「70代の父が祖父の遺産を相続。将来自分が困らない相続対策は?」

自分の親世代からの相続や、将来の自分が行うであろう相続について、損をしてしまうことやトラブルを避けるためにも、早めに準備しておきたいもの。相続に関する基本的な知識はもちろん、2018年に大改正された、相続法に基づく正しい知識を備えておいたほうが、人生が有利になること請け合いです。

そこで本シリーズでは全10回に渡り、相続・贈与・遺言のエキスパートである税理士の井口麻里子さんに、相続に関する素朴な疑問に答えていただきます。第6回目のテーマは「70代の父が祖父の遺産を相続。将来自分が困らない相続対策は?」です。

井口 麻里子さん
税理士
(いぐち・まりこ)税理士。辻・本郷税理士法人相続部に所属。富裕層の大規模な相続から、一般家庭のミニマムな相続、さらには国際相続まであらゆるケースに精通した相続・贈与・遺言のエキスパート。近年はあらかじめ作成すれば、要らぬトラブルを避けられる遺言の啓蒙に力を入れている。
井口麻里子のブログ

父が祖父から相続を受ける場合、ふたつの相続対策がカギ

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高齢の父が祖父から遺産を相続

自分の70代の父親が、90代で亡くなった祖父、つまり父親から見れば実父から遺産を相続しました。こうした高齢の親が相続を受けるケースは、今後ますます増えていくことでしょう。

将来、父親から相続を受ける際には、その相続財産も自分に関係してきます。井口さんに自分が行っておくべき相続対策を伺いました。

「今回は、70代の親世代の相続対策を考えてみましょう。財産の整理・処分と節税対策のふたつの観点からお話しします」

■1:「財産の整理・処分」をスムーズに行うポイント

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使う人がいない家は、早めに処分を検討したい

相続財産のうち興味がないものは早めに処分を

「祖父から父へと相続された財産のなかに、興味のないものがあったら、早めに処分しましょう。小判、刀剣、絵画、壺など、好きな人には価値があっても、興味のない人には不要なものがあります。これらは親が元気なうちに処分してもらうといいです。換金できるものは換金、引き取ってくれる人がいればあげてしまいましょう」

親の銀行口座はまとめてもらう

「使っていない口座はすべて解約する。3つくらいにまとめておくと、親にとっても管理が楽ですし、将来の、親から自分への相続の際も、手続きが格段に簡単になります。あまり使っていない口座が相続のときまで残っていると、その残高証明書の発行や解約の相続手続きに、各銀行を回らなくてはならなくなり大変です」

祖父の自宅は処分を検討

「祖父の自宅が残っており、使う人がいないなら、早めに処分を検討しましょう。不動産が残ると維持と手間が大変です。また親の相続の時期まで残っていると、再度、相続登記が必要となってしまいます。万が一、親が認知症になった場合には、取り壊すことも売ることもむずかしくなるので、親が元気なうちに、不動産をどうするつもりか、親に決断してもらいましょう」

■2:「節税対策」になる2大ポイント

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早めの節税対策を考えておきましょう

「祖父の財産を相続したら、その分、親の財産は大きくなっています。このまま親から自分への相続を迎えてしまうと、自分が払う相続税が大きくなるかもしれません」

親の相続財産を減らす

「このような場合には、親の財産を効率よく減らしていくことが相続対策につながるので、子、孫へ積極的に贈与してもらいましょう。複数人へ贈与を繰り返すことで、スピード感をもって財産を減らす効果があります」

相続税の特例を徹底的に使おう

「相続税の特例を駆使することで、節税対策になります」

・生命保険の非課税枠

「親が亡くなって、相続人が生命保険金を受け取る場合、500万円×法定相続人の数だけ非課税の枠があります。意外とこの枠を使い切っていない人が多いので、保険を見直してみてはいかがでしょうか」

・相続税の非課税財産を生前に購入しておく

「親が長男ではない、家を継いでいないなどの場合、新たに自分の墓を建てる必要があります。それならば、親の生きている間に墓地、墓碑、仏壇、仏具を購入してもらいましょう。これらは相続税の対象とならない非課税財産なのです。

合計500万円だとすると、500万円の預貯金が500万円の非課税財産になり、確実に親の財産を減らすことができます。親が亡くなってから子世代がこれらを購入すると、相続税を払ったあとの財産でこれらを購入することになります」

・家のリフォームをして二世帯住宅にしてもらう

「もし親と別居しているなら、親の自宅を二世帯住宅にして一緒に住むと大幅な相続対策となります。まず親に資金を出してもらって二世帯住宅にし、親の相続財産をその資金分だけ減らすとともに、価値の高い家屋を残してもらうことができます。家屋の相続税評価額は予想外に低いので、親の財産はかなり圧縮できます。

実は、この方法の一番のメリットは、親と同居していれば、親が亡くなった際に親の自宅敷地の相続税評価額を8割も減額できる『小規模宅地等の特例』を受けられる点です」


自分の高齢の親が相続を受けた場合、近い将来、自分にもその相続財産がやってくる日が来るということです。親のためにも、自分のためにも、ぜひ対策を行っておきましょう。

相続について学ぶ全10回シリーズ、明日は「生命保険は受け取るタイミングで相続税が変わるって本当?」という疑問にお答えしていきます!

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この記事の執筆者
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WRITING :
石原亜香利
EDIT :
安念美和子、榊原淳
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