時代は19世紀末。パリに集った若き芸術家たちは、これまでにない新しい絵画のあり方を模索していた。
アカデミー・ジュリアンに通うヴュイヤール、ドニ、ランソン、そしてピエール・ボナール。彼らは仲間のポール・セリュジエがゴーギャンから指導を受けたことを機に「ナビ派」を結成。独自の理想を掲げ、絵画だけでなく版画やポスター、挿絵などさまざまな分野で制作を試みた。
ピエール・ボナールが『庭の女性たち』で表現した新たな美学
くつろぐ女性や戯れる子供など、近代の都市生活の諸相をフラットな色面で表す彼らは、現実の描写ではなく、装飾的な趣を重視し、同時に目には見えない心の内、精神や祈りも描き出そうとした。美しく装飾的でありながらどこか神秘的。それが「ナビ(=預言者)派」のスタイルだ。
ボナールが描いた『庭の女性たち』は、細長い画面が4枚並ぶ、まるで屏風のような作品。画面にたたずむ女性たちは優美な湾曲線を用いて表されている。その曲線と背景に描かれる植物文様が響き合い、華やかで装飾的な雰囲気が画面全体を覆う。四季を表す4作品が並ぶことで、構図もいっそうリズミカルに、それぞれの色調も際立っている。オルセー美術館が所蔵する本作は、ナビ派の思想を象徴する代表的作品でもある。
ボナールはその後、室内画を中心に油絵を描き、自らの画風を確立していく。若きころ、仲間と目指した理想があったからこそ、その芸術も花開いたのかもしれない。
ひとつずつの作品とともに、当時の時代の息吹を感じながら展覧会を楽しみたい。
■オルセーのナビ派展:美の預言者たち―ささやきとざわめき
会場/三菱一号館美術館
TEL:03-5777-8600
www.mimt.jp/nabis/
東京都千代田区丸の内2-6-2
- TEXT :
- 林 綾野さん キュレイター・アートライター
- クレジット :
- 文/林 綾野