ひとり暮らしをしていた母の死

神奈川県・横浜市で輸入雑貨店を経営するマサ子さん(45歳、仮名)は、2015年10月に、東京・世田谷でひとり暮らしをしていた母を72歳で見送りました。

「なんとなく調子が悪いというので、病院に連れて行ったらすい臓がんと診断されたんです。見つかったときはかなり進行していて、亡くなるまではあっという間でした」

遺されたのはマサ子さんと3歳年下の妹。それぞれに家族はいますが、事務的な手続きや葬儀の手配などは、長女であるマサ子さんの手に委ねられました。

「母が亡くなったあとは区役所での手続き、葬儀や四十九日の法要の手配など、やらなければならないことに追われて、ゆっくり悲しんでいる暇もないくらい。納骨も終わって一息ついたと思ったら、税務署から『相続税の申告等についてのご案内』が届いたんです。あまりに突然のことで、頭が真っ白になりました」

まさか自分が...税務署からの書類に頭が真っ白に

「相続税の申告等についてのご案内」は、以前は「相続についてのお尋ね」と言われていたもので、相続税が発生する可能性のある人に税務署が送付する書類です。申告期限の4か月前をめどに発送されるので、手元に届くのは財産を残した人が亡くなってからおおむね6か月後です。

「相続税」は、亡くなった人の財産を受け継ぎ、その合計が一定額を超えた場合にかかる税金です。父母や祖父母などが残した土地や建物、預貯金などは、子どもや孫などの親族が受け継ぐのが一般的ですが、すべての人が課税対象になるわけではありません。なぜ、マサ子さんには「ご案内」が届いたのでしょうか。

 

「ご案内」とは、税務署からの「知っていますよ」というサインである

『身近な人が亡くなった後の手続のすべて』(自由国民社)の著者で、相続税に詳しい税理士の福田真弓さんは、「マサ子さんには相続税がかかる可能性があると税務署が判断したから」だといいます。

「税務署は、確定申告や生命保険の支払い通知などを通じて、個人がどの程度の資産をもっているかを大まかに把握しています。亡くなった人の家族などが『死亡届』を出すと、市区町村役場はその死亡と不動産の所有についての情報を地域の税務署に報告することになっています。

報告を受けた税務署は、日頃の情報収集活動から“この人は相続税の申告が必要な財産を持っている可能性がある”と判断すると、『相続税の申告要否検討表』などの書類を送って、実際の資産総額を確認してもらうように促しています。これがいわゆる『相続税の申告等についてのご案内』で、相続税がかかるかどうかを計算してもらい、申告や納税の必要がないかを確認しているのです」

税務署が把握している「プラスの財産」「マイナスの財産」とは

では、相続税の対象になる財産には、どのようなものがあるのでしょうか。

相続財産は、預貯金や有価証券、不動産など「プラスの財産」のほか、住宅ローンなどの借入金、未払いの税金など「マイナスの財産」も対象になります。

このほか、生命保険金や死亡退職金は「みなし相続財産」といって、実質的には相続財産と同じ価値があるとみなされるものの、特定の非課税枠が設けられているものもあります。一方、お香典、墓地・仏壇などは相続財産とみなされません。具体的には次のように分類されます。

◆プラスの財産

〇金融資産…現金、預貯金、有価証券(株式、投資信託、国債、社債など)
〇不動産…土地(宅地、外国の不動産など)、建物(自宅、貸家)、農地・山林、借地権
〇知的財産権…著作権など
〇その他…ゴルフ会員権・リゾート会員権、車・ヨットなどの乗り物、貴金属、宝石、書画、骨とう品、家財家具、電話加入権、庭園設備

◆マイナスの財産

〇負債…住宅ローン(団体信用生命保険に加入している場合は除く)、カードローン、未払いの医療費など
〇公租公課…未納の税金や社会保険料
〇葬儀費用…通夜、葬儀にかかった費用(香典返し、初七日、四十九日などの法要の費用は除く)
〇その他…損害賠償責任など

◆みなし相続財産

〇生命保険金…故人が保険料を負担して本人にかけていた保険契約で、受取人(遺族)に保険金が支払われる場合。
〇死亡退職金…故人の勤務先から支払われる退職金、弔慰金、功労金など3年以内に支給が確定したもの
※いずれも非課税枠がある

◆非課税財産

〇墓地・墓石・仏壇など
〇寄付財産…相続税の申告期限までに国や地方公共団体などに寄付した場合

このように、相続財産にはさまざまなものがあり、プラスの財産とみなし相続財産から、マイナスの財産や非課税財産を差し引いて、課税対象になる財産の額を計算します。

相続税の計算方法

「さらに、相続税には、“この金額までは税金をかけません”という基礎控除額(いわゆる非課税枠)があります。相続財産の合計が、この非課税枠の範囲内なら相続税はかからず、申告の必要もありません。マサ子さんに税務署から『相続税の申告等についてのご案内』が届いたということは、相続財産の合計がこの非課税枠を超えている可能性があるということです」(福田さん)

 

それでも、マサ子さんは腑に落ちない様子です。

「母の遺産といっても、実家は40坪ほどの土地と建物、それに預貯金が1000万円ほどあるだけです。とうてい相続税がかかるような財産とは思えないんですが、どうして私に『ご案内』が届いたのでしょうか?」

法改正で対象者が大幅に増える見込み

実は、2015年の税制改正で相続税も見直されて、基礎控除額が大幅に引き下げられたため、それまで相続税とは無縁だった人にも課税対象が広がっているのです。

では、2015年の税制改正で、相続税はどのように変わったのでしょうか。次回は具体的な改正内容について見ていきます。

>>【後編】2015年の改正で身近な税金に変わった相続税

PROFILE
福田真弓(ふくだ まゆみ)
1973年、神奈川県横浜市生まれ。青山学院大学経営学部卒。2003年1月に税理士登録。税理士法人タクトコンサルティングに入社し、富裕層への相続や事業承継対策を提案。2008年12月に独立。現在は、勤務税理士時代の資産税の経験をもとに、相続税・贈与税の税務申告をはじめ、会計税務やマネー全般に関する個別相談・提案業務などを行う。新聞記事へのコメント、雑誌の取材や記事執筆、講演、テレビ出演の実績も多数。共著の「身近な人が亡くなった後の手続のすべて」(自由国民社)が55万部を超えるベストセラーに。
この記事の執筆者
1968年、千葉県生まれ。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。医療や年金などの社会保障制度、家計の節約など身の回りのお金の情報について、新聞や雑誌、ネットサイトに寄稿。おもな著書に「読むだけで200万円節約できる!医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30」(ダイヤモンド社)がある。