時代は19世紀末。パリに集った若き芸術家たちは、これまでにない新しい絵画のあり方を模索していた。

アカデミー・ジュリアンに通うヴュイヤール、ドニ、ランソン、そしてピエール・ボナール。彼らは仲間のポール・セリュジエがゴーギャンから指導を受けたことを機に「ナビ派」を結成。独自の理想を掲げ、絵画だけでなく版画やポスター、挿絵などさまざまな分野で制作を試みた。

左から/『庭の女性たち 白い水玉模様の服を着た女性』、『庭の女性たち 猫と座る女性』、『庭の女性たち ショルダー・ケープを着た女性』、『庭の女性たち 格子柄の服を着た女性』
ピエール・ボナール 1890-91年 デトランプ/カンヴァスに貼り付けた紙、装飾パネル© RMN-Grand Palais( musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

ピエール・ボナールが『庭の女性たち』で表現した新たな美学

くつろぐ女性や戯れる子供など、近代の都市生活の諸相をフラットな色面で表す彼らは、現実の描写ではなく、装飾的な趣を重視し、同時に目には見えない心の内、精神や祈りも描き出そうとした。美しく装飾的でありながらどこか神秘的。それが「ナビ(=預言者)派」のスタイルだ。

ボナールが描いた『庭の女性たち』は、細長い画面が4枚並ぶ、まるで屏風のような作品。画面にたたずむ女性たちは優美な湾曲線を用いて表されている。その曲線と背景に描かれる植物文様が響き合い、華やかで装飾的な雰囲気が画面全体を覆う。四季を表す4作品が並ぶことで、構図もいっそうリズミカルに、それぞれの色調も際立っている。オルセー美術館が所蔵する本作は、ナビ派の思想を象徴する代表的作品でもある。

ボナールはその後、室内画を中心に油絵を描き、自らの画風を確立していく。若きころ、仲間と目指した理想があったからこそ、その芸術も花開いたのかもしれない。

ひとつずつの作品とともに、当時の時代の息吹を感じながら展覧会を楽しみたい。

 

■オルセーのナビ派展:美の預言者たち―ささやきとざわめき
会場/三菱一号館美術館
TEL:03-5777-8600
www.mimt.jp/nabis/
東京都千代田区丸の内2-6-2

この記事の執筆者
美術館での展覧会の企画、絵画鑑賞のワークショップなどを行う。画家の創作への思いや人柄、食の趣向などを探求、紹介し、芸術作品との新たな出会いを提案。絵に描かれた“食”のレシピ制作や画家の好物料理を自ら調理、再現し、アートを多角的に紹介している。近著『なにを食べているの? ミッフィーの食卓』ほか、『フェルメールの食卓 暮らしとレシピ』『セザンヌの食卓』『モネ 庭とレシピ』『ぼくはクロード・モネ絵本でよむ画家のおはなし 』(すべて講談社)、『浮世絵に見る 江戸の食卓』(美術出版社)など著書多数。 好きなもの:仏像、散歩、奈良、高松、温泉玉子、軽い鞄、歩きやすい靴
クレジット :
文/林 綾野
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