過日、アブルッツォ・ワイン生産者組合に招かれて、3日間じっくりとアブルッツォ・ワインの現場を見て回る機会に恵まれた。これはモンテプルチアーノ・ダブルッツォという赤ワインのDOC(統制原産地呼称)制定50周年を記念し、アブルッツォ州やEUが連携し、世界中からジャーナリストを招待。近年品質の向上が目覚ましいワイン生産の現場を見てもらうという一大キャンペーンが繰り広げられているのだ。

今夏はアブルッツォ・ワインに注目!

世界各国からジャーナリストが集まったアブルッツォ・ワインを巡るプレスツアーの様子。
世界各国からジャーナリストが集まったアブルッツォ・ワインを巡るプレスツアーの様子。

アブルッツォ、というとイタリア料理、イタリア・ワイン好きなら聞いたことがあるかもしれないが観光目的でイタリアを訪れる人にはあまり縁のない土地かもしれない。

しかしアブルッツォ州は総面積108万平方キロ(岐阜県とほぼ同じ)の36%が3つの国立公園と1つの州立公園、30以上の自然保護区に指定されており、65%が標高750m以上の山岳地帯に位置する。

3000m近い山々に囲まれ、ヨーロッパで最も緑が豊かな州なのだ。特に山岳部はイタリアの中でも特にビオディヴェルシタ Biodiversita=生物多様性に富み、狼や猪、熊など多くの動物や高山植物などが生息している。緯度的には南イタリアに位置するので夏は暑いが冬の冷え込みは厳しい。この激しいコントラストがアブルッツォ・ワインを生み出す原動力になっているのだ。

標高1460mにあるカラッショ城塞から見たグランサッソ。標高3000m近く、山頂部は夏でも冠雪している。
標高1460mにあるカラッショ城塞から見たグランサッソ。標高3000m近く、山頂部は夏でも冠雪している。

代表的ワインにあげられるのは、まずDOCモンテプルチャーノ・ダブルッツォ。これはモンテプルチャーノ種を使った濃厚な赤ワイン。

従来から大量生産しても薄いワインにならないということで州外に売られていることが多かったが、近年では自ら瓶詰めして高品質のモンテプルチャーノ・ダブルッツォを作るワイナリーが多く誕生し、ビオディヴェルシタに恵まれていることからテロワールを前面に出したワインが作られるようになった。

また、同じモンテプルチャーノ種でスキンコンタクトをせずに作るロゼワイン、DOCチェラスオーロ・ダブルッツォもロゼワイン人気ともに品質の向上がめざましい。

また、アブルッツォはアドリア海に沿った海岸線が140Kmと長く、海の幸にも恵まれているため白ワインの生産も盛んだ。代表的白ワインはDOCトレッビアーノ・ダブルッツォ。

フレッシュで爽やか、デイリーワインとして多く消費されているが、長熟タイプで素晴らしいトレッビアーノを作るワイナリーも存在する。アブルッツォの白ワインは土着品種も面白く、ペコリーノは豊かな酸味があるが熟成すると豊満な果実味やスパイシーなアロマがあらわれる優秀な品種。

パッセリーナは酸が強く、中南部アブルッツォではこの品種でスプマンテを作っているのだ。今回訪れたワイナリーの中から3つのワイナリーを選んでみたので、もしこの夏レストランやワインショップで見かけることがあれば是非試してみてほしい。

1.ルイジ・カタルディ・マドンナ Luigi Cataldi Madonna

ワイナリー「ルイジ・カタルディ・マドンナ」4代目当主のジュリア。自分の名前をつけたペコリーノ100%を作っている。
ワイナリー「ルイジ・カタルディ・マドンナ」4代目当主のジュリア。自分の名前をつけたペコリーノ100%を作っている。

3000m近い山々が連なるグランサッソの麓、標高531mの小村オルフェーナにあるワイナリー。グランサッソの氷河からは冷涼な空気が流れ込み、ここでは真夏でも朝晩は肌寒さを覚えるほど。ゆえにぶどうは熟成がゆっくりで、特に白ぶどうは非常に凝縮したワインになる。

