームが巻き起こった当時、ブームを牽引し、そのシンボル的存在となっていた恵比寿にある名店。
イル・ボッカローネの現在のメニューは、イタ飯ブームが起きていた最中のメニューから、どのように変わったのでしょうか? 代表の岡さんにうかがいました。
「平成元年のオープン以来、30年経った今も、大半のメニューに変更はございません。時代に応じて味の調整に多少の変更はあるものの、看板の料理から付け合わせのサイドに至るまで当時とあまり変わらぬ構成、内容になっております」(岡さん)
今でも変更がないとは驚き! ただ、変化したことはあるようです。
「『食べ方』については変化を感じます。オープン当初は中流層が中心でしたが、この30年で景気の停滞によって若年層の平均消費量は落ち、格差によって注文内容も、高単価のコースメニューと低単価の単品メニューに二極化したことが、この30年で大きく変化した点のように感じます」(岡さん)
岡さんによると、二極化しているのは、価格や注文するメニューだけでなく、レストランでの過ごし方にもみられるといいます。
「今はイタリアンといっても、食前酒、前菜、パスタ、食中酒、メイン、ドルチェ、食後酒といった流れで注文され、スタッフともコミュニケーションをとりながらゆっくりと食事を楽しまれるお客様がいらっしゃる一方、『ハレの日』に多くご利用になり、手軽にスピーディーにいただける単品のパスタなど、ライフスタイルに合わせて効率的に短時間で利用される方もいらっしゃいます。
イタリアンの業界もこの動きに合わせて、富裕層向けに会員制やコースのみの提供のお店などと、単品提供・専門店化によってカジュアルな利用を目指す店などに二極化しています。お客様、店舗、それぞれの立場で二極化が顕在化しているのが、この30年での大きな変化だと思います」(岡さん)
近年のイタリアンのトレンド
「イタ飯」はすでに古い言葉になっていますが、イタリアンはいまだに健在。有木さんに、今現在のイタリアントレンドの傾向について教えていただきました。3つのキーワードがあるようですよ。
■1:細分化
「肉専門のイタリアン、魚専門のイタリアンなど、素材により細分化しています。魚は『ボガマリ・クチーナ・マリナーラ』というお店が代表的です。肉は“肉イタリアン”と題し、多数の店舗が存在します。また、ローマ、フィレンツェなど地方による細分化も見られます」(有木さん)
■2:地方イタリアン
「東京のほか、地方のイタリアンレストランも人気です。イタリアンだけではないですが、近年は地方食材に魅了されるシェフ、自身の地元を大事にするシェフが増えているように思います。
お店の例としては、長野の『フォリオリーナ・デッラ・ポルタ・フォルトゥーナ』、鹿児島の『カイノヤ(cainoya)』、沖縄の『BACAR(バカール)』など。また鎌倉のイタリアンも人気です」(有木さん)
■3:イタリア野菜
「埼玉や沖縄などでイタリア野菜がつくられています。またイタリア野菜を代表するズッキーニやハーブなど、昔から日本に流通しているものは、栽培数が増えたからか、安価になっています。また日本では見ることのなかったイタリア野菜の栽培も始まっています」(有木さん)
イタ飯ブームが起きていた当時は、まだイタリアンは新鮮で、あのおしゃれな雰囲気にうっとりしていた、という方は多いのでは?
そして今はうって変わって、細分化や、地元野菜を楽しめる地方イタリアンや素材の追求にまで発展し、イタリアの食そのものを味わうようになったようです。
あの時代から、幾度となく味わってきたイタリアン。平成が終わる今、当時の味を楽しんでみて、令和になったら新しいイタリアンを楽しんでみるのもよさそうです。
問い合わせ先
- IL BOCCALONE TEL:03-3449-1430
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 石原亜香利