一生忘れられない、魂を揺さぶられたコレクション
■1:衝撃が走った「マイ・ファースト」コレクション
忘れられないコレクションは数え切れないほどあるが、もちろん最初に見たコレクションは、感動と衝撃でこれがパリコレクションかと震える思いで見たのを覚えている。
’90年代の初頭、当時シャネルのミューズであったイネス・ド・ラ・フレサンジュが、煙草を燻らせながら、余裕の笑みを浮かべステージでゆっくりウォーキングした(今はあり得ないステージ上のタバコ、コレクション会場は禁煙です)ときの、肩の力を抜いた感じが、いかにもパリの洗練と成熟した女性を感じさせ、その大人の雰囲気に初めて飲んだシャンパンのように酔ってしまい、ぼんやりと熱気に曇った頭を抱えながら、やたら高揚していたのを覚えている。
ツィードのジャケットを着たパンツ姿のイネスの姿が、今も目に鮮やかに蘇ってくる。
■2:ファッションがアートと化した「ベルトコンベア」コレクション
カールといえばアートとの関係性が常に存在する。「アート」をテーマにしたオブジェを置き、会場を美術館に見立てたコレクションも大好きだった。
だが、その前にも、ベルトコンベアをまるで空港のバゲッジコントロールのように見立てて、会場に設置。黒いピラピラのカーテンから、モデルがマネキンのようにポーズをつけて登場し、そのまま一周し、黒のカーテンの中に消えてゆく…という演出のダイナミックさと前衛性には、圧倒された。
まるで回転寿司のようにシャネルの服が現れては、去ってゆく。当時は回転寿司が、ヨーロッパではポップな文化として注目されていて、スノッブな回転寿司店が、高級ブティックに併設されていたりした。
その同時期、ヨーロッパの知的階級を震撼させていた、日本のパフォーマンスアーティスト「明和電機」のベルトコンベアアートへの強い関心もあったのではないか、と推測している。
アートには常に広く門戸を開放して吸収するカールの近作では、リプラントできる森を背景に見せたコレクションがあったが、これも日本の建築家である石神純也の「水庭」に共通する思想が感じられた。
石神さんにその話をした時に「カール・ラガーフェルドから食事に自宅に呼ばれて、その話をしましたよ」と聞いたので、ふたりのアーティストの間には、刺激し合う何かが確実に存在したと感じた。
そしてカール・ラガーフェルドは、シャネルでは、ユーモアあふれたセンスで、カールの刻印をしっかりと刻み、シャネル以外の何物ではないものに昇華させていた。
■3:ゴージャスなイメージを決定づけた「カールとスーパーモデルの関係」
イメージを決定づけたのは、何よりも’90年代を駆け抜けた、スーパーモデルの存在だ。思い出に残るコレクションというより、シャネルとカール・ラガーフェルドのゴージャスなスーパーモデルたち…リンダ・エバンジェリスタ、シンディ・クロフォード、クリスティン・ターリントン、ナオミ・キャンベルらだ。
ステージに現れるだけでも華やぐのに、当時の演出は三人一緒のウォーキングなど、ゴージャス×3または×2が主流で、華やかさがあふれんばかりであった。
女優顔負けの美貌と、スタイルも良いサラブレッドのようなスーパーモデルとシャネルは、これ以上のインパクトはないほどの好相性。まさにお互いが絶対的な引き立て役であり、その中心には必ずカールがいた。
ココ・シャネルと同じように、数々の金言を残したカール・ラガーフェルドの言葉の中で、私が最も好きな言葉を、これからも心に刻んでゆきたいと思う。
「恥ずかしくない容姿は、人々にあなたの内面に、より興味を持たせる後押しをする」
逆説的でもあり、なんという、うんちくに富んだ言葉だろうか。
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- TEXT :
- 藤岡篤子さん ファッションジャーナリスト
- PHOTO :
- (C)CHANEL、Getty Images
- WRITING :
- 藤岡篤子
- EDIT :
- 石原あや乃