生産しているのはモンテプルチアーノ、トレッビアーノ、ペコリーノで、アブルッツォでいちはやくペコリーノ100%のワイン生産を始めたワイナリーでもある。4代目オーナー、ジュリアの名前を冠した「ジュリア」「スーパージュリア」はエキゾチックフルーツや柑橘系、スパイスといった複雑なアロマを持つコスパにもすぐれたペコリーノだ。

Azienda Agricola Luigi Cataldi Madonna

  • Azienda Agricola Luigi Cataldi Madonna TEL:0862-954252
  • Località Piano, Ofena(AQ)

2.ヴァッレ・レアーレ Valle Reale

「ヴァッレ・レアーレ」では4種類のDOCモンテプルチャーノ・ダブルッツォを試飲。同じぶどうでも畑ごとに個性が異なるワインだ。
「ヴァッレ・レアーレ」では4種類のDOCモンテプルチャーノ・ダブルッツォを試飲。同じぶどうでも畑ごとに個性が異なるワインだ。

一方ヴァッレ・レアーレは山岳地帯をさらに南へ10kmほど。アブルッツォでも最も自然な豊かな場所にあり、46haの畑全てがビオ認証を受けている。ポポリ、カペストラーノ、サンカリスト、サンテウサニオ、ヴィーニャ・デル・コンヴェントといった単一畑から作る、それぞれニュアンスの異なるDOCモンテプルチャーノ・ダブルッツォがとてもいい。

特にモンテプルチャーノ・ダブルッツォ・サン・カリストは雑誌「ジェントルマン」でイタリアの赤ワインTOP100で第7位に選ばれた優秀な赤ワイン。ブルーベリー、バルサミコ、クローブ、リコリスなどの香りと重厚なミネラル感で「これがモンテプルチャーノ・ダブルッツォの実力か!!」と驚くこと確実。

Valle Reale

  • Valle Reale TEL:085-9871039
  • Parco Nazionale della Majella, Contrada S. Calisto, Popoli (PE)

3.ザッカニーニ Zaccagnini

「ザッカニーニ」の熟成庫には、この地を愛した現代美術家ヨーゼフ・ボイスの写真が今も飾られている。
「ザッカニーニ」の熟成庫には、この地を愛した現代美術家ヨーゼフ・ボイスの写真が今も飾られている。

1978年創業当時は量り売り中心のワイン生産を続けていたが1992年からクオリティワイン作りへと路線変更。この30年あまりで急速に成長した「アブルッツォ・ドリーム」を実現したワイナリー。かつてこの地に暮らし、自然保護活動に従事したドイツ人現代美術家ヨーゼフ・ボイスはザッカニーニを愛し、カンティーナにはいまも写真はオリジナルボトルなど、多くの記念品が残されている。

DOCアブルッツォ・ペコリーノ「ヤマダ」はシトラスやグレープフルーTうなどフレッシュな酸が心地よい早飲みタイプの白ワイン。「ヤマダ」とは山と田園を愛するワイナリーの姿勢と同じだから、とあえて日本の名字から選んだという。DOCモンテプルチャーノ・ダブルッツォ・リゼルヴァ「サン・クレメンテ」はアルコール度数14.5%、15か月熟成の長熟タイプ。リコリスやブラックベリーのニュアンスは重厚かつ豊満。これはアブルッツォ山岳部の名物料理である羊の串焼き「アロスティチーニ」と一緒に飲みたい。

Zaccagnini

この記事の執筆者
1998年よりフィレンツェ在住、イタリア国立ジャーナリスト協会会員。旅、料理、ワインの取材、撮影を多く手がけ「シチリア美食の王国へ」「ローマ美食散歩」「フィレンツェ美食散歩」など著書多数。イタリアで行われた「ジロトンノ」「クスクスフェスタ」などの国際イタリア料理コンテストで日本人として初めて審査員を務める。2017年5月、日本におけるイタリア食文化発展に貢献した「レポーター・デル・グスト賞」受賞。イタリアを味わうWEBマガジン「サポリタ」主宰。2017年11月には「世界一のレストラン、オステリア・フランチェスカーナ」を刊行